「機は熟した」自ら判断し手上げで昇格:ロート製薬

2026年03月03日

ロート製薬は、社員自らが「次のランクに挑戦する準備ができた」と判断した時に、手上げで昇格を目指す「ランクアップ制度」を設けている。経営幹部が社員一人ひとりの昇格の合否や、半期ごとの人事評価に最後までコミットしている点も特徴的だ。 こうした独自の制度を設けた経緯や、有効に機能させるための工夫などを聞いた。

自発的な意思で創発を生み出す 1990年代に手上げ導入

同社が等級に当たる「ランク」の昇格を、手上げによって行う「ランクアップチャレンジ制度」を導入したのは、1999年ごろと約25年も前だ。当時は「サラリーマンからプロの仕事人へ」というキャッチフレーズを掲げ、社員一人ひとりの自発的な行動を促す人事制度へと改革しようとしていた。人事総務部人材開発グループマネージャーの矢野絢子氏は「この人事制度改革の中で、キャリアについても自ら希望を意思表示し、手上げで昇格を実現させるという仕組みが設けられました」と説明する。

制度の根底には、経営トップの「社員が自発的な意思によって多くの創発を生み出すことも、製薬会社としての競争優位に不可欠だ」という考えもあるという。

ランクアップの選考は年1回、約半年かけて行われる。希望者は次のランクにふさわしい成長を遂げるに何を身につける必要があるかをエントリーシートに書いて提出し、その後半年の「チャレンジ期間」で、シートに書いた目標の達成を目指す。その上でチャレンジ期間の終了時に、その期間中の取り組みを自己評価して「振り返りシート」を作成する。

制度で特徴的なのは、社員一人ひとりの合否を最終的に決めるのが人事部門や所属する部門のトップではなく、執行役員以上の経営幹部で構成される会議であることだ。経営幹部が、振り返りシートの自己評価と上司の評価も踏まえ、経営的な視点で判断する。

またランクの昇格要件は「学びの姿勢」「挑戦意欲」など「プロの仕事人(もしくは仕事のプロフェッショナル)としての成熟度」によって構成されている。

「昇格要件は数値などではなく主に文章で表現され、幅広く解釈できる内容になっています。このため社員は要件を読み込み、周囲と対話を重ねるなどして昇格には何が必要かを自分なりに考え、次のランクへの挑戦に『機が熟した』と判断した時に手上げする仕組みです」

フィードバックは仕組み化しない ほしい社員は自ら求める

合否については合格者の発表に留め、事前フィードバックなどは行っていない。以前は部門長が本人に合否を伝え、今後の課題などを話し合うための面談を設けていたが、2年ほど前にプロセスを変更した。このように制度運用については、必要に応じて見直しも行われている。

「フィードバックには、結果を丁寧に説明できるメリットもありますが、本人が答えを求めがちになる弊害もあります。成長に何が必要かを、自分で深く考えてもらうにはどのようなやり方がいいのかを考えました」

一律のフィードバックはやめたものの、ランクアップの挑戦者が上司や先輩に面談を申し込むなど、自分から行動を起こすことは「ウェルカム」だという。同社は平素から、上下関係だけでなく「斜めの関係の人との対話」を重視しており、多くの社員が手上げにエントリーすべきかや合否について、こうした「斜めの関係」の人に相談している。

「特に若手社員には、ランクアップ挑戦中のチャレンジ期間にも、先輩や上司と対話しさまざまな示唆を得て、目標をブラッシュアップするよう呼びかけています。エントリーの締め切り前などには、社内で『面談ラッシュ』も起きています」

合格者に対しては、一段高いレベルの仕事ができるポストに異動させたり、新たなプロジェクトにアサインしたりすることもあり、成長機会を提供している。ただランクはいわゆる〇〇部長、□□課長といった「役職」には直結せず、部下を持たない社員の中にも管理職相当のランクを持つ人はいる。また部署のマネジメントを担う役職は、手上げではなく企業主導で決める。

「役職は、その時の企業戦略を実現するためのフォーメーションであるという考え方から、プロの仕事人としての成長度合いを反映するランクとはイコールではありません。ただ、上位の役職には、相応の成熟度が求められるため、結果的にそれなりのランクを持つ人がアサインされることが多いです」

公募への手上げが少ないことに悩む企業は多いが、同社では毎年、対象者の3分の1ほどが手上げに挑戦する。昇格に限らず仕事や学びなど、あらゆる成長機会を手上げで回すという組織運営が、社員の自発的な行動を定着させてきた。

「ちょっとしたプロジェクトや、学びの場である『ロートアカデミー』などへの参加機会も、手を上げなければ得られません。経営陣も、手上げを通じて成長し続けることの大事さを繰り返し発信しています」

しかしそれでもなお、挑戦をためらう人は一部存在するため「機が熟しているのに手を上げていない人に対しては、人事が個別に声を掛けて話を聞くなど、今以上にきめ細かい対応を進める必要もあると感じています」。

また昇格要件に関しても、解釈の幅が広いことで本人や上司の理解度にグラデーションが生じているといい、「解像度を高めるためのコミュニケーション」を人事の課題として挙げた。

経営幹部が異動や人事評価も最終判断 

同社では社員の配属や人事評価なども、経営幹部の会議で決められている。まず全社員が年1回、挑戦したい仕事や中長期的に目指すキャリアなどを記載する「マイビジョンシート」を提出する。シートには3~5年先の展望とともに、直近1年間、どんな仕事に挑戦したいかも記載する。異動を望む場合、このシートに希望を記入することが、意思表明となる。

経営幹部は2、3カ月かけて全社員、計1800人弱のシートに目を通し、本人の希望や組織としての適材適所を考えて配置を決める。

人事評価については、全社での目標管理制度は導入しておらず、社員自身が年2回、過去半年間の仕事を自己評価する。それを踏まえて経営幹部が、「ロートバリューポイント(RVP)」で示される評価を決定する仕組みだ。

「期初に目標を設けても変化する可能性が高いため、結果として社会にどれだけの価値を生み出したかを重視して評価しています」

評価が出たあとに、上司と本人が「フィードフォワード面談」を行う。これはフィードバックの場というよりも、次の半期は何に取り組むか、成長のために何を学ぶかといった「未来に向けた作戦会議」という側面が大きいという。ランクとRVPという2つの軸で、賞与や給与が決まる。

部門ごとの営業目標などは当然設けられているが、その目標にどのように取り組むかは、現場の判断に委ねられている。

「目標設定などについて一律の制度で縛るのではなく、あえて現場が判断できる余白の部分を残すことによって、ボトムアップでの変化対応力や成長の『のびしろ』が生まれるのだと考えています」

部署を超えた人材育成 幅広い視野を身につける 

経営幹部が約1800人もの社員一人ひとりについて、配置や人事評価、ランクアップの合否などを判断できるのは、組織として自分の部署以外の領域に、幅広くコミットする仕組みが作られていることも一因のようだ。

まず社会人3年目以上の社員を対象に「社内ダブルジョブ」制度を設けており、社員の1割以上が部署を兼務している。部長級になると、自分の部署だけでなく部署を超えた関与が役割として求められるようになり、役員クラスについては、例えば人事担当役員が営業の分野もカバーするなど、担当領域を互いにクロスさせている。このように組織の各レイヤーに、人材を横断的に育成する仕組みが埋め込まれているのだ。

部屋や壁の区切りのないワンフロアのオフィスで、社員と役員がともに働くなど、物理的にも部署以外の社員に目配りしやすい環境が作られているという。

「経営幹部から『(シートに)こんなことを書いていたね』と声を掛けられることもあり、一社員として『見てくれている』と感じます」

聞き手:千野翔平
執筆:有馬知子

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