研究員・アナリストの永沼早央梨、JPSEDが10年を迎え、実感したことは「継続は力なり」だそうです。

永沼 早央梨

2025年12月02日

リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season3」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第7回は、主任研究員 / 主任アナリストの永沼早央梨に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※Podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。

公的統計では捉えられない労働市場の変化を追う

――永沼さんはJPSED(全国就業実態パネル調査)と、企業の採用状況と採用見通しに関する調査という、2つの基幹調査を担当されています。それぞれについて、簡単に概略を教えていただけますか?

永沼: JPSEDは毎年約5万人の同一個人を追跡調査している大規模調査で、就業状態や労働時間、賃金といった主要な項目の他、働き方や主観など量と質の両面から日本の労働市場の変化を捉えることができる調査です。
企業の採用状況と採用見通しに関する調査は、全国の従業員5人以上の企業を対象に、新卒、中途採用の予定数、実績ですとか、見通しを調査しておりまして、大卒求人倍率調査中途採用実態調査など調査レポートとして毎年公表しています。

――実際に取り組んできた分析の中で、永沼さん自身が感じられた気づきみたいなものはありましたか?

永沼: 個人調査と企業調査という違いもありますが、2つに共通して言えるのは、政府の公的統計では捉えられない労働市場の変化を追い続けようと、リクルートワークス研究所が民間の研究所として使命感を持って取り組んでいる調査であるということです。

JPSEDは、総務省の「労働力調査」や「就業構造基本調査」で調査されている就業状態や働き方について、同一個人の変化を詳しく追っていますし、企業の採用状況と採用見通し調査では、厚生労働省が高校、中学新卒者を対象とするハローワークの求人状況を調査しているのに対して、ハローワーク以外の民間求人を把握するということで、大学・大学院の新卒者を対象に求人状況を調査しています。

――JPSEDは、公的統計では捉えられていない項目としてどんなものがあって、それを見ることによって、どんな労働市場の変化が見られるのか、具体的なところを教えてください。

永沼: 例えば、総務省の「労働力調査」を単年で追っていっても、なかなか分からない同一人物の就業状態間の変化、前年から今年にかけてどう変化したか。「就業構造基本調査」は、5年ごとの実施ですので、第1子出産離職率など、5年ごとに把握できるのですが、JPSEDでは毎年追うことができます。

今回10年のパネルを使って新たに見えた変化としましては、例えば、妊娠前の就業状態によって、その後の就業継続ですとか、あるいは、産前産後休業制度や時短制度などの利用率が生まれ世代ごとにどのように変化したかということも追うことができました。本当に幅広く多くの方の人生を追っているからこそ、生まれ世代による変化を描くことができたのではないかなと思っております。

研究や分析を行う上で大事にしていることは「継続は力なり」

――このような研究や分析を行う上で、永沼さん自身が大事にしていることは何かありますか?

永沼: 一言で表現すると、継続は力なりということかなと思います。本当に大がかりな調査になる分、そこにかける労力やコストも大きくなるんですけれども、短期的には変化や成果が見えにくかったとしても、5年10年と積み重ねていくうちに研究資産になるということが改めて実感として湧きました。

JPSEDでは、今年10周年を迎えたということでこの間の働き方改革やコロナ禍を経た変化と課題を提示することができましたし、企業の採用状況と採用見通しに関する調査では、初任給がどのように変化したのかを特別レポートということで公表することができました。研究や分析を行う上で近視眼的にならずに、中長期的な視野を持って取り組みたいということを個人的には心がけています。

人手不足の中で多様化する採用のあり方

――最近はどんな調査や研究に取り組んでいますか?

永沼:労働需給が逼迫して、人手不足が深刻化する中で、企業の採用に関する調査研究も重要性を増していますので、こちらに着手しています。
研究所では新卒採用と中途採用の調査をそれぞれ公表しているのですけれども、新卒でも中途でも企業が予定する採用数を充足しきれないという状況が見られています。
そうした中、新卒でもスキルや専門性を重視したり、中途であっても未経験者を対象に採用したりと、新卒、中途という垣根を越えて、採用のあり方が多様化する兆しが見られています。

研究としては、日本の新卒一括採用がどのように変容しているのか、ミスマッチを解消して労働移動を円滑化するにはどうしたら良いのかというテーマになるかと思います。背景にある思いとしましては、新卒就職という一度きりのチャンスではなくて、希望や努力次第でその後の仕事や人生を選択しやすい労働市場、あるいは経験やスキルを生かして就業できる労働市場に少しでも貢献したいという気持ちで取り組んでいます。そのためにも調査を通じて1つ1つの実態や変化を捉えていきたいなと思っております。

――背景にある思いとして、新卒就職という一度きりのチャンスではなくて、希望や努力によって、自分で選択ができる労働市場とか、経験とかスキルを生かして就業できる労働市場になったらいいなってお話ありましたけれども、永沼さん自身がこういったところに着目するようになったきっかけを教えてください。

永沼:1つの大きな理由とかきっかけがあるわけではないのですが、先ほどもお話ししたように、私自身の仕事やキャリアにおいても、継続は力なりということを意識して、今ワークス研究所で労働市場の研究をしています。
ただ振り返ってみますと、継続できることは決して当たり前ではなくて、私自身も様々な出会いとか、周囲の人の理解、応援に助けられた面も多いですし、本当に恵まれて、継続できたという面があるかなという風に思っています。

JPSEDの10周年での報告書でも分析した通り、女性やシニアなど就業率は高まった一方で、やはりライフイベントやライフスタイルの変化に伴って、経験やスキルが生かしにくいという現状も残っています。
私より若い世代の皆さんには、「大丈夫。続けたかったら続けられるし、続けられなくても別の選択肢もあるから心配しないで」と言えるように、私も社会の中の1サンプルですけれども、1歩1歩進めていきたいという風に思っています。

――ありがとうございました。

 人手不足に対応するために、今こそ腰を据えて取り組むべき2つの課題
  課題①:職業間ミスマッチの解消/課題②:潜在的な追加就労希望者の活用

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全国就業実態パネル調査10年の軌跡
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永沼 早央梨

2004年日本銀行入行。日米の雇用など国内外の景気動向調査、人口動態・経済構造の変化と労働市場に関する経済分析、金融システム安定のための調査研究に従事。
2024年10月より現職。一橋大学国際・公共政策大学院(公共経済専攻)修了。