なぜ再び転職活動を始めるのか?―中小企業へ転職した15名のインタビューから見えてきたもの―

2026年03月17日

本コラムは、インタビューにご協力いただいた方の個人情報に十分配慮し、個人が特定されない形で内容をまとめています。内容の共有についてはご本人の同意を得た上で、仮名や抽象化など必要な編集を行っています。

前回のコラムまで、大企業から中小企業へ転職した15名へのインタビューを通じて、転職後に彼らが経験する組織適応のプロセスを明らかにしてきた。インタビューの分析により、以下の3つの主要なプロセスがわかった(図表1)。

図表1 組織適応のプロセス
図表1 組織適応のプロセス

出所:筆者作成

多くの転職者が「リアリティ・ショック」などの危機を成長の機会に変え、プロセスに沿って新たな役割を見出していく一方で、残念ながら組織に馴染めず、「このままではいられない」「転職は失敗だったのではないか」という迷いの中にいる人もいた。本コラムでは、組織適応に至らなかった結果として、なぜ転職者が再び転職活動へ向かうのかについて、図表1のプロセスとの関係から整理していく。

再び転職を考える2つのフェーズ

再度、転職を検討することになった経緯については、図表1のプロセスにおいて大きく2つのフェーズに分類できる。
 
まずは、入社直後のオンボーディング段階で適応が止まってしまうケースである。入社直後のオンボーディング(受け入れ)体制の不備により早期につまずき、それが引き金となって初期の不信感を拭えず、その後のギャップをどうしても埋めることができずに適応が止まってしまう状態だ。これはプロセス1にあたる「ギャップによる心理的ショック」を乗り越えられなかったケースと位置付けることができる。

もう一つは、入社後2~3年が経過した段階で生じるつまずきである。入社直後の危機は乗り越え、一定程度は組織に適応しているものの、決定的な出来事がないまま、時間の経過と共に中小企業という環境における成長機会の限界に直面し、将来への不安が蓄積していくケースである。これは、プロセス2にあたる「危機を成長の機会へ転換」がうまく機能しなかったケースと考えられる。

以下では、それぞれのフェーズについて、具体的な事例を見ていく。

プロセス1「ギャップによる心理的ショック」におけるつまずき

転職者が新しい職場に馴染めるかどうかは、入社直後のオンボーディングが鍵を握る。しかし、中小企業の中には、人員も制限され日常業務に追加される形で行われることも多く、体制が整っていないケースも少なくない。インタビューからは、物理的な準備不足や教育・研修担当の不在によって、転職者が入社早々に疎外感や不信感を抱いてしまう実態が浮かび上がってきた。

初日のオリエンテーションが準備されていない

大手インフラ企業から中小の不動産関連企業に転職した後藤拓実さん(仮名)は、初出社の日から戸惑いを覚えた。自分の席には、業務に不可欠なはずのパソコンが用意されていなかった。前職では、入社初日から必要なツールが整えられているのが当然だったため、想定外の出来事だった。

上司に尋ねても事情がわからない中、声をかけてくれたのは総務で働く派遣社員だった。「いつパソコン来るの? 大丈夫?」「自分で取りに行かなきゃ駄目だよ」と教えられ、後藤さんは入社時の組織の受け入れ体制に強い違和感を覚えた。後藤さんはそのときのことを次のように話していた。
 
組織に迎え入れられていないのではないか。この先、この会社でやっていけるのだろうかと、初日から不安になりました。
 
後藤さんは、その後も職場で問題が起こるたびに、「この組織は自分に無関心なのではないか」と、入社初日の出来事を思い出してしまうという。

中途入社の教育・研修の担当が設定されていない

太田圭祐さん(仮名)は、大手メーカーから中小のメーカーへ転職した。入社初日には人事制度の説明があり、パソコンも支給されるなど、形式的なオリエンテーションは実施された。しかし、肝心の業務については具体的な指示がなく、自身の役割を十分に理解できなかった。

OJTやOff-JTといった教育の仕組みはなく、直属の上司も多忙で質問のタイミングを探すこと自体が難しかった。ようやく質問できても、「なんでそうなるの?」と否定されているように感じる返答が続いたという。

さらに、リモートワークやフリーアドレスといった制度も、入社間もない太田さんにとっては障壁となった。誰が出社しているのかわからず、顔と名前も一致しないため、質問相手を探すことすら容易ではなかった。

上司と2人だけの部署で、気軽に相談できる同僚もいない。太田さんは次第に、「正直、失敗だったかもしれない」と感じるようになり、再び転職活動を検討している。

プロセス2「危機を成長の機会へ転換」できなかったつまずき

次に紹介するのは、入社後2~3年が経過した頃から、徐々にキャリアへの違和感が強まっていった事例である。一定程度は組織に適応しているものの、日々の業務の中で蓄積された違和感が、過去の自分と現在の自分を比較する思考へとつながっていく。

経験・スキルを活かした成長機会が見出せない

前出の後藤さんは、入社後3年が経過する中で、キャリアの停滞感に直面した。前職の過酷な労働環境を離れ、「ストレスの少ない環境」を求めて選んだ現在の職場だったが、業務に慣れるにつれ、変化のない日々に違和感を抱くようになったという。技術者として研鑽を積み、成長を実感できていた前職時代の自分を思い出しながら、現在の状況について後藤さんは次のように語っている。
 
今の会社にとどまれば、平穏な日々は約束されるかもしれない。でも大学を出て、いろいろ学んできて、前職でも成長してきたのに、今の会社では成長を感じない。自分のキャリアは、一旦ここで終わってしまったのかな。
 
35歳を目前にして、後藤さんは「もう一度、がむしゃらに取り組める場所に戻りたい」と、再び転職活動を始めた。

担当業務を広げる機会が見つからない

大手サービス業での過酷なノルマと長時間労働に疲れ、地元の製造工場の事務職へ転職した中西沙耶さん(仮名)は、現在、前職とは異なる種類の苦痛に直面している。前職では息つく暇もない毎日だったが、今の職場では午前中にその日の業務がほぼ終わってしまい、午後は時間が過ぎるのを待つだけの日々が続いているという。その状況について、中西さんは次のように語る。
 
体力的な負担はないですし、家からも近くて融通が利くので、小さな会社なりのよさはあるんです。社長も皆さん、よくしてくれます。ただ、時間がたつのが本当に遅くて……そこだけが、どうしても気になってしまって。
 
「楽でいい仕事だ」と感じたのは最初のうちだけだった。次第に、「このままでは何のスキルも身につかず、駄目になってしまうのではないか」という不安が募っていった。30代というキャリア形成にとって重要な時期に成長の機会を得られないことへの焦りから、中西さんは再び転職サイトに登録し、次の選択肢を探し始めている。

組織適応プロセスにおける2つのボトルネック

ここまで見てきたように、転職者が組織適応に至らず、再び転職活動へ向かう背景には、図表1のプロセスに対応する2つのボトルネックが存在していた。一つはプロセス1における入社直後のオンボーディングのつまずき、もう一つはプロセス2における成長機会の停滞である。

これらが中小企業において深刻化しやすいのは、組織規模が小さく、異動や配置転換による「修正」が起こりにくい構造にある。入社時に生じた違和感や不信感は、関係性を組み替えることができないので解消されにくく、日常業務の中で持続・増幅されやすい。

また、一定期間を経て「次の成長」を求める段階に入っても、大企業のように定期的な部署異動や役割拡張のパスが制度化されていない環境では、部署異動や役割拡張の選択肢が限られる傾向となり、「危機を成長の機会へ転換」する道筋を描きにくくなる。その結果、精神的・肉体的な負荷ではなく、キャリア形成上の危機として停滞感が蓄積され、再び転職を検討するに至ると考えられる。

本コラムで見てきた事例は、いずれも転職後の組織適応がうまく機能しなかったケースと捉えることができる。入社前に組織のリアルな実態を全て把握することは極めて困難だが、こうした「つまずきやすいボトルネック」が潜んでいることを事前に認識していれば、転職後の向き合い方や自らとるべきアクションは変わってくるはずだ。次回のコラムでは、15名のインタビューから得られた知見を基に、これから大企業から中小企業への転職を考える人に向けて、転職者自身の言葉を手がかりに、現実的なアドバイスを整理していく。

岩出 朋子

大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。

関連する記事