『「令和の転換点」の研究』のプロジェクトリーダー古屋星斗に話を聞きました

古屋星斗

2025年10月16日

リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season3」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第4回は、主任研究員の古屋星斗に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※Podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。

――「令和の転換点」のプロジェクトは、非常に多くのエッセンシャルワーカーや公務サービスに取材を重ねていて、それらがHPや報告書の中で紹介されていますが、面白い事例や、未来のヒントになりそうなこと、いくつか紹介してもらえますか?

古屋:本当に「真実は細部に宿る」で、地方の現場では様々な試行錯誤が行われています。
こういう一つ一つの取り組みの中に、おそらく今後の社会を作っていくような、ある種のイノベーションみたいなものが隠れているんじゃないかなと思っています。

例えば報告書にも掲載した岐阜県飛騨市さんがすごく面白いと思うのは、日進月歩なんですよ。常に変わっている。だから今報告書に載せた内容ですら、もう既にアップデートされています。

普通に努力することが生かされる「高度の平凡性」

古屋:市長さんにもインタビューをしておりますが、今後リーダーには「挑戦の持続力」が求められるということをおっしゃっていて、私は本当に全く同意見です。
正解がないし、かなり状況が流動的なので、持続的に挑戦しなきゃいけないんですよね。

でもこれってすごく難しいことです。1回きりの挑戦や、やって終わり、ではないのですから。今後、労働供給制約になっていく社会で求められるものって、おそらく一人一人の挑戦力とか行動力とかそういうことではなくて、普通に挑戦できるようなシステムだと思うんですよね。

――なるほど。一人一人のやる気とか意欲とかに依存しないような。

古屋:そうそう。仕組みというか土台みたいな。
普通に生きていて、思いついたことをすぐに実行できるような、そういうプラットフォームとか、すぐに相談できるような、そういう社会だと思っています。だから最近地方に行ってお伝えしているのは、難しい言葉で言うと、「高度の平凡性」っていうことなんですよね。

――難しいですね。

古屋:高度の平凡性。ものすごく努力するんじゃなくて、普通に努力するということがうまく生かされるシステムのことなんですよね。
週に2日休めるとか、8時間交代でしっかり体制を作って、その上でしっかりとプロジェクトに取り組む。一人一人が限界まで働かなくても、普通に頑張れば成果が出るという体制。私はこの仕組みづくり、体制づくりが、「挑戦の持続力」のある社会においてすごく重要になってくるだろうなと思います。

新しい3K「関心、共感、感謝」とは?

――報告書の中で、古屋さんの方から「自己重要感」と「新3K」というキーワードが提示されていますけど、ここら辺は突破口のヒントになりそうですか?新3Kについて簡単に紹介してください。

古屋:これまで「きつい、汚い、危険」っていうのがエッセンシャルワークの3Kとして言われてきましたけど、私は統計調査で「新3K」を見つけました。新3Kは、「関心、共感、感謝」です。

――真逆ですね。

古屋:エッセンシャルワークで働かれている方々に対して、共感したり、関心を持ったり、感謝の気持ちを伝えたい方が、日本社会にはものすごく多いんですよね。
例えば、配達員に対して感謝の気持ちを伝えたい方は80%以上いたり、高齢者が働いているのを見て応援したいと感じるという質問に対して、「YES」と答えた方も70%ぐらいいます。国際調査をしていないのでわからないですが、おそらく過去の日本社会とか他の国と比べて高いんじゃないかなと。

というか比較するまでもなく、感謝の気持ちを伝えたい方が80%以上いるっていうのはちょっと、私もびっくりしましたし、やっぱり働き手が足りてないということがみんなわかってきて、ありがたいなと感じるようになってきているから、3Kが新3Kになってきてるのかもしれないですね。

――最後に、この「転換点」の中で、我々一人一人が意識できることや備えておくべきことを聞かせてください。

古屋:かなり大変だと思うんですよね。例えば賃金を上げる、ということをひとつ取っても、この30年間の事実というのは、経営者の皆様は賃金を1円も上げなくてよかったわけですよね。

ほとんどの中小企業の経営者の方というのは、跡を継いでご自身が経営者になってから、賃金を上げたことがないという状況にあったわけですよね。それは賃金だけではなくて、何でもそうです。例えば一人一人にとってもそうで、今後年収を毎年のように上げなければどんどん貧乏になっていくわけですよね、インフレですから。

人口動態によるインフレが日本では始まっているわけですから、本当に毎年賃金が上げられるのか、ということ。

また、企業にとっては賃金の問題もそうですが、設備投資をしてしっかり稼ぐ力を高めていかなくてはいけない、それも毎年のように。
自治体も、先ほど申し上げたように、試行錯誤や挑戦の持続力が必要になってきています。
私含めてほとんどの、今社会人として第一線にいる人がしてこなくてよかったようなことを、しなくてはならなくなってきている。考えなくてはならなくなってきている。

だからこそ、私が最後にお伝えしたいのは、決して一人で抱え込む必要はないということなんです。

これから先のできごと、決して一人で抱え込む必要はない

古屋:その悩みを抱えているのは、例えば経営者の方だったら、別にあなただけじゃない。ほとんどの人が賃金なんて上げたことないわけですから、大企業も中小企業も。ここ2年ぐらいの話なわけですよ、大規模に上げだしたのは。

だからほとんど経験がない。でもそれは別にあなただけの悩みじゃなくて、95%以上の経営者の共通する悩みになるわけですよ。
また、賃金を上げ続けなきゃ貧乏になるみたいな話も、これもほとんど全ての労働者が同じ状態にあるわけですよね。

もっと言うと、この問題って日本の社会だけのものなのかということもあるんですよ。
つまり高齢化と少子化によってですね、非常に、ある種「下り坂」というか、それこそ、そういった感覚を持っている老若男女が多くなってきた世の中なんですけど、新海誠監督の『すずめの戸締まり』という映画に、廃墟になった遊園地を指してですね、登場人物が「最近、寂しい場所が増えたよね」と言うシーンがあるんですけど、今後、寂しい場所がどんどん増えていくわけですよね。でも、そういった社会って、決して日本だけじゃないのです。先進諸国共通の課題になってきています。

少子化の問題というのは、一度乗り越えたようなヨーロッパの国であっても、再び二番底に直面しようとしていますし、東アジアの韓国とか中国は日本よりもさらに速いスピードで少子化と人口減少が始まってるわけですよね。
だから我々が今直面しているこの課題というのは、実は我々だけの問題じゃないわけです。
この寂しさとか、この「どうすればいいんだ」という気持ちは、決して一人ぼっちじゃないということを知ることが最初の一歩目かなと思います。

新3Kの「関心、共感、感謝」にもちょっとつながりますね。その関心そのものをみんなでね。

――一人で抱えるんじゃなくて、いかにこの転換点の中で、関心を共有し合うのかが、改めて大切なことなんだなって思いました。

古屋:今後、他人への関心というのは本当にすごく重要なんでしょうね。

――ありがとうございました。

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