なぜ再び転職活動を始めるのか?―中小企業へ転職した15名のインタビューから見えてきたもの―
本コラムは、インタビューにご協力いただいた方の個人情報に十分配慮し、個人が特定されない形で内容をまとめています。内容の共有についてはご本人の同意を得た上で、仮名や抽象化など必要な編集を行っています。
前回のコラムまで、大企業から中小企業へ転職した15名へのインタビューを通じて、転職後に彼らが経験する組織適応のプロセスを明らかにしてきた。インタビューの分析により、以下の3つの主要なプロセスがわかった(図表1)。
図表1 組織適応のプロセス
出所:筆者作成
多くの転職者が「リアリティ・ショック」などの危機を成長の機会に変え、プロセスに沿って新たな役割を見出していく一方で、残念ながら組織に馴染めず、「このままではいられない」「転職は失敗だったのではないか」という迷いの中にいる人もいた。本コラムでは、組織適応に至らなかった結果として、なぜ転職者が再び転職活動へ向かうのかについて、図表1のプロセスとの関係から整理していく。
再び転職を考える2つのフェーズ
もう一つは、入社後2~3年が経過した段階で生じるつまずきである。入社直後の危機は乗り越え、一定程度は組織に適応しているものの、決定的な出来事がないまま、時間の経過と共に中小企業という環境における成長機会の限界に直面し、将来への不安が蓄積していくケースである。これは、プロセス2にあたる「危機を成長の機会へ転換」がうまく機能しなかったケースと考えられる。
以下では、それぞれのフェーズについて、具体的な事例を見ていく。
プロセス1「ギャップによる心理的ショック」におけるつまずき
転職者が新しい職場に馴染めるかどうかは、入社直後のオンボーディングが鍵を握る。しかし、中小企業の中には、人員も制限され日常業務に追加される形で行われることも多く、体制が整っていないケースも少なくない。インタビューからは、物理的な準備不足や教育・研修担当の不在によって、転職者が入社早々に疎外感や不信感を抱いてしまう実態が浮かび上がってきた。
初日のオリエンテーションが準備されていない
上司に尋ねても事情がわからない中、声をかけてくれたのは総務で働く派遣社員だった。「いつパソコン来るの? 大丈夫?」「自分で取りに行かなきゃ駄目だよ」と教えられ、後藤さんは入社時の組織の受け入れ体制に強い違和感を覚えた。後藤さんはそのときのことを次のように話していた。
中途入社の教育・研修の担当が設定されていない
OJTやOff-JTといった教育の仕組みはなく、直属の上司も多忙で質問のタイミングを探すこと自体が難しかった。ようやく質問できても、「なんでそうなるの?」と否定されているように感じる返答が続いたという。
さらに、リモートワークやフリーアドレスといった制度も、入社間もない太田さんにとっては障壁となった。誰が出社しているのかわからず、顔と名前も一致しないため、質問相手を探すことすら容易ではなかった。
上司と2人だけの部署で、気軽に相談できる同僚もいない。太田さんは次第に、「正直、失敗だったかもしれない」と感じるようになり、再び転職活動を検討している。
プロセス2「危機を成長の機会へ転換」できなかったつまずき
経験・スキルを活かした成長機会が見出せない
担当業務を広げる機会が見つからない
組織適応プロセスにおける2つのボトルネック
これらが中小企業において深刻化しやすいのは、組織規模が小さく、異動や配置転換による「修正」が起こりにくい構造にある。入社時に生じた違和感や不信感は、関係性を組み替えることができないので解消されにくく、日常業務の中で持続・増幅されやすい。
また、一定期間を経て「次の成長」を求める段階に入っても、大企業のように定期的な部署異動や役割拡張のパスが制度化されていない環境では、部署異動や役割拡張の選択肢が限られる傾向となり、「危機を成長の機会へ転換」する道筋を描きにくくなる。その結果、精神的・肉体的な負荷ではなく、キャリア形成上の危機として停滞感が蓄積され、再び転職を検討するに至ると考えられる。
本コラムで見てきた事例は、いずれも転職後の組織適応がうまく機能しなかったケースと捉えることができる。入社前に組織のリアルな実態を全て把握することは極めて困難だが、こうした「つまずきやすいボトルネック」が潜んでいることを事前に認識していれば、転職後の向き合い方や自らとるべきアクションは変わってくるはずだ。次回のコラムでは、15名のインタビューから得られた知見を基に、これから大企業から中小企業への転職を考える人に向けて、転職者自身の言葉を手がかりに、現実的なアドバイスを整理していく。
岩出 朋子
大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
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