「無意味な仕事」は誰の仕事に宿るのか――基本情報に見る輪郭と限界
最初に、いくつかクイズを出してみたい。読む前に、一旦自分の職場、自分の仕事を思い浮かべて答えてみてほしい。たぶん、他人事ではない。
Q1 「無意味な仕事」が「束」になりやすいのは、何歳ぐらいだろうか。束のでき方は、年齢帯で変わるのか。
Q2 無意味さの束は、どの職種で厚く分布しているのだろう。営業か、企画・管理か、現場か、ITか――それとも職種差は小さいのか。
Q3 無意味さの束の分布が一番変わって見えるのは、会社規模・担当案件・役職のどれだろうか。
答え合わせはすぐにする。だが、その前に、ここまでの話を最小限だけ振り返っておきたい。
第9回では、「ブルシット」という強い言葉をそのまま持ち込まず、「無意味な仕事」という器で経験を受け止め直した。第10回では、その無意味さが「どれか一つ」ではなく、しばしば束として経験されることを確かめた。ムダ、作られた、うまく行きそうにない、報われない。違和感は単独で完結するより、重なって立ち上がる場面が少なくない。
では、その束は一体誰のところで厚くなりやすいのか。何歳くらいで束は立ち上がりやすいのか。どんな仕事(案件)を担うと、疑問や違和感が重なりやすいのか。役職や企業規模は、この地形にどんな影を落としているのか。
この第11回では、原因の議論に入る前に、まず見取り図を作る。使うのは、年齢・職種・企業規模・担当案件・役職といった基本情報だ。輪郭を押さえずに議論を始めると、だいたい空中戦になる。忙しいだけで、前に進まない。
では、答え合わせに入ろう。まずは年齢からである。
分析方法【モデル0】――「立ち上がり」と「雪だるま化」を分けて見る
束には、芽が出る段階と、雪だるまのように膨らむ段階がある。そして、その二つが同じ条件で進むとは限らない。そこで、次の切り口で分析する。
まず、4タイプ(「ムダな仕事」「作られた仕事」「うまく行きそうにない仕事」「報われない仕事」)のうち、該当がいくつあるかで、回答者を3群に分ける。
- 少:0種類(束がまだ立ち上がっていない)
- 中:1〜3種類(束ができ始めている)
- 多:4種類(束が最大化している)
そして、この3段階を一気に説明するのではなく、2つの境目に分けて見ていく(図表1)。
一つは、「少」→「中」へ移る動き――比喩として「立ち上がり」と呼ぶ。
もう一つは、「中」→「多」へ到達する動き――こちらを「雪だるま化」と呼ぶ。
以降は、それぞれの局面で、どんな条件がどちらに押しやすいのかを示していく。
図表1 「立ち上がり」と「雪だるま化」(※)

注:本イラストはAIを使用して作成しています。
この第11回で行うのは、犯人探しではない。5000人の答えを並べて、どこが濃く、どこが薄いかを確かめる作業だ。原因の話は、第12回以降に回す。この【モデル0】に入れるのは、①年齢、②職種、③企業規模、④担当案件、⑤役職の5つ。基本情報だけで、どのような輪郭が見えるかを試す。
結論を先に言っておく。輪郭は出る。だが、濃くはない。以下、Q1→Q2→Q3の順に要点を示していく。
Q1 年齢――山は2つある
年齢は、単純に「上がるほど増える/減る」では捉えにくい。データを丁寧に見ていくと、年齢の影響は2つの山として表れることがわかった。つまり、ある年齢帯で束がふっと立ち上がり、別の年齢帯でそれがもう一段押し上げられやすくなる。
【モデル0】の結果から示唆される輪郭は、次のとおりだ。
- 束の立ち上がり(0種類にとどまりにくくなる)は、20代後半付近で相対的に起きやすい
- 束の雪だるま化(1〜3種類から4種類へ押し上げられる)は、50代半ば付近で相対的に起きやすい
もちろん、「20代後半だから」「50代半ばだから」自動的にそうなる、という話ではない。年齢そのものが魔法のスイッチではない。むしろ、その年齢帯で典型的になりやすい役割・案件・責任の持ち方が、結果として2つの山を作っている――そう読むのが自然だろう。だから次に問うべきは、年齢そのものではなく、その年齢帯で何が起きているのかである。
Q2 職種――名札だけでは決まらない
職種は次の8分類で確認した。
<職種カテゴリ>
- 事務・秘書
- 営業
- 販売・接客・サービス(対人フロント)
- 現場オペレーション(生産・物流・現業)
- IT・Web(デジタル職)
- 研究・開発/技術
- 専門職・その他
- 企画・管理(本社/スタッフ)
職種は、直感的には効きそうに見える。会議が多い職種、現場に張りつく職種、顧客対応に追われる職種――想像はいくらでもつく。
だが【モデル0】の範囲では、職種は分布をまったく動かさないわけではないものの、単独で決め手になるほど強くは効かないという結果だった。差が見える箇所は限られ、出たとしても「薄い」ことが多い。
職種は名札であって、中身そのものではない。同じ職種でも、裁量、決裁の段数、役割分担、支援の厚さ、ツール、手戻りの起きやすさで体感は簡単に変わる。要するに、職種は入口にはなるが、そこだけ見ていても理解は深まらないということだ。
Q3-1 企業規模――わかりやすい傾向は浮かび上がらない
企業規模は次の区分で分析した。
<企業規模カテゴリ>
- 従業員数300~500人
- 同500~1000人
- 同1000~2000人
- 同2000~5000人
- 同5000~10000人
- 同10000~30000人
- 同30000人以上
企業規模を加えると、【モデル0】で描かれる地図のピントが、わずかに合う。だから、規模は外してよい要素ではない。とはいえ、特定の規模が「立ち上がり」や「雪だるま化」を押し上げる――そんなわかりやすい傾向は浮かび上がらなかった。「規模が大きいほど……」「中規模ほど……」「規模が小さいほど……」といった一方向の流れも見えにくい。
規模は背景にはなるが、それ自体が答えにはなりにくいようだ。組織の大きさそのものより、規模に伴って生じやすい仕事の設計や回し方のほうが、束の厚みを左右している。そう考えたほうが、筋がよさそうだ。
Q3-2 担当案件――輪郭が一番くっきりする
次に担当案件である。調査では、この1年で「最も比重が大きかった仕事」を以下の中から一つ選んでもらった。年齢や職種、企業規模よりも、この「何を主に担っているか」が、【モデル0】では一番差をはっきりさせた。
<担当案件カテゴリ>
- 業績・成果…売上・利益・コスト削減/生産性向上、KPI(事業成果に直結する定量指標)の達成
- 業務プロセス改善…業務効率化、工数削減/品質向上、標準化、仕組み作り/エラー削減、リードタイム短縮
- 顧客価値向上…顧客満足度向上(CS)/クライアント対応力・提案力の向上/新規顧客開拓、既存顧客深耕
- 商品・サービス開発・研究…新製品・新サービスの企画開発/機能改善、競争力強化/イノベーション創出
- スキル・能力開発…専門知識・技術スキルの習得/資格取得、研修受講/業務遂行に必要な能力の強化
- マネジメント・リーダーシップ…部下育成、チームビルディング/メンバーの目標設定・評価/プロジェクトマネジメント能力の向上
- コミュニケーション・協働…専門間連携の強化/社内外ステークホルダーとの関係構築/情報共有の改善
- コンプライアンス・リスク管理…法令遵守、内部統制/情報セキュリティ、品質保証/事故・トラブル防止
- 働き方・環境整備…働きやすい職場づくり/安全衛生の確保/労働時間管理、健康経営 3.2
- 社会・組織貢献…会社行事・委員会活動への参画/SDGs・CSR対応/組織文化醸成、社内活性化
- とくにあてはまるものはない
まず押さえておきたいのは、前向きに見える仕事でも、無意味さは立ち上がるという点である。
業務プロセス改善、顧客価値向上、商品・サービス開発・研究、スキル・能力開発、マネジメント・リーダーシップ。名前だけ見れば健全で、必要で、できれば増やしたい仕事だろう。ところが、分析結果からは、こうした案件を主に担う層は、相対的に「0種類(束が立ち上がらない)」にとどまりにくいということが明らかになった。ゼロのままではいられない。違和感が1つ2つと芽を出し、束ができ始める側に、じわりと寄る。
改善する、開発する、能力を伸ばす。価値がある仕事ほど、「付け合わせ(周辺業務)」が増える。そういう側面があるのかもしれない。説明、調整、手続き、記録、やっている証拠作り。前向きな仕事のはずが、いつのまにか「なぜこれを今ここで?」という小さな違和感を抱え込む。ここまで来ると、肩書きや規模よりも、やはり「回し方」――仕事の設計や運用のほうを見に行く必要があるように感じられる。
ただし、話はここで終わらない。案件がはっきり効くのは、「立ち上がり」だけではないからだ。【モデル0】の分析からは、もう一つ別の輪郭が読み取れた。
ポイントは、「束ができ始めた状態(1〜3種類)」と、「束が完成してしまう状態(4種類)」を分けて見ていることにある。同じ「無意味さがある」でも、前者は引っかかりが増えてきた段階、後者は4つ全部が同時に立ち上がっている段階で、重さが違う。
その上で見ると、束ができ始めた状態から全部乗せへ押し上げられる――いわば雪だるま化は、「業績・成果」を主に担っている層で、相対的に起きやすかった。改善や開発、育成の仕事は「ゼロではいられない」方向には寄りやすいが、4つが揃ってしまうところまで押し上げる力は、数字を追う仕事の側に濃く見える。数字には魔力がある。
Q3-3 役職――「中間層がしんどい」だけでは語れない
最後に役職である。区分は次のとおり。
<役職カテゴリ>
- 役職なし
- 係長クラス
- 課長クラス
- 部長クラス
- 役員・取締役クラス
まず押さえておきたいのは、役職は「立ち上がり」の局面では、決め手になりにくいという点だ。一般社員でも係長でも課長でも、肩書きだけで「ゼロで済む/済まない」が決まるわけではない。無意味さの芽は、持ち場のあちこちに落ちている。
一方で、差が出るのは「雪だるま化」の局面である。課長クラスを基準に見ると、部長クラス以上は「4種類の側に入りにくい」傾向が示唆される。上位役職ほど、束が増え続ける配置から相対的に距離を取りやすい――そんな輪郭が浮かぶ。
これは「年齢」の結果(50代半ば付近で雪だるま化が起きやすい)と矛盾するようにも見えるかもしれない。だが、話はそう単純ではない。
50代半ばという年齢帯は、いわば「分岐が目に見えてくる場所」だ。同じ年齢でも、課長のまま局所戦を続ける人もいれば、部長以上として全体図を扱う側に移る人もいる。プレイヤーのままの人も、役職定年でプレイヤーに戻る人もいる。【モデル0】が示しているのは、この分岐の先で、部長以上に移った層(あるいは、部長以上の役職にとどまっている層)のほうが、雪だるまが完成しにくいという見取り図である。
つまり、「年齢が上がるほど雪だるま化する」という一本線ではなく、雪だるま化しやすい年齢帯の内部で、役職によって立ち位置が分かれている――そう整理される。もちろん、昇進すれば自動的に楽になる、という話ではない。責任は重くなる。だが、仕事の型も変わる。課長までの「目の前の詰まりを処理し続ける局所戦」から、部長以上の「優先順位や配分を動かす全体図」へ。その変化が、束の増殖にどこかでブレーキをかける可能性がある――ここでいえるのは、そこまでである。
まとめ
クイズの答えを並べると、こうなる。
Q1(年齢):山は一つではない。「立ち上がり」は20代後半付近、「雪だるま化」は50代半ば付近で相対的に起きやすい。
Q2(職種):差は出るが、名札だけでは決まらない。決め手にはなりにくい。
Q3(企業規模/案件/役職):企業規模は単独で分布を決めにくい一方、担当案件は比較的はっきり動く。役職は「立ち上がり」より、「雪だるま化」の局面で効き方が変わる(部長以上は「雪だるま化」しにくい傾向)。
輪郭は出る。だが、濃くはない――図表2は、まるで霧の中の地形図だ。先の予告は、その見え方を言葉にしたものだった。
図表2 「無意味な仕事」の輪郭(※)

注:本イラストはAIを使用して作成しています。
第11回の役割は、まず「どこが盛り上がり、どこが沈むのか」を押さえることにある。年齢、職種、企業規模、担当案件、役職。基本情報だけでも、束が厚くなりやすい部分の見通しは立った。ただし同時に、これらだけでは決定打にはならないこともわかった。輪郭は薄い。ここが大事だ。
そして、この「薄さ」は悪いニュースではない。むしろ次の回への手がかりになる。
年齢や職種や規模は、こちらの都合で動かせない。だが、仕事の回し方であれば、手を入れられる。手続きが増えすぎていないか。目的や優先順位が共有されているか。手戻りを呼ぶ設計になっていないか。部署間の連携はどうなっているか。無意味さが束になるかどうかは、こうした足元の条件に左右される可能性が高い。
次回(第12回)は、地図を片手に、現場の「詰まり」を見に行く。形式業務の多さ、手戻り、支援のない難題業務、穴埋め、社外対応――これらを加えた時、輪郭はどこまで濃くなるのか。ここから先は、読者の仕事と直結する話になる。
濱中 淳子氏
早稲田大学教育・総合科学学術院・教授
東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻博士課程修了。博士(教育学)。リクルートワークス研究所、大学入試センター研究開発部、東京大学高大接続研究開発センター教授等を経て、2019年4月より現職。
単著に『検証・学歴の効用』(勁草書房,2013年)、『「超」進学校 開成・灘の卒業生』(ちくま新書,2016年)、『大学でどう学ぶか』(ちくまプリマー新書,2025年)、共著に『教育劣位社会』(岩波書店,2016年)、『〈学ぶ学生〉の実像』(勁草書房,2024年)、編著に『大学入試改革は高校生の学習行動を変えるか』(ミネルヴァ書房,2019年)など。
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