大卒就職者の将来推計―2040年代には、1980年代並みの水準まで減少の可能性―

永沼早央梨

2026年08月19日

AIが台頭する中でも、労働力人口の高齢化や企業内の年齢構成の不均衡を背景に、日本企業は若年層の「不足感」を抱えている(前回のコラム)。さらに、先行きの人口動態を展望すると、日本の若年層の労働供給は縮小していくことが見込まれる。こうした前提に基づけば、AIは若年層が担ってきた仕事を代替する可能性だけではなく、今後さらに「不足感」が強まる若年雇用を補完する可能性もあるのではないか——。そこで、本コラムでは、今後20年で新卒者の労働供給がどの程度減少する可能性があるのか、シミュレーションをもとに考察していく。

過去20年にわたり若年労働供給を支えてきた大卒者

まず、若年労働力の供給を支える学校卒業後の就職者数の過去推移を見よう(図表1)。学校卒業後の就職者数は、全体として1990年代初頭の120万人台をピークに、2000年代初頭にかけて大きく減少した。その後2000年代以降は景気変動による増減はあるものの、およそ70万人前後で推移している。1990年代の大幅な減少の主因は、高校卒の就職者の減少である。1980~1990年初頭に高校卒の就職者は60万人程度で推移していた。しかし、1990年代以降は急激に減少し、2000年代には20万人程度で推移していたが、近年さらに減少して12万人台まで縮小している。一方、2000年代以降に減少した高校卒の就職者に代わり増加したのが大学卒の就職者数である。大学進学率の上昇を背景に、大学卒の就職者数は1980年代には30万人弱、1990年代から2000年代半ばにかけては30万人程度で推移していたが、2000年代半ば以降は増加傾向をたどり、近年は45万人程度で推移している。つまり過去20年を振り返ると、少子化に伴う若年人口の減少が進む中でも、主に大学卒の就職者が若年労働供給を支えてきたというわけだ。

図表1 就職者数の推移図表1 就職者数の推移

(出所)文部科学省「学校基本調査」より筆者作成。年次統計の「卒業者数」に「卒業者に占める就職者の割合」を掛けて算出。

このように、過去20年の大学卒の就職者数の増加を背景に、若年層の労働供給が横ばいで推移するもとで、新卒者を「一括して、一定数」採用するという新卒一括採用の慣行も維持されてきた。しかし、人口減少・少子化の影響がさらに色濃くなる先行き20年は状況が異なりそうだ。文部科学省(2025)の「大学進学者数の推計」によれば、大学進学者数は2024年実績の約63万人から2035年には約59万人、2040年には約46万人となると予測されている。この大学進学者数に対し、①大学卒業率と②大学卒業者の就職率に一定の仮定を置くと、大卒就職者数の将来推計値が算出できる。①大学卒業率(大学卒業者数÷大学入学者数)は、2000年代以降は約9割で安定的に推移している。また、②大学卒業者の就職率は、景気変動による振れを伴いつつも、2000年代以降上昇傾向をたどり、2015年以降は7割台で推移している。このように、①大学卒業率、②大学卒業者の就職率ともに過去10年間で比較的安定的に推移していることから、いずれも過去10年間(2016~2025年)のトレンドが先行きにおいても維持されるとの仮定を置いて、2040年代までの大卒就職者数をシミュレーションしよう。

2040年代の大卒就職者数は1980年代並みの水準まで減少

図表2でシミュレーションの結果を見ると、大卒就職者数(年平均値)は、2020年代の44万人をピークとして、2030年代で38万人(2020年代対比:▲13%)、2040年代には29万人(同:▲34%)まで減少する見通しである。2040年代の29万人という規模は、1980年代並みの水準である。つまり、図表1で見たとおり、2000年代以降、若年労働供給を主に支えてきた大学卒の就職者も減少し、全体としても横ばいを維持してきた若年労働供給がいよいよ縮小することを示唆する。

図表2 大卒就職者数の将来推計図表2 大卒就職者数の将来推計

【シミュレーションの前提】
文部科学省(2025)「大学進学者数等の将来推計について」および厚生労働省・文部科学省「大学等卒業予定者の就職内定状況(2月1日現在)」に基づき、過去10年の大学卒業率と就職率の実績(平均値)が今後も一定に維持されると仮定し、2026~2050年の大卒就職者数を推計

実績値
①大学卒業者数:文部科学省「学校基本調査」に基づく実績値
②就職希望者数:大学卒業者数に厚生労働省・文部科学省「大学等卒業予定者の就職内定状況(2月1日現在)」の就職希望率を掛けて算出
③就職者数:文部科学省「学校基本調査」に基づく実績値

推計値
①大学卒業者数:大学入学数(推計値)*に過去10年間(2016~2025年)の卒業率の平均値を掛けて算出
 *文部科学省(2025)「大学進学者数等の将来推計について」(18歳人口の将来推計は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 (令和5年推計)」(出生低位(死亡低位)推計)に基づく。
②就職希望者数:①大学卒業者数(推計値)に過去10年間(2016~2025年)の就職希望率の平均値を掛けて算出
③就職者数:①大学卒業者数(推計値)に過去10年間(2016~2025年)の就職率の平均値を掛けて算出

以上のように、前提とする人口動態や景気動向の影響によって就職率のトレンドが変化すれば推計結果にも幅が生じるものの、先行き20年で若年労働供給はさらに縮小し、若年層の「人手不足感」が一段と強まる可能性が高い。新卒採用は、企業にとって事業の維持・継続のために必要な人員や将来の基幹人材を確保する観点からも重視されている(【特別調査】人口減少・AI時代の新卒採用と育成)。AIによる業務代替・効率化により目先の新卒採用をどの程度抑制するかよりも、着実に進行する人口減少の先の労働市場の姿を念頭に置いたうえで、若年層がこれまで担ってきた仕事をAI活用も含めていかに補うのかという観点で、未来に備えることが企業の人事戦略にとっても重要であろう。

また、人口減少とAIが及ぼす影響は、新卒採用の「数」にとどまらない。新卒者を「一括して、一定数」採用した後、入社・研修・配属・異動を一斉に実施し、OJTを通じて時間をかけて育成するという新卒一括採用を起点とするスキームにも変化をもたらす可能性がある。AIの活用によって定型業務を効率化することを前提に、より希少となる若年層にどのような仕事・経験を求め、将来の基幹人材として育成するのかが企業にとっても問われる時代に突入している。

<参考文献>
文部科学省(2025)「令和6年度文部科学白書」

永沼 早央梨

日本銀行入行後、日米の雇用など国内外の景気動向調査、人口動態・経済構造の変化と労働市場に関する経済分析、金融システム安定のための調査研究に従事。
2024年10月より現職。
一橋大学国際・公共政策大学院(公共経済専攻)修了。

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