「万能マネジャー」の限界を超えて。マネジメントを「機能」で編みなおすための実践的ダイアローグ(Day1レポート)

2026年01月09日

本記事は、既存のマネジメントの在り方に限界を感じ、新たな一歩を踏み出そうとしている変革者たちへ向けて、その実践プロセスの一端を公開するものである。

現在、多くの組織が「マネジャーの過負荷」や「次世代の登用忌避」という深刻な課題に直面している。これらは個人の資質の問題ではなく、変化した外部環境に対して組織の構造が適合しなくなっている「マネジメント機能の不全」に起因することが多い。本ワークショップは、そうした課題に先んじて向き合い、自社のマネジメントを「機能」の観点から再定義しようとする有志企業たちと3回にわたって実施したワークショップの記録である。本レポートが、同様の課題感を抱える読者にとって、自組織を捉えなおすための具体的なヒントとなれば幸いである。

なお主催は、ワークス研究所の研究者だけでなく、このテーマに問題意識を持つIT企業人事の飯島氏、VOOX Future Labの日渡氏そしてリクルートマネジメントソリューションズの阿久津・中永・山田・成沢である。

1. イントロダクション:なぜ今「マネジメントの編みなおし」が必要なのか

本ワークショップの背景には、現場のリーダーたちが抱える深い「孤独」と「危機感」がある。主催者の一人は、かつて自組織のマネジメントを見なおそうとした際、どの部署からも「それはうちの仕事ではない」と拒絶され、活動の輪が縮小してしまった苦い経験を語った。本来、市場に価値を提供し続けるためには、部門を問わずマネジメントの問題は全員に関係があるはずだ。しかし、実際には「制度が悪いのは人事のせい」「経営全体の問題は経営企画だ」と、責任の押しつけ合いになり、改革の志を持つフロントランナーほど孤立してしまう現状がある。本会は、こうした孤独な改革者たちが他社と知恵を交換しながら、自社のマネジメントについて「誰がやるか(人)」ではなく「何が必要か(機能)」という観点から再構築する準備を行う場として企画された。

責任転嫁の循環図

2. 【概念化ワーク】思考の「砂」を「レンガ」に変える

ワークショップの冒頭、VOOX Future Labの日渡健介氏による「概念思考ワークショップ」が行われた。これは、抽象度の高い「マネジメント」という言葉を自分なりに構造化し、他者と建設的な議論を行うための「思考の筋トレ」である。

マネジメントの編みなおしを進める上で、最大の壁となるのが「現場の個別事象」に終始してしまうことだ。「あの部署の課長が忙しそうだ」「この業務のフローが非効率だ」といった目の前の事象(仕事)だけを見て対症療法を繰り返しても、組織全体のマネジメントが改善されることはない。本質的な変革には、それらを引き起こしている背後の「組織の構造」を捉え、設計図を書きなおす視座が必要となる。

●マネジメントを3つの要素で定義する

その第一歩として、参加者はマネジメントを構成する3つの要素を言語化するワークに挑戦した。

インフラ系企業からの参加者:「計画・実行・組織活性」
現場リーダー層:「目的・集団・関係」
テック系企業からの参加者:「資源配分・採用・育成」

日渡氏は、日常会話の水準で「マネジメント」と呼んでいる状態を「砂」に例える。砂は粒が細かく形が定まらないため、その場で生成し消滅する会話には向くが、複雑な構造物を作ることはできない。対して、言葉を要素に分解し構造として捉えなおした状態が「レンガ」である。

「目の前の仕事(砂)を、組織の機能(レンガ)として定義しなおす。この変換ができて初めて、組織という大きな構築物をどう組み替えるかという、真に建設的な議論が可能になる」という解説に、参加者からは「今まで現場の悩みという『砂』をこねくり回していただけだった」「立場によってレンガの形が全く違うことに気づいた」と、自社の議論を省みる声が上がった。

マネジメントを「人のスキル」の問題ではなく「組織の構造」の問題として扱う。そのために、まずは自分たちの使う言葉を「レンガ」へと昇華させる作業が不可欠なのである。

生産的議論とは何か

3. インプット動画:構造上の欠陥を読み解く

続いて、リクルートワークス研究所の辰巳哲子より、マネジメントを機能で捉えるべき事業上の理由が解説された。

●「万能マネジャーモデル」の終焉

1950年代の日本におけるマネジャーは、主に「部下の管理・監督」を求められていた。しかし、そこから時代を経て、組織間調整、人材育成、さらには戦略づくりまでが雪だるま式に付加されてきた。

年代別管理職役割の変化引用元:『マネジメントを編みなおす』
https://www.works-i.com/research/report/reweaving-management.html

  • 現在の実態: 通常業務に加え、不確実な未来に向けた「課題の仕入れ」までがマネジャー一人に期待されている。
  • 構造的限界: 事業の方向性を示し、社内外をつなぎ、現場を動かし、未来を構想する。これらを一人で担うのは、もはや不可能な「全能型」の期待である。

レポートでは、マネジャーを「全ての機能の遂行者」とする前提を捨て、組織の目的実現に必要な「働き(機能)」を可視化し、分解することを提言している。

当日使用した解説動画はこちら

4. 【グループワーク】「事業上の理由」から問いなおす現場のリアル

全員で動画を視聴した上で、後半のグループワークでは、「なぜ今、自社でマネジメントの機能を検討しなければならないのか」という点について、極めて実務的な議論が交わされた。この議論の目的は、マネジメントを単なる「組織や人事の問題」として片付けるのではなく、「事業成長や競争力を左右する経営課題」として捉えなおすことである。

●「人事の課題」に終始する限界

通常、マネジメントの改善を議論しようとすると、「エンゲージメントの向上」や「離職率の低下」といった枠組みで語られがちである。しかし、それだけでは現場の切実な課題解決にはつながらない。各社の事業戦略に紐付けて議論をしない限り、その組織にとって本当に必要な「機能』の洗い出しはできないためだ。事業が成熟期にあるのか、転換期にあるのか。あるいは高度な専門性が求められるのか、スピード感ある意思決定が求められるのか。そうした「事業上の必然性」から逆算して初めて、今の組織に不足している機能が浮き彫りになるのである。

●社内を動かすための「なぜ今、これが必要か」という問い

また、本ワークショップの大きな目的の一つは、参加者が自社に持ち帰って「マネジメント機能の見なおし」を実際に推進することにある。その際、経営層や他部署を巻き込むためには、「なぜ今、着手しなければならないのか」を論理的に説明し、納得を得ることが不可欠だ。
各グループでは、自社内での仲間を増やすための「言葉」を模索する中で、以下のような各業界特有の切実な動機が共有された。

  • 歴史ある大手企業: 現場が強く、これまでのやり方で回ってしまうがゆえに、経営が打ち出す変化のスピードに現場が対応しきれず、マネジャーが板挟みで孤立している。このままでは組織の変革を達成できないという危機感がある。
  • 事業転換期にある企業: 既存事業から新規領域へのシフトに伴い、外部人材が増え、価値観が多様化している。従来の暗黙知やヒエラルキー型のマネジメントが通用しなくなっている。
  • 労働環境が激変している業界: 働き方の多様化や労働時間短縮が進む一方で、意思決定の遅延やマネジャーへの業務集中が深刻化している。魅力のない管理職の姿を見て、次世代が登用を忌避する副作用が出ている。

共通していたのは、「マネジャーの疲弊を救うため」という情緒的な理由ではなく、「今のマネジメント構造のままでは、事業の持続可能性(サステナビリティ)が失われる」という経営的危機感であった。この「事業上の理由」こそが、組織を動かす強力なレバレッジ(梃子)となるのである。

5. 展望:Day2に向けた「構造化」への挑戦

Day1の締めくくりとして、辰巳は「マネジメント機能の見なおしは、必ずしも全社的な大改革である必要はない。目の前のチームレベルからでも始められる」と述べ、Day2に向けた課題を提示した。

次回のステップは、自社の状況を「因果ループ図」を用いて可視化することだ 。表面的な事象(「忙しい」など)にとらわれず、なぜその問題が繰り返し起きているのかという「構造的要因」を捉えるフレームワーク作成へと進む。「万能マネジャー」という幻想を脱ぎ捨て、組織にとって本当に必要な機能を再定義する。孤独な改革を、共創のプロセスへと変えていく挑戦は、まだ始まったばかりである。

因果ループで現状を構造的に整理する

辰巳 哲子

研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)

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