女性キャリアの自信と期待を育てる地域・職場づくり――自治体・企業は何に取り組むべきか
ここまでのコラムでは、地方圏で働く女性がキャリアのために主体的に行動するには何が必要かを、主にデータに基づいて検討してきた。本稿では、その結果を踏まえ、女性が仕事やキャリアに向けて主体的に行動できる地域を作るために、自治体や企業が何に取り組むべきかを整理する。
地方圏の女性を取り巻く環境
まず、これまでの分析から明らかになった点を整理する。
地方圏で働く女性を取り巻く環境と地域の持続可能性との関係については、以下の点が確認された。
・地方圏の女性は、性別役割規範や良質な就業機会の不足に直面しやすい
・こうした環境は、生き方・働き方の選択肢が限られているという認識と結び付いている
・選択肢がないと感じる女性ほど、子どもに将来他の地域で暮らしてほしいと考える傾向がある
次に、これからの仕事やキャリアを探索する行動に関しては、以下の点が確認された。
・多くの女性が情報収集などは行っているが、スキル習得やキャリア設計といった具体的な行動にはつながりにくい
・行動の幅が広い女性ほど、生き生き働く実感や将来への展望を持つ傾向がある
・一方で、地方圏ではキャリアを前向きな選択として捉えにくい構造が存在する
さらに、女性の主体的なキャリア探索行動を促す要因として、以下が確認された。
・キャリアの自己効力感や結果期待を持つ女性ほど、主体的なキャリア探索行動を幅広く行い、今の仕事への主体的な関わりや地域で暮らし続ける意向も強く持っている
・家庭の事情で仕事を控えめにした後、挑戦的な仕事で模索した経験や、仕事を通じて自分の強みややりがいを理解した経験があると、キャリアの自己効力感や結果期待も高い傾向がある
・ロールモデルや周囲の理解は、キャリアの自己効力感や結果期待と直接の関わりを持たない
以上を踏まえると、女性が主体的に行動し、選択肢を持てる地域を作るためには、仕事での挑戦機会の提供とともに、仕事を通じて強みややりがいを認識できるような評価やフィードバックを行う職場づくりが重要である(図表)。
図表 就業経験が心理的要因を通じて、行動・意欲を促す関係の模式図
変化を生み出すための自治体の役割
全国で自治体や地域企業と連携し、女性のキャリア支援に取り組む株式会社WILL Lab.代表取締役の小安美和氏によれば、地方では、都市部以上に固定的な性別役割分担意識が強く、その前提が企業における役割にも影響しているという。例えば、正社員は全員男性で、女性は全員補助的な業務を行う非正社員と決まっている職場など、性別で役割や職務が決まる職場もあり、過剰な配慮をしたり、評価制度が未整備なため、短時間で質の高い仕事をしても評価されなかったりということもある。他方で、長年同じやり方をしてきた企業が自らで変わることは困難であり、変化をリードする自治体の役割が欠かせない。
では、女性がキャリアに自信と期待を持ち、行動できる地域を作るために、自治体は何をすべきか。
1.ゴールの再設定
地域における女性活躍や男女共同参画のゴールを、単に女性が働くことだけでなく、自分のキャリアに自信と期待を持ち、行動できることに置く必要がある。そのことは、女性が生き生き働けることだけでなく、地元企業を支える人材の確保や、地域で暮らし続けたいという希望の醸成にも関わる。
その際、ロールモデルや仕事と家庭の両立に理解のある職場づくりだけでは、地域の女性がキャリアに自信や期待を持ち、行動する上で不十分である可能性が示されていることにも十慮する必要がある。
2.企業と連携した女性の就業の実態把握
地域で働く女性が置かれる状況をデータで把握することが重要である。地元企業と連携し、企業実態調査を実施し、女性の賃金や職務配分、昇進機会に偏りがないか、女性のキャリアに関する意識の現状や課題をデータで検証することが望まれる。制度の有無と実情の間にはギャップがあることも少なくないため、当事者の視点で現状を把握することが重要である。
なお、地域における性別役割規範の強さと、女性がキャリアを積める就業機会の多寡には関係があることを踏まえ、地域における性別役割規範の見直しに関わる啓発や対話の機会を充実させることも欠かせない。
3.職場づくりの支援
企業と連携し「女性のキャリアへの自信と期待を育てる地域・職場づくり(女性の挑戦機会と強みの把握機会のある就業機会の創出・拡大)」に取り組むことが望まれる。
企業調査を行い、女性に挑戦的な仕事を任せているか、仕事の成果に対する正当な評価や承認、個人の状況に応じた人材育成を行っているかを検証し、経営者への啓発、管理職研修、企業表彰などを通じて既存のあり方を変えていくことが重要である。
企業の取り組み
企業においても、「男性だから」「女性だから」という思い込みを捨て、挑戦的な仕事を任せていくこと、その経験を評価すると同時に、強みとなる部分を確認するフィードバックの機会を設けることが重要である。
1.「見えない偏り」を可視化する
企業のなかで生じている男女差は、必ずしも明示的な差別として現れるとは限らない。役職や雇用形態、担当業務の分布、あるいは「誰にどの仕事を任せているか」といった日常的な判断の積み重ねのなかに、無意識の偏りとして現れることが多い。
そのため、まず必要なのは、自社の現状を可視化することである。役職や雇用形態、職務内容の男女別の分布を把握するとともに、経営者や管理職が「女性はこういう働き方を望むはずだ」といった前提を置いていないかを点検する必要がある。また、社員が忖度なく意識や課題を共有できる機会を設けることで、表に出にくい問題を把握することも重要である。
2.「配慮」が機会の制約になっていないかを見直す
ヒアリングからは、「女性は家庭の事情があるから」という前提のもと、仕事の範囲や責任が限定される傾向が指摘された。こうした配慮は一見合理的に見えるが、結果として女性のキャリア形成の機会を狭めている可能性がある。
重要なのは、「働ける時間」を軸に仕事内容を決めるのではなく、「どのような経験が本人の成長やキャリアにつながるか」という観点を組み込むことである。一律に配慮するのではなく、本人の意向を確認した上で仕事を任せることが、機会の公平性を高める。
同時に、男性側に負担の大きい業務が偏っている場合には、それも含めて業務配分全体を見直す必要がある。特定の性別に役割が固定化されている状態そのものが、職場の柔軟性を損なっているためである。
3.「挑戦の機会」を意図的に設計する
女性が自らのキャリアに踏み出すきっかけとして、「新しい仕事に関わる経験」や「責任ある役割を担う経験」が重要であることが示唆されている。しかし、現状ではこれまでの慣習や、女性には家庭があるからという一律の配慮により、女性がそうした機会を得にくいケースが少なくない。
そのため、女性社員が新しい業務や役割に挑戦する機会を意図的に設計することが必要である。リーダー職を任せることや、仕事の進め方を自ら考える余地を与えること、改善提案を発信できる場を整えることなどは、その具体的な取り組みとなる。
また、こうした挑戦が単なる負担で終わらないように、柔軟な働き方の導入を進めることや、成果やプロセスについて具体的なフィードバックを行い、本人が達成感や成長を認識できるようにすることが重要である。
4.「強み」と「やりがい」を言語化する対話を行う
グループインタビューからは、仕事を通じて自分の強みややりがいを認識することが、その後のキャリア行動につながる重要な契機となることが示された。しかし、こうした認識は自然に生まれるものではなく、上司との対話のなかで言語化されることで初めて明確になる場合が多い。そのため、面談等の機会を活用し、本人の強みや得意なこと、やりがいを感じる場面について具体的に対話すること、その結果を紙やデータベースに記録することなどにより、いつでも振り返れるものとすることが有効性を高めると考えられる。
さらに、それらを踏まえて、本人の強みを生かせる仕事を意識的に任せるとともに、成長を言葉にして伝えることが、自己効力感の形成につながる。
「選択肢がある」と感じられる地域と職場を作る
企業が偏りを可視化し、仕事の任せ方を見直し、挑戦機会と対話の質を高めることは、女性がキャリアを主体的に選択できる環境の形成につながる。それは同時に、企業にとっても人材の能力を引き出すことにつながり、地域における人材の定着にも寄与する。
女性がこの地域で働き続けたいと思えるかどうかは、次世代がその地域で暮らしたいと思えるかどうかにもつながる。企業と自治体の取り組みは、個人のキャリアにとどまらず、地域の持続可能性を左右する重要な要素である。
大嶋 寧子
東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。
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