企業数の増減と人件費、生産性の関連を検討する

2026年03月13日

問題意識

以前のコラムでは、三大都市圏を除く地方圏において、「企業数は減少しているが、一人あたり人件費と売上は上昇している」という現象を指摘した。また、都道府県別の分析から、人件費を上げているほど従業員数が減少し、逆にソフトウェア投資を増やしているという相関関係が確認された。この結果からは、各企業の生き残りを賭けた生存戦略が浮かび上がってくる。

具体的には、離職抑制や採用充足には人件費をアップする必要があるが、人件費をアップしたからといって採用が成功するわけではない(※1)。ゆえに、ソフトウェア投資を拡大し、省人化や効率化により、生産性の維持・向上に向けた取り組みを進めているといった状況が想定される。

こうした結果について、これまでは記述統計や図表による可視化を中心に論じてきたが、本稿では、企業数の増減と人件費、生産性(売上)の関連が統計的にも裏付けられるかを検討する。以降、総務省・経済産業省の経済センサス(活動調査)の都道府県・産業別パネルデータを活用した分析結果を紹介する。

分析データの確認

本稿で用いる経済センサス(活動調査)は、各都道府県・各産業のデータが2012年、2016年、2021年の3年分蓄積されたパネルデータになっている。詳細は以下の通り。

【データ】
・経済センサス(活動調査)
・2012年、2016年、2021年の3年分
【変数】
・目的変数: 一人あたり人件費(給与 + 福利厚生費)、一人あたり売上
・説明変数: 企業等数、従業者数、一社あたりソフトウェア投資額
【分析】
・固定効果モデル(※2)
・各都道府県・産業および年(2012年、2016年、2021年)の固定効果あり
・分析結果を%の変動で示すこと、たとえば企業等数がX%変動し、一人あたり人件費がY%変動したといった解釈をするため、各変数は対数変換を行った
・p値<0.05の場合に、統計的に有意であると判断した

分析結果—記述統計

分析に用いたデータについて、都道府県ごとの記述統計を改めて行った。なお、本結果については前回までのコラムでも言及してきたものなので、関心に応じて次の章に移っていただきたい。

以下は、都道府県ごとの企業等数を図示したものである。東京都が突出して多く、大阪府、愛知県などが続く。

図表1 都道府県別企業等数

企業等数以下は都道府県別の一人あたり人件費である。こちらも東京都が突出して高い。

図表2 都道府県別一人あたり人件費

一人あたり人件費
最後に、都道府県別の一人あたり売上を確認した。同じくこちらも東京都が突出している。その意味では、企業等数、人件費、売上の全てが東京に集中していることが確認できる。

図表3 都道府県別 一人あたり売上

一人あたり売上

分析結果—企業数、人件費、売上の関連

図表4には、企業等数と一人あたり人件費、一人あたり売上の関係を固定効果モデルで分析した結果を示している。

一人あたり人件費について確認すると、企業等数のみが統計的に有意な結果を示した。回帰係数および標準誤差はβ=-0.109(0.031)であり、符号がマイナスなので、企業等数1%の減少に対して一人あたり人件費0.109%の上昇という解釈になる。企業数の減少が人件費を押し上げるといった因果推論的な解釈は難しいが、企業等数と人件費はマイナスの方向に関連し合っていることが統計的にも裏付けられた。一方、従業者数や一社あたりソフトウェア投資額と一人あたり人件費の間に関連は確認されなかった。

次に、生産性の代理指標として設定した一人あたり売上については、企業等数、従業者数は有意な関連を持たず、一社あたりソフトウェア投資額のみが有意な結果を示した(β=0.040(0.013))。一社あたりソフトウェア投資額1%増加に対し、一人あたり売上0.04%の増加につながっている。

図表4 企業等数、従業者数、一社あたりソフトウェア投資額と、一人あたり人件費、一人あたり売上の関連

企業等数、従業者数、一社あたりソフトウェア投資額と、一人あたり人件費、一人あたり売上の関連の図表

企業が減ることは何につながり、何につながらないか

ここまでの分析を総合的に考察する。

まず、前回までのコラムでは記述的に、企業等数の減少と人件費および売上の増加が関連し合っているのではないかと論じてきた。しかしながら、本稿での固定効果モデルを用いた分析から確認されたのは、半分正解、半分間違いといった結果である。すなわち、企業等数の減少は人件費増加と関連を持つが、売上(生産性)増加とは関連を持っていなかった。

こうした実態の背景には何があるだろうか。労働供給制約下において必要な人員を確保できなかった場合、その企業は事業継続が困難になっていく。実際、帝国データバンク(2026)の「人手不足倒産の動向調査(2025年)」では、2025年の人手不足倒産が427件となり、3年連続で過去最多を更新したことが報告されている。また、小規模事業者を中心にした「賃上げ難型」の人手不足倒産が高水準で発生するのではないかとも指摘されている。

この状況では、倒産には至らなくとも、限られた人員数で事業を継続することに困難を抱える企業、事業者も多いだろう。

必要な人員数を確保するためには、離職抑制の目的も含め、人件費を上げる必要がある。人件費が上がれば人が集まりやすくなるだろうが、人件費アップができない企業は人が集まらず、あるいは離職し、縮小や撤退を余儀なくされる。これが結果的に、企業等数の減少と人件費の増加といった上記の分析結果にリンクしている。一方、企業等数の減少はあくまでも人員確保のための論点であり、生産性との関連は持たないことが今回の分析から明らかになった。すなわち、企業や事業を維持するには人が必要だが、強くなるためには、労働供給制約を前提にした資本投資が必要だということである。

言い尽くされていることではあるが、人が減る、採用はできない前提で、企業が強くなるための省人化、効率化を改めて本気で考えていかねばならない。

(※1)リクルートワークス研究所(2026)「中途採用実態調査(2026年度見通し、2025年度上半期実績 正規社員)」によると、2026年度の中途採用見通しが「増える」と回答した企業は19.7%、「減る」と回答した企業は5.9%であった。5年連続で、「増える」が「減る」を上回っている。また、2025年度上半期に必要な人数を確保できた企業は41.5%にとどまっている。
(※2)  パネルデータ分析で用いられる手法の一つである。今回の分析でいえば、都道府県・産業ごとの事情や年による共通の効果を除去し、各説明変数の純粋な効果を捉えることを目指している。

参考文献
帝国データバンク(2026) 人手不足倒産の動向調査(2025年)https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260108-laborshortage-br2025/ 
リクルートワークス研究所(2026) 中途採用実態調査(2026年度見通し、2025年度上半期実績 正規社員) https://www.works-i.com/surveys/report/20260209_midcareer.html 

中村 星斗氏

筑波大学 働く人への心理支援開発研究センター 客員研究員。重工メーカーでの人事職を経て2016年2月にリクルートグループへ入社。適性検査の営業、品質管理・開発、雇用・労働に関する調査研究に従事。リクルートワークス研究所では大卒求人倍率調査をはじめ、就職活動や新卒採用に関する調査・研究を担当。2021年3月筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。2023年4月より岡山大学大学院医歯薬学総合研究科に在籍。

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