なぜ「選択肢がない」と感じるのか――それは地域に何をもたらすのか

2026年05月26日

前回のコラムでは、女性の就業率が上昇する一方で、地方圏においては依然として性別役割規範や就業機会の制約が残っており、女性のキャリア形成に影響を与えている点を指摘した。では、実際に地方圏で働く女性は、どのような経験をし、どのような制約のなかでキャリアを築いているのだろうか。

今回は、家事・育児・家族の転勤などの家庭の事情で一時的に仕事を控えめにした経験を持ち、現在就業している35~54歳の女性(配偶者、子どもあり)を対象としたアンケート調査の結果をもとに、その実態を明らかにする。

さらに、女性が居住する地域において、自らの生き方や働き方に選択肢があると感じられるかどうかが、現在の居住継続意向だけでなく、子どもの将来の居住地に関する意向ともどのように関わるのか検討する。

生育家庭での性別役割規範

まず、生育家庭において性別役割規範に関わる雰囲気を感じたり、直接言われたりした割合を示したものが図表1である。これによると、都市圏・地方圏にかかわらず、育児・介護等は女性の役割とする雰囲気を生育家庭で感じてきた女性が多いことが分かる。都市圏と地方圏を比較すると、地方圏の方が、生育家庭における性別役割分業に関する意識や規範を感じた割合がやや高い。特に、35~44歳と比較して45~54歳でその傾向が強いことが分かる。

図表1 育った家庭での性別役割規範(%)

育った家庭で雰囲気を感じたり、言われたりした割合

(注)各項目について、雰囲気を感じたり、直接言われた経験をたずねる設問で、選択肢(1.全くなかった、2.ほとんどなかった、3.時々あった、4.しばしばあった、5.頻繁にあった)のうち、3〜5を選んだ人の割合。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

地域社会に残るジェンダー規範

次に、現在居住する地域において、性別役割規範に関わる雰囲気を感じたり、直接言われたりした経験を持つ割合を示したものが図表2である。これによると、大都市圏と比べて地方圏で経験率が高い傾向にある。地方圏では、女性に育児・介護や食事の準備・お茶出しを期待し、男性にリーダー役を期待する傾向が強い。

図表2 現在居住する地域での性別役割規範(%)

現在居住する地域で性別役割規範を感じる割合(注)各項目について、雰囲気を感じる割合をたずねる設問で、選択肢(1.全くなかった、2.ほとんどなかった、3.時々あった、4.しばしばあった、5.頻繁にあった)のうち、3〜5を選んだ人の割合。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

キャリアにつながる仕事がより少ない

次に、居住地域における女性のキャリアにつながる就業機会について尋ねた結果を示したものが図表3である。「求人はあるが、将来のキャリアにつながるような仕事が少ない」「求人はあるが男性向きの職種が多い」「女性が専門性やスキルを生かせる仕事が少ない」「子育てや介護と両立しやすい柔軟な働き方の仕事が少ない」のいずれにおいても、地方圏で該当割合が高い。

図表3 居住地域における女性の就業機会(該当割合、%)

居住地域における女性の就業機会(注)「あなたがお住まいの地域では、女性が働く機会はどのくらいありますか? あてはまると思うものをすべて選んでください」という質問に対して、選択した割合。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001(群間差のカイ二乗検定による)。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

「選択肢がない」という感覚はどこから生まれるのか

こうした性別役割規範や、仕事・キャリアにつながる就業機会の少なさは、地方圏で働く女性が、居住地域において選択肢がないという感覚を持つことと関係していると考えられる。図表4に示す通り、「居住地域における女性の生き方・働き方に選択肢がない」と感じる割合は、地方圏の女性で約3割となっており、都市圏の女性の倍に近い水準となっている。

図表4 居住する地域における女性の生き方・働き方の選択肢についての考え(%)
居住する地域における女性の生き方・働き方の選択肢についての考え(%)

(注)居住する地域における女性の生き方・働き方の選択肢は、【A】今住んでいる地域では、女性の生き方や働き方に選択肢がない、【B】今住んでいる地域では、女性の生き方や働き方に選択肢がある、という文に対し、1.Aに近い、2.ややAに近い、3.どちらとも言えない、4.ややBに近い、5.Bに近い、から選択する設問による。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

地域における性別役割規範の強さ、女性のキャリアに資する就業機会の不足、そして女性の生き方や働き方に選択肢がない感覚は、一つの構造として捉える必要がある。地域における性別役割規範の強さは、地元企業が女性人材に期待する役割にも影響を与えうる。このような性別役割規範の強さや就業機会の不足は、女性が地域で「選択肢がない」と感じる要因となりうる。

実際に、地方圏の女性のデータを用いて、居住地域における性別役割規範の強さや女性のキャリアにつながる就業機会の不足と、「女性の生き方・働き方に選択肢がない」という感覚との関係を構造方程式モデリングで分析すると、性別役割規範の強さと就業機会の不足の間には相関があり、両者はいずれも「選択肢がない」という感覚と正の有意な関係を持っていた(図表5)。

図表5 居住地域における性別役割規範・女性のキャリアにつながる仕事の不足と、女性の生き方・働き方の選択肢の関係
居住地域における性別役割規範・女性のキャリアにつながる仕事の不足と、女性の生き方・働き方の選択肢の関係

(注)数値は標準化係数を示す。***は1%水準で統計的に有意であることを表す。構造方程式モデリング(SEM)により推定。サンプル数=1,030(地方圏の女性)。RMSEA=0.049、CFI=0.985、TLI=0.977、SRMR=0.025。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

子に「この地域で生きてほしい」と思えるか――持続可能性との関係

居住する地域における生き方や働き方に選択肢があるかどうかは、自身が今の地域で暮らし続ける意向や、子どもが将来どの地域で暮らすことを望むかにも関わると考えられる。

実際に、地方圏の女性を、居住する地域で「女性の生き方・働き方に選択肢がない」と回答したグループ、「どちらとも言えない」と回答したグループ、「選択肢がある」と回答したグループに分け、「充実した人生を送るために子どもに将来、他の地域で生活してほしい」と回答した割合を見たものが図表6である。これによると、「どちらとも言えない」「選択肢がある」としたグループでは、子どもに将来他の地域で生活してほしいと考える割合は4人に1人程度であったが、「選択肢がない」と考えるグループでは約半数に達した。

図表6 子どもに将来、他の地域で生活してほしいと思う割合(地方圏女性、居住する地域における女性の生き方・働き方の選択肢別%)
子どもに将来、他の地域で生活してほしいと思う割合(地方圏女性、居住する地域における女性の生き方・働き方の選択肢別、%)

(注)地方圏の女性を、居住する地域において女性の生き方・働き方に「選択肢がある」と回答したグループ、「どちらとも言えない」と回答したグループ、「選択肢がない」と回答したグループに分けた。その上で、それぞれについて「子どもに将来生活してほしいと思う地域」に関する設問で、「他の地域」を挙げた人の割合を求めた。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)

以上の結果から、地域における性別役割規範の強さや、女性のキャリアにつながる就業機会の不足は、女性が「選択肢がない」と感じる要因となっていることが示された。さらに、そのような環境のもとでは、子どもを同じ状況に置きたくないという思いが、将来は他の地域で暮らしてほしいという意向につながっている。

女性が生き方や働き方を選択できる環境を整えられるかどうかは、地域の持続可能性そのものに関わる問題である。

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。

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