「動けないのは本人の問題か」――地方圏の女性を縛る“見えない前提”

2026年05月27日

第2回のコラムでは、大都市圏と比較して地方圏の女性は、生育家庭や居住地域において性別役割規範に直面しやすく、同時に女性のキャリアにつながる仕事の不足を感じやすい傾向にあることを指摘した。また、こうした性別役割規範やキャリアにつながる仕事の少なさは、女性の生き方や働き方に「選択肢がない」という認識を強めており、そのように感じる地方圏の女性ほど、自分の子どもに将来他の地域で生活してほしいと考える傾向があることも示した。

では、女性が生き方や働き方に選択肢を持つためには、何が必要なのだろうか。その第一歩として、本稿では、女性自身が主体的にキャリアを探索することの重要性に注目する(具体的にどのように行動につなげていくかについては、第4回以降で取り上げる)。

多くの女性は動き始めている――しかし、その一歩は小さい

地方圏で働く女性(※1)は、自分のこれからの仕事やキャリアに関する行動をどのように取っているのだろうか。図表1は、主体的に仕事やキャリアを探索する行動(以下、主体的なキャリア探索行動)について、地方圏の女性に9項目で尋ねた結果である。

その結果、回答者の約7割が少なくとも1つ以上の行動を取っていた。家庭の事情で過去に仕事を控えめにした経験があり、現在も子育て中である状況においても、多くの女性が自分の仕事やキャリアに関して前向きな行動をとっている点は注目される。

一方で、図表1を改めて見ると、新しい仕事内容への挑戦意欲や、仕事・キャリアに関する情報への関心を持つ人は比較的多いものの、今後の仕事につながるより具体的な行動(スキルの習得、具体的な計画の策定、人から学ぶなど)をとる人の割合は低い。言い換えれば、現在の業務のなかでの挑戦や情報収集は行いやすい一方で、その先の行動にはつながりにくい状況にあると考えられる。

図表1 主体的なキャリア探索行動(地方圏の女性における該当割合、%)

主体的なキャリア探索行動(注)各項目について、1.あてはまらない、2.どちらかと言うとややあてはまらない、3.どちらとも言えない、4.どちらかと言うとあてはまる、5.あてはまるのうち、4~5を選んだ割合。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

動くほど、「自分らしく働けている」という実感が高まる

主体的なキャリア探索行動と、仕事への評価や将来展望はどのような関係にあるのだろうか。図表2は、地方圏の女性を対象に、主体的なキャリア探索行動の数(行動の幅広さを示す)と、「私は本当に自分がやりたいと思える仕事に就いている」「生き生きと働くことができている」「私は10年後、生き生きと働いていると思う」といった認識のスコア(※2)との関係を示したものである。

図表から分かるように、主体的なキャリア探索行動の数が多いほど、自分が望む仕事に就いている実感や、現在および将来にわたって生き生き働く見通しを持つ傾向がある。一時点の横断データであるため因果関係の特定には限界があるが、仕事の充実感や将来への展望と、キャリアに向けた行動の広がりとの間には関連があると考えられる。

図表2 主体的なキャリア探索行動の数と仕事の希望の実現度

主体的なキャリア探索行動の数と仕事の希望の実現度
(注)地方圏の女性のデータ。主体的なキャリア探索行動を9項目で尋ねた設問について「あてはまる」「どちらかと言うとあてはまる」に該当した数を「主体的なキャリア探索行動の数」とし、その数別に、仕事の希望の実現に関わる設問(1.あてはまらない~5.あてはまるの5件法)の平均値を示したもの。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

「がんばれ」では越えられない壁がある

難しいのは、「がんばれ」と女性を励ますだけでは、行動が広がりにくい構造がある点である。第2回のコラムで見たように、地方圏では大都市圏と比べて、地域や家庭内の役割規範がより強固であり、女性のキャリアにつながる就業機会も限られている。その結果、仕事やキャリアに踏み出す際のハードルも高くなりがちである。

実際、全国で女性のキャリア支援に取り組む実務家への聞き取りからは、地方圏では性別役割規範やそれに基づく期待が依然として強く、女性が家事や育児を自らの主要な役割と捉え、働くことを前向きな選択肢として位置づけにくい状況が指摘されている。

株式会社Pallet 代表取締役 羽山暁子氏(宮城県)

株式会社Pallet代表取締役 羽山暁子氏(宮城県)

地方では「家族のケアに支障のない範囲で働く」ことが前提となりやすく、女性自身が「無償労働こそが自分の主たる役割」だと初めから決めてしまう傾向があります。仕事はあくまで家計のためであり、自らの前向きな選択になりづらいのが現状です。経営者側のバイアスも根強く、女性の職域を限定的に捉える風潮が、女性たちのキャリアに対する消極的な姿勢を助長していると感じます。

株式会社MOKA. 代表取締役 森崎三記子氏(北海道)

株式会社MOKA. 代表取締役 森崎三記子氏(北海道)

都市部の女性と地方都市に住む女性とでは、見えている世界に違いがあります。地方では価値観の多様化が進みつつあるとはいえ、出産後は子ども中心に生活を組み立てる人が依然多数派です。それまでバリバリ働いていた女性も、妊娠すると「今までのように働けないなら、戻っても仕方ない」と考え、キャリアを中断する人も少なくありません。長く家庭が中心となることで社会との距離が広がり、再び働こうとすると大きなエネルギーが必要になります。

株式会社C Landmark 代表取締役 藤田梢氏(徳島県) 

株式会社C Landmark 代表取締役 藤田梢氏(徳島県) 

地域では今なお、「お前は母親だぞ」という周囲の圧力や性別役割分業の意識が強く、女性は無意識に自分にブレーキをかけています。職場でパフォーマンスを発揮していても、「働かせてもらっているだけでありがたい」と自らの価値を過小評価してしまうのです。地域や職場に男性リーダーが当たり前という環境があるため、格差に違和感を持ちづらくなっています。

何があれば一歩を踏み出せるのか

では、どのようにすれば、女性が母親役割を超えて、仕事やキャリアのための行動を取れるようになるのだろうか。次回は、女性が仕事やキャリアのための行動を取ることに関わる、2つの心理的要因に注目する。

(※1)本コラムのデータは、リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)に基づいており、地方圏の女性という場合、地方圏に居住する「家事・育児・家族の転勤などの家庭の事情で仕事を控えめにした経験を持ち、現在就業している35~54歳の有配偶・有子女性」を指す。
(※2)それぞれ5件法で聴取しており(1.当あてはまらない~5.当あてはまる)、その回答の平均値をスコアとした。

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。

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