研究員・アナリストの山口泰史が、研究や分析を行う上で大事にしていることは?

山口泰史

2025年11月14日

リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season3」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第6回は、研究員の山口泰史に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※Podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。

仕事の「スイッチ」は、毎朝のワイシャツ

――山口さんは以前、リモートワークの座談会(Season2)にご出演いただきました。その際、仕事のスイッチを入れるために毎朝ワイシャツに着替えて、川のせせらぎのような環境音を流す、というお話が印象的でしたが、今も継続されていますか?

山口: はい、およそ変わらずで、毎朝ワイシャツに着替えて仕事しています。以前とちょっと違うところとしては、環境音だけじゃなくて、少しメロディがついたものとかを流すようにして、ちょっとテンションを上げたりして。
ただ、夜お風呂に入った後に、さすがにワイシャツは着たくないなと思って(笑)。夜はパジャマで仕事してます。

――お休みの日は何をされていますか? 趣味などもあれば。

山口: 大学生の時にアコースティックギターで弾き語りをやってたので、それは趣味といえば趣味なんですが、今は小さな子供がいることもあって全然ギターさわってなくて、もうほとんど弾けない状況です。
休日は子供とプラレールの線路を組んだりとか、公園に遊びに行ったりとか、そういったことをしてるのが主かなと思います。

教育社会学から「JPSED」へ

――山口さんは2023年4月にワークス研究所に参加されたとのことですが、研究員になろうと思ったきっかけを教えてください。

山口: はい。もともと教育社会学という学問分野を専門にしてきて、大学・大学院と、ずっと高校生の進路選択を中心に、学校教育の中での選抜みたいな話と、将来の職業とか、そういった意味での地位の配分について研究をしてきたんです。それが博士論文で一区切りつくということもあって、その先、高校や大学を出た後の人生やキャリアを、人がどういうふうに形成していくのかというところが気になってきまして。

それと並行して、私は「パネル調査」と呼ばれる、ずっと同じ人に1年ごとにアンケートをとって追跡していくような調査に深く関わってきた経験がありました。その研究テーマと、パネル調査という方法の重なるところに、まさにJPSED(全国就業実態パネル調査)があったんです。それでJPSEDを入り口として、ワークス研究所に参加させていただくことになりました。

――そのJPSEDが、2025年9月に10周年のビッグイベントを開催しました。山口さんはどのあたりを担当されたんですか?

山口: JPSEDは、2016年に始まった調査なんですが、日本全国の人々の働き方を追い続けていて、同じ人がどんなキャリアを歩むのか、その変化を追えるのが一番の特徴で、極めて大規模なデータなので、色々な分析に使えるんです。

私はその中で、特に「働き方の定点観測」というコンテンツを固める役割を担っていたんですが、めちゃくちゃ大変でした(笑)。

――「働き方の定点観測」とは、どのような内容でしょうか?

山口: これは、日本の人々の働き方が、JPSEDを開始した2016年から今日までどのように変遷してきたかというものを追うものでして。「就業と生計の安定」「健全で柔軟な職場環境」「多様な人が活躍できる環境」「仕事にかかわる学びの機会」という4つの側面を設定しています。

具体的には、「不本意非正規雇用者」の人が翌年に正規雇用に転換している割合ですとか、長時間労働者の割合がどういうふうに移り変わってきたのか、といったことを追いかけるコンテンツで、これをレポートに落とし込むところを中心に取り組んできました。

データや分析の「確からしさ、もっともらしさ」を高めていくこと

――そうした研究や分析を行う上で、山口さんが大事にしていることは何ですか?

山口: 「なぜこうなっているのか」という問いやテーマも大事なんですけれども、それと並行して、特にアンケート調査のような量的なデータの分析から知見を出していく上では、データや分析の「質」を担保していくということが非常に重要でして、そこを特に大事にしています。

例えば、X(旧Twitter)の利用者に「AIについての利用状況」について調査を行ったとします。もし日本全国でのAI利用の状況を知りたくてそれをやったとすると、データとしてはかなり偏ってしまうわけです。Xの利用者はやはり情報に敏感であったり、インターネットの使い方に慣れている方が多いでしょうから、日本全体の状況よりもかなり高めにAIを利用しているという回答が出てきてしまいます。

JPSEDも含めて、アンケート調査は多かれ少なかれそういった偏りが出てきてしまうんです。その偏りに対処する方法がいくつかあって、「Xを利用している層だからこういうふうな偏りがあるんだ」という前提を置いて結果を解釈すること。あるいは、その前提を利用して、そのバイアス(偏り)を無理やり統計手法でコントロールすることなどが考えられます

こういった形で、結果の確からしさ、もっともらしさ――専門的に言うと「ロバストネス(頑健性)」を高めていくことが本当に重要で、私自身はそれを大事にして取り組んできております。

――それだけ向き合っていると、作業が果てしなくないですか?

山口: そうですね、もうこれ考え出すとやっぱりキリがなくって。ここを補正したりすると、今度はこちらが問題になってきてしまう、とか。あまり補正をやりすぎると、それこそAIで撮った写真みたいに「これって元々のものと全然違うよね」っていうことにもなってしまいがちで。

ですが、幸いJPSEDのチームで色々議論することができて、委員の先生方にもご相談させていただいて、それでなんとかやっているという状況ですね。

「正社員の増加」と「結婚の減少」という不思議な現象

――10周年のシンポジウムを終えて、最近はどんな研究をされていますか?

山口: はい、前回の石川さんと同じプロジェクトになりますが、「『家族』と『働く』のこれからを考える」というプロジェクトに取り組んでいます。私自身はJPSEDを用いて、家族と働き方のこの10年での変化というものを追っています。

この10年での特徴は、「正社員×専業主婦」という家族の形が減少し、単身の、要するに配偶者のいない正社員が増加しているというところが分析上は出てきています。

個人的に、少し不思議に思ってるところが、就業が相対的には安定している正社員が増える中で、安定しているのであれば結婚するという方向に向かいそうなものなんですけれども、結婚する人は減っているんです。

「正社員が増える」ということと「結婚する人が減る」ということ、それぞれでは、今の現象としては納得できるんですが、これを両方合わせて考えた時に少し不思議な現象だなと思うところもありまして、その背景を探ったコラムも執筆しました。そちらもぜひご覧いただきたいです。

――はい、楽しみです。ありがとうございました。

■山口さんのおすすめコンテンツ
働き方の定点観測2024一JPSEDで見る日本のトレンド一
※働き方改革や、コロナ禍の影響で大きく変化したこの10年の全体像を追いかけられます。
 来年以降も新しいデータを足して公開予定です。ご期待ください。

■リクルートワークス研究所presents  研究員の「ひと休み ひと休み」
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