見えないブレーキは、どうすれば外れるのか――地方圏の女性の行動を後押しする要因
第3回のコラムでは、女性が仕事やキャリアについて主体的に行動することの重要性を、データと現場の声の両面から示した。一方で、同コラムで見たように、地方圏では地域や家庭内の性別役割規範、キャリアにつながる就業機会の不足が、女性の行動を阻む「見えないブレーキ」となっている。
では、何があればこのブレーキは外れるのか。地方圏で働く女性が、自分の仕事やキャリアに向けて主体的に動き出すための条件は何だろうか。本稿では、その鍵となる2つの心理的要因に着目し、データに基づいて整理する。
キャリア行動を後押しする「認識」に注目する
キャリアへの主体的な取り組みを考える上で参考になる理論に、「社会認知的キャリア理論(Social Cognitive Career Theory:SCCT)」がある。心理学者アルバート・バンデューラの社会認知理論を基盤に、1990年代に提唱された枠組みである(※)。自己効力感(自分はできるという感覚)と結果期待(行動すれば報われるという見通し)が、キャリアへの関心や目標設定を通じてキャリア行動を促すと考える。
この枠組みは、地方圏の女性がこれからの仕事やキャリアに向けて行動する際にも示唆的である。周囲から「女性の主な役割は育児や家事である」といった期待を受けている場合や、本人がそれを無意識に引き受けているとき、既存の前提を越えて行動するには、「自分で切り拓ける」「行動すれば報われる」と感じられることがより重要になる。
「できる」と「報われる」が、行動を引き出す
そこで本研究では、この理論を参照しつつ、地方圏で働く女性の状況に応じたキャリアの自己効力感と結果期待、主体的なキャリア探索行動を測定する独自の設問を作成し、アンケート調査によって聴取した。その関係を示したのが図表1である。
結果を見ると、自己効力感が高い人ほど主体的なキャリア探索行動を多く行う傾向が確認された。結果期待についても同様である。すなわち、「自分はできる」「やれば報われる」という認識が強いほど、実際のキャリアに関わる主体的な行動も広がる傾向がある。
図表1 キャリアの自己効力感・結果期待と主体的なキャリア探索行動スコア
(注)地方圏の女性のデータ。キャリアの自己効力感(12項目)、キャリアの結果期待(10項目)、主体的なキャリア探索行動(9項目)のそれぞれの設問の回答(1.あてはまらない~5.あてはまる)の平均値をスコア化した。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)
キャリアの捉え方が変わると、今の仕事への行動も変わる
自分の力でキャリアを切り拓けるという感覚や、そこから良い結果が得られるという見通しは、現在の仕事への向き合い方にも影響すると考えられる。そうした認識がある場合、仕事を単なる与えられた役割ではなく、自分の将来につながる機会として捉えやすくなるためである。
その結果、業務の進め方や同僚との関わり方、仕事の捉え方を見直すなど、仕事の質を自ら変えていく行動、いわゆるジョブ・クラフティングが促される。実際に、キャリアの自己効力感と結果期待のスコアが高いグループ、中程度のグループ、低いグループに分けたところ、両者とも高いグループほど、主体的に仕事を見直し、より良い仕事経験を積もうとする傾向が確認された(図表2)。
図表2 キャリアの自己効力感・結果期待と、ジョブ・クラフティングの関係
(注)地方圏の女性のデータ。キャリアの自己効力感(12項目、5件法)、キャリアの結果期待(10項目、5件法)、主体的な仕事の変更(ジョブ・クラフティング、6項目、5件法)の平均値をそれぞれのスコアと見なし、キャリアの自己効力感スコア・結果期待スコアの三分位(低・中・高)グループ別に、主体的な仕事の変更スコアの平均値を求めた(グラフ中の表示は平均値からの乖離)。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)
キャリアへの手応えが、「この地域で生きる」理由となる
さらに、自己効力感と結果期待は、地域で暮らし続ける意向とも関係している。キャリアの自己効力感・結果期待のスコアについて、高いグループ、中程度のグループ、低いグループ別に、今の地域で暮らし続ける意向との関わりを見たところ(図表3)、共にスコアが高いグループにおいて、今の地域で暮らし続ける意向が高くなる傾向が見られた。
図表3 キャリアの自己効力感・結果期待と、今の地域で暮らし続ける意向の関係
(注)地方圏の女性のデータ。【A】もし可能なら、他の地域で暮らしたい、【B】もし可能なら、これからも今の地域で暮らし続けたいという文について、5件法(1.Aに近い、2.ややAに近い、3.どちらとも言えない、4.ややBに近い、5.Bに近い)での回答を「今の地域で暮らし続ける意向スコア」と見なし、キャリアの自己効力感・結果期待の低・中・高グループごとの平均値を示した。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)
認識が行動と定着をつなぐメカニズム
最後に、これらの関係を統合的に捉えるため、キャリアの自己効力感と結果期待が「主体的なキャリア探索行動」「ジョブ・クラフティング」「地域で暮らし続ける意向」に与える影響を同時に分析した(図表4)。
その結果、自己効力感と結果期待はいずれも、主体的なキャリア探索行動およびジョブ・クラフティングに対して正の関係が確認された。さらに、地域で暮らし続ける意向にも、弱いながら正の関係が見られた。
ここから、自分のキャリアを切り拓けるという感覚と、行動すれば報われるという見通しが、個人の行動を後押しするだけでなく、その地域で働き、暮らし続けるという選択にもつながっている可能性が示唆される。
図表4 キャリアの自己効力感・結果期待の影響分析
(注)地方圏の女性のデータ。構造方程式モデリングの結果。統計的に有意な関係が確認されたもののみ数字を表記。いずれも標準化係数。
(出所)リクルートワークス研究所「地方圏で働く女性のキャリアに関する調査」(2025年)
キャリアへの自信と期待をどう作るのか
以上の結果から、地方圏の女性が自己効力感や結果期待を持つことは、キャリア行動を促すだけでなく、現在の仕事への主体的な関わりや、地域で暮らし続ける意向とも関係していることが分かる。
では、こうした自信や期待はどのように形成されるのか。次回は、この点に焦点を合わせて検討する。
(※)Robert W. Lent, Steven D. Brown, Gail Hackett,”Toward a Unifying Social Cognitive Theory of Career and Academic Interest, Choice, and Performance”, Journal of Vocational Behavior,Volume 45, Issue 1,1994, Pages 79-122.
大嶋 寧子
東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。
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