地方圏で働く女性のキャリアに着目する理由

2026年05月18日

就業率は上昇したが、問題は残る

日本において、女性の就業率は社会の変化を示す重要な指標の一つである。総務省「労働力調査」によれば、女性の就業率は年齢に関わらず上昇しており、2025年には年齢計で55.1%となった。子育て期の女性の就業率が低下する、いわゆる「M字カーブ」については解消傾向にあり、20代後半から50代前半まで就業率が8割を超える状況となっている(図表1)。

図表1 年齢階級別・女性の就業率(1975、1985、1995、2015、2025年)

年齢階級別・女性の就業率(出所)総務省統計局「労働力調査」

では、こうした就業率の上昇は、女性が働くことをめぐる課題の解消を意味しているのだろうか。実際には、就業率の改善だけでは捉えきれない構造的な制約がなお残されている。とりわけ、男性は仕事、女性は家事・育児といった役割分担意識は依然として根強く、こうした傾向は都市部よりも地方圏において強く現れることが指摘されている。実際、内閣府「令和6年度 地域における女性活躍・男女共同参画に関する調査報告書」によれば、固定的な性別役割分担意識を「感じていた」とする割合は、すべての項目で地方出身の女性が最も高く、そうした規範に接してきた経験がより強いことが示されている。

こうした環境のもとでは、女性は「家庭に支障のない範囲で働くもの」という前提の中で就業を選択しやすい。結果として、意欲や能力を十分に発揮しにくくなるだけでなく、人材不足に直面する地方企業にとっても、人材を生かしきれない状況が生まれている。

この問題は、個人の働き方にとどまらず、地域の持続可能性にも関わる。後続のコラムで示すように、都市圏と比較して、地方圏の女性では、自分の生き方や働き方に選択肢がないと感じている割合が高い。さらに、そのように感じている女性ほど、子どもには将来、地域外で暮らしてほしいと考える傾向がみられる。つまり、女性の生き方や働き方を「ある形」に押し込めることは、最終的にそこから抜け出そうとする反発を招きかねないのである。

このような状況を変えるために、単に女性を応援するだけでは不十分だろう。女性は家庭に支障がない範囲で働くべきという周囲の期待が強い場合や女性がそれを内面化している場合、それを超えた展望を描きにくく、またそのような行動を取ることには大きな不安や心理的負担が伴うためである。

以上を踏まえ、本研究では「女性が自らのキャリアのために行動できる条件は何か」を検討する。とりわけ注目するのは、家庭の事情で仕事を控えめにした後の就業経験の「質」である。こうした経験が、その後の行動にどのような影響を与えるのかを明らかにする。そのうえで、自治体や企業がどのような就業機会を設計すべきか、女性がキャリアに向けて行動しやすい地域づくりの要件を検討する。

解明に向けた3つのステップ

本研究では、以下の3つのステップで分析を進めた。

第1に、全国で女性のキャリア支援に取り組む支援者や実務家への聞き取り調査である(詳細はインタビュー記事を参照)。ここから見えてきたのは、首都圏と地方圏では働く環境に依然として大きな違いがあること、そして地方圏では、女性が家庭に支障のない範囲で働くことが前提となりやすく、働くことに自らブレーキをかけやすい構造である。仕事が家計のための手段にとどまりやすく、前向きな選択になりにくい点も指摘された。

さらに、経営者側にも「女性の仕事はこれ」といった固定的な見方や、過剰な配慮によって機会が制限される傾向がみられ、キャリア形成につながる経験が得にくい状況が確認された。

図表2 本研究のプロセス

本研究のプロセス第2に、地方圏で働く女性へのグループインタビューである。対象は、家庭の事情で一時的に仕事を控えめにした経験を持ちながら、現在は生き生きと働いている女性である。これまでの就業経験や、仕事の量や幅の拡大、独立・転職、新たな職種への挑戦に至ったきっかけを尋ねた。その結果、仕事に踏み出すきっかけは、将来への不安や収入の必要性、子どもの成長など、身近で現実的な要因であることが多いと分かった。一方で、仕事を通じて自分の強みややりがいを実感した経験が、その後の転職や新たな挑戦につながるケースも確認された。

第3に、家庭の事情で一時的に仕事を控えめにした経験を持ち、現在就業している既婚女性(配偶者・子どもあり)を対象とした定量調査を実施した(図表3)。本調査では、就業実態に加え、キャリア意識や行動、生育家庭や地域における性別役割期待の認識、これまでの就業経験の内容などを把握している。以下では、断りがない限り、本コラムの分析はこの調査に基づく。

次回以降は、この定量調査の結果をもとに、地方圏の女性のキャリアの実態を明らかにし、最終的に自治体や企業への示唆を提示する。

図表3 定量調査の概要

定量調査の概要

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。

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