両立理解だけでは不十分。女性がキャリアに自信と期待を持てる職場とは

2026年05月29日

第4回のコラムでは、キャリアに対して「自分で切り拓ける」「行動すれば報われる」と感じられることが、個人の行動を後押しするだけでなく、その地域で働き、暮らし続けるという選択にもつながる可能性を示した。

今回は、こうした自信(キャリアの自己効力感)や期待(キャリアの結果期待)を育むために、何が有効なのかを探る。

インタビューに見る、女性がキャリアに踏み出すきっかけ

女性がキャリアに自信や期待を持ち、主体的に行動するようになる要因を探るため、全国を5つのブロックに分けてグループインタビューを行った。その結果、地方圏の女性が仕事で踏み出すきっかけとして多く挙げられたのは、この先の自分への焦りや、子どもの教育費などに伴う収入増加の必要性、子どもの成長による時間的余裕の拡大といった、将来の見通しや環境の変化であった(図表1)。

一方で、子育てをしながら従事した仕事を通じて、自分が強みを発揮できる領域ややりがいのある仕事に気づき、より大きな挑戦へと踏み出すケースも確認された。

図表1 地方圏の女性が、キャリアのために行動したきっかけ(インタビューより)

地方圏の女性が、キャリアのために行動したきっかけ(インタビューより)

家庭の事情で仕事を控えめにした後の3つの就業経験

では、どのような仕事を通じた経験が、女性のキャリアへの一歩を後押しするのか。この点を明らかにするため、家庭の事情で仕事を控えめにした後のポジティブな就業経験を18項目で収集し、因子分析(複数の変数の相関関係から共通する潜在因子を抽出する手法)を行った。その結果、就業経験は大きく3つに整理できることが分かった(図表2)。

1つ目は、「挑戦的な仕事での模索経験」である。これは、挑戦しがいのある業務を任されたり、新しい役割に挑戦してやればできると実感したり、責任の大きい仕事を打診されるなど、新たな役割やより大きな責任の仕事に挑戦し、自分なりの模索を通じて手応えを得る経験を指す。

2つ目は、「仕事を通じた確かな強みの自覚」である。新たなツールの操作方法やスキルを習得する、結婚前に習得した経験の価値を改めて実感する、具体的な実務経験を通じて自分の強みややりがいを感じる領域を具体的に理解し直すことなど、実際の仕事を通じて自分の強みを再評価し直す経験を指す。

3つ目は、「支援的関係の確保」である。これは、周囲に同様の環境の女性がいることや、仕事と家庭の両立について安心して相談できる上司・同僚・仲間がいること、仕事に関する疑問や問題意識を素直に共有できる関係性があることなど、仕事と家庭の両立という環境下で安心して就業することを支える人間関係の保有に関わる経験である。

図表2 家庭の事情で仕事を控えめにした後に経験した就業経験の因子分析結果

家庭の事情で仕事を控えめにした後に経験した就業経験の因子分析結果

(注)家庭の事情により最初に仕事を控えめにした後、現在に至るまでの間に経験した内容について、18項目で聴取した設問の結果をもとに因子分析を行ったもの。なお、分析の過程で一部の項目は除外されている。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

「挑戦的な仕事での模索経験」が自己信頼の土台となる

次に、家庭の事情で仕事を控えめにした後のどのような就業経験が、地方圏の女性のキャリアの自己効力感と関係するのかを明らかにするために、定量的な分析を行った(図表3)。その際、女性を取り巻く環境(地域における性別役割期待の認知、女性が活躍できる就業機会の不足感)、働くことに対する支援(家族・親族からの家事・育児支援、地域における仕事・キャリアの相談の機会)、家事・育児の効率化に関わる行動(※)なども影響しうることを踏まえ、就業機会以外にこれらに関わる変数の影響も考慮した。

分析の結果、最も強く関係していたのは「挑戦的な仕事での模索経験」であった。また、「仕事を通じた強みの自覚」や「家事・育児の効率化行動」も、弱いながら正の関係を示した。
つまり、新しい業務や責任ある仕事に挑戦し、自ら工夫しながら成果を出した経験が、キャリアに対する自己信頼の形成に重要な役割を果たしていることが示唆される。

図表3 キャリアの自己効力感に関する分析(構造方程式モデリング)の結果図

キャリアの自己効力感に関する分析(構造方程式モデリング)の結果図

(注)構造方程式モデリングによる分析。地域における性別役割期待の認知と女性が活躍できる就業機会の不足感、家事・育児の効率化行動の相関を許可。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。有意なもののみ数字を記載。RMSEA=0.053、 CFI=0.902、 SRMR=0.067。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

「仕事を通じた確かな強みの自覚」が結果期待と関わる

次に、キャリアの結果期待との関係を分析した(図表4)。ここでも、3つの就業経験に加え、女性を取り巻く環境、働くことに対する支援、家事・育児の効率化に関わる行動の影響も考慮した。

その結果、キャリアの結果期待と最も強く関係していたのは、「仕事を通じた確かな強みの自覚」であった。実際の仕事を通じて、自分の強みを発揮できる領域や、やりがいを感じる業務を知っていることは、それを生かしてより良いキャリアを実現できるという期待につながっていると考えられる。

なお、「家事・育児の効率化行動」はプラス、「女性が活躍できる就業機会の不足感」はマイナスの関わりを示した。

図表4 キャリアの結果期待に関する分析(構造方程式モデリング)の結果図

キャリアの結果期待に関する分析(構造方程式モデリング)の結果図

(注)構造方程式モデリングによる分析。地域における性別役割期待の認知と女性が活躍できる就業機会の不足感、家事・育児の効率化行動の相関を許可。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。有意なもののみ数字を記載。RMSEA=0.052、CFI=0.909、TLI=0.901、SRMR=0.071。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

両立への理解やロールモデルは、なぜ自己効力感や結果期待と関わらないのか

興味深いのは、「支援的関係の確保」が自己効力感や結果期待と有意な関係を持たなかった点である。すなわち、両立について相談できる上司や同僚の存在、ロールモデルの存在は、直接的にはキャリアへの自信や期待を高めていなかった。

もちろん、これらの要素は女性が働き続ける上で重要な支えとなる。しかし同時に、分析結果は、両立への理解や配慮、同様の境遇の女性の配置といった取り組みだけでは、女性が自分のキャリアへの自信や期待を持つこと、その認識をベースに行動する結果にはつながりにくいことを示唆している。言い換えれば、「続けられる環境」と「踏み出せる環境」は必ずしも同じではない。両立支援だけでは、キャリアへの一歩を後押しするには不十分である可能性がある。

(※)普段の行動として「家事時間を減らしてくれる家電(洗濯乾燥機、食器洗い乾燥機、ロボット掃除機など)を積極的に使う」「家事の完璧主義を手放し、効率化を図る」「家事や育児について、できるだけ周囲の手を借りる」に該当する数をカウントし、0~4の値を取る変数として採用した。

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。

関連する記事