地方で企業が減ることは本当に悪いことなのか

2026年01月19日

問題意識

本コラム連載の主たる問いは一貫して「労働供給制約時代に、企業数が減少することにはどのような意味があるか」である。前コラムの「企業の『数』から地域経済を見る」では記述統計を中心に、大都市部で企業・事業所数が増加している一方、地方部では減少傾向にあることを報告した。また、「企業の『数』と『場所』から地域経済を考える――岩手県のケース」では、岩手県に焦点を当てた分析から、都道府県間で生じている都市部での企業増加、地方部での企業減少は、都道府県内でも生じている可能性があることが示唆された。

本稿の目的は、そうした企業数の変動が人件費や生産性とどのように関連しているかを、都市部と地方部に分けて検討することにある。なお本稿では便宜上、三大都市圏(※1)を都市圏とし、それ以外の道県は地方圏に分類する。また分析用データにはこれまで同様、経済センサスの活動調査を用いる。

企業数の減少は「衰退」のサインなのか?

帝国データバンクの「倒産集計 2025年度上半期(4月~9月)」(帝国データバンク 2025) によると、2025年度上半期の倒産件数は5146件であり、2021年度下半期(2978件)以降、8期連続で増加している。こうした企業の撤退は、人々の暮らしに直接的な影響を及ぼす場合がある。たとえば農林水産政策研究所がまとめている食料品アクセス困難人口(※2)(農林水産政策研究所 2024)は、三大都市圏、地方圏ともに増加傾向にある。食料品へのアクセスは商店街などが担う大切な役割の一つであるが、商店街の機能は購買機会の提供にとどまらず、治安や防犯への寄与、地域情報の発信など多岐にわたる(全国商店街振興組合連合会 2025)。このように、地域に存在する企業や事業所は、地域コミュニティの一員としてさまざまな面でまちを支えているため、企業数の減少は地域における機能の低下につながる。こう考えると、企業数の減少が一部、衰退のニュアンスを持つことは否定できないだろう。

では、企業数が減少することには、本当に否定的な意味合いしかないのだろうか。経営的な合理性を欠く場合、民間企業がその地域で事業活動を継続することは難しい。労働供給制約下における人件費の高騰や、物価上昇が経営を圧迫するなか、生産性の向上を伴わない無理な事業継続は賃金抑制につながる懸念もある。逆に、もし企業数が減少していたとしても、賃金が上昇し、生産性が向上しているのであれば、そこには衰退以外の積極的な意味合いがあるとも考えられる。

地方圏では企業数が減少しているが人件費と生産性の伸びは大きい

図表1は、2012年と2021年の経済センサス活動調査についての記述統計である。都市圏では2012年から2021年にかけて企業等数が2.8%増加しているが、地方圏では4.7%減少している。一方、一人あたり人件費は都市圏で3.2%上昇しているのに対して、地方圏では8.9%上昇している。また、生産性の代理指標として用いた一人あたり売上について確認すると、都市圏では8.2%上昇しているのに対して地方圏では17.8%の上昇であった。

これらの分析には解釈上の注意もあるが(※3)、地方圏の一人あたり人件費の変化率は都市圏の2.8倍、一人あたり売上の変化率は都市圏の2.2倍となっている。つまり、企業数は減っているが、人件費は増え、生産性も向上している。地方は強くなっていると考えられないだろうか。

図表1 都市圏区分ごと 経済センサス 各指標の記述統計および変化率
都市圏区分ごと 経済センサス 各指標の記述統計および変化率

人手不足と賃金上昇が「労働から資本へ」の転換を加速させる

こうした状況の背後には何があるだろうか。図表2は、各都道府県における一人あたり人件費の変化率と従業者数の変化率の相関係数を示している。また図表3は、各都道府県における一人あたり人件費の変化率と一社あたりソフトウェア投資額の変化率の相関係数を示す(※4)。変化率はいずれも2012年から2021年での値を用いている。この分析から、大きく次の2点がわかる。

第1に、図表2を見ると、一人あたり人件費の変化率と従業者数の変化率の間に負の相関関係がある都道府県が多い。この結果には2つの解釈が考えられる。1つめは、人件費が上昇するほど経営上の負担が大きくなり、結果として採用が抑制的になるというものである。もう1つは、労働供給制約下では採用したくても充足せず、人材流出の抑制のために人件費だけが上昇しているというものである。

第2に、図表3を見ると、一人あたり人件費が上昇するほど、一社あたりソフトウェア投資額が増加している(つまり、相関係数が正の)都道府県が多い。

これらをまとめると次のように考えられる。すなわち、足りない人員を埋めるために人件費アップを行うが、利益圧迫や採用難度の高さから人員拡大は難しい。そして、そうした企業ほどソフトウェア投資を増やし、労働だけではなく資本によっても生産性を向上させ、事業を継続している可能性がある。この結果が、地方圏における売上上昇の一因になったのではないだろうか。

図表2 都道府県別一人あたり人件費の変化率と従業者数の変化率の相関係数(2012年→2021年)
都道府県別一人あたり人件費の変化率と従業者数の変化率の相関係数図表3 都道府県別 一人あたり人件費の変化率と一社あたりソフトウェア投資額の変化率の相関係数(2012年→2021年)
都道府県別 一人あたり人件費の変化率と一社あたりソフトウェア投資額の変化率の相関係数(2012年→2021年)

地方圏の適応と、その先の展望

今回の分析からは、厳しい労働供給制約下において、地方圏の企業が資本(ソフトウェア)投資にも注力し、限られた人員で事業を営んでいこうとする姿が見られた。企業数が減少する一方、一人あたり人件費と売上が向上している事実は、地方経済が衰退しているのではなく、生き残りをかけた質の向上へ向かっていることを示唆する。

しかしながら、こうした分析から見える事実の背景には次の2点が存在することを忘れてはならない。

第1に、人件費や生産性は単なる数字の積み上げではなく、背後にはそこで働いてきた人の思いやここに至るまでの歴史が存在することである。もちろん、経営合理性の観点で無理な事業運営となることは望ましくないが、撤退はそうした人たちにとって苦渋の、しかし前向きな決断だと考えられる。

第2に、企業や商店の撤退によって生じる地域の「空白」——食料へのアクセスが困難になることやコミュニティ機能が低下すること——は、個別企業の努力だけで解決できる問題ではない。民間企業が経営合理性の観点で撤退を決める場合、地域コミュニティに及ぼす影響には、行政や地域社会が責任を持って対応していく必要がある。

地方で企業が減ることは、必ずしも「衰退」を意味しない。労働供給制約社会においては、むしろ地方が強くなるための「代謝」のプロセスとも言えるだろう。大切なのは、データの示す「人件費上昇」「生産性向上」は冷静に歓迎しつつ、その変化の狭間で生じ得る、働く人たちの悩みや困難に寄り添い続けることである。そのためには、個々の企業の経営努力を支えつつ、撤退や再編(M&Aなど)の結果、地域から企業が減る場合には、その地域での生活への影響ができる限り小さくなるような政策を考えていくことが重要であろう。

(※1)三大都市圏は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、岐阜県、三重県、大阪府、兵庫県、京都府、奈良県としている(総務省統計局)。
(※2)店舗まで500m以上かつ自転車利用困難な65歳以上高齢者を指す。
(※3)都市圏は地方圏に比べて元の一人あたり人件費および売上が大きいため、地方圏と同程度に人件費や売上が上昇していても、変化率の計算結果は小さくなる。実際、一人あたり人件費の変化(≠ 変化率)は、都市圏が0.1、地方圏が0.3、一人あたり売上は都市圏が2.9、地方圏が3.0であり、絶対値としての変化の差は大きくない。
(※4)相関係数は、各都道府県における産業別のデータで計算している。奈良県のみ、複合サービス事業が相関係数に与える影響が大きく、外れ値とみなして除外した。

参考文献
帝国データバンク. 2025.「倒産集計 2025年度上半期(4月~9月)」https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/aggregation/20251008-bankruptcyh1fy2025/
農林水産政策研究所. 2024. 「食料品アクセス困難人口 参考表」https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo01/attach/pdf/240227-1.pdf
全国商店街振興組合連合会. 2025. 「令和6年度 商店街実態調査報告書」

中村 星斗氏

筑波大学 働く人への心理支援開発研究センター 客員研究員。重工メーカーでの人事職を経て2016年2月にリクルートグループへ入社。適性検査の営業、品質管理・開発、雇用・労働に関する調査研究に従事。リクルートワークス研究所では大卒求人倍率調査をはじめ、就職活動や新卒採用に関する調査・研究を担当。2021年3月筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。2023年4月より岡山大学大学院医歯薬学総合研究科に在籍。

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