「Global Career Survey 2024」のプロジェクトリーダー萩原牧子に話を聞きました。

萩原牧子

2025年12月22日

リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season3」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第8回は、主幹研究員 / 主幹アナリストの萩原牧子に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※Podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。

「日本型雇用」のおもな特徴が、今なお、日本の雇用の特徴と言えるのか?

―― 萩原さんは昨年度実施したプロジェクト「 Global Career Survey 2024」のプロジェクトリーダーを担当していました。まずは概要を教えてください。

萩原:「日本型雇用」のおもな特徴が、今なお、日本の雇用の特徴と言えるのかを、多国間調査によって検証するというプロジェクトです。ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、中国、スウェーデン、日本の7カ国の、30代・40代の雇用者を対象に調査を行いました。

―― 日本型雇用というと、一般的には新卒の一括採用や終身雇用などが挙げられるかと思います。今回の調査では、その日本型雇用の特徴を7つに分けて整理されていますが、簡単にご紹介いただけますか?

萩原: 新卒一括採用や長期継続雇用に加えて、企業主導の人事異動、OJTによる育成、年功型賃金、幹部の内部登用、企業別労働組合の7つですね。これらを他国と比較しながら、今も日本の特徴と言えるのかを検証しました。

―― 報告書を拝見しましたが、7つの特徴を全て備えている、いわゆる典型的な日本型雇用に当てはまる人は、実際にはかなり少なかったんですよね。

萩原: そうなんですよ。全てに当てはまるのは正社員の中の3.2%だけでした。

―― 3.2%しかいないというのは驚きですね。日本型雇用という言葉は、どこか一枚岩のようなイメージで語られがちですが、実際は企業によって全く違うということなんですね。ちなみに、この日本の雇用の特徴を明らかにしようとしたプロジェクトの狙いは何だったんですか?

萩原: 日本型雇用はすでに限界を迎えたといったように、今、様々な課題が提起されています。中には海外の働き方、いわゆるジョブ型を参考に日本の働き方を見直そうという動きも見られます。だけど、それらの議論を見てみると、「日本型雇用とはこういうものなのだ」という典型的なイメージ像を前提にしていることに気づいたんです。これからの日本の雇用のあり方を議論するなら、まず今の日本の雇用の実態を捉えることが必要だろうと考えました。

調査で浮かび上がった日本企業の課題とは?


―― 実際に調査をしてみて何か発見はありましたか?

萩原: 中でもすごく驚いたのは、日本が最もOJT機会が少なくて、異動の経験率も低かったということです。定期異動とOJTによって幅広い職務経験を持つ、いわゆるジェネラリスト人材を育てるというのが日本型雇用の典型的なイメージだと思うんですが、それが覆されました。

―― それは結構衝撃的な結果ですね。育成は日本の強みだと勝手に思っていたところがありました。

萩原: そうですよね。私たちもとても驚きました。一方で、新卒一括採用と長期継続雇用は、今もなお日本の雇用の特徴であるということも確認ができました。つまり、入り口と出口の枠組みが変わらない中で、育成が機能していないということです。そうだとすると、日本企業は長期で「塩漬け人材」を貯蔵しているということになります。人手不足と言われる社会において、とてももったいないことをしているなと思います。

―― それは結構問題ですね。そもそも、なぜOJTといった育成が機能していないのでしょうか?

萩原: 要因はいろいろあると思いますが、1つは経済やビジネスの環境の変化があると思います。経済が停滞していると挑戦する機会が少なくなってしまいます。だから、これまでのようにメンバーに「失敗してもいいからやってこい」といったアサインができる機会自体が減ってしまったのだと思います。さらに環境変化で言うと、例えばデジタル化が進むと、必ずしも上司のスキルや経験が役に立たない場合も出てくるということです。

―― 確かに。テクノロジーの進化も激しいですし、上司が正解を持っていることもだんだん少なくなってきています。管理職が育成するのが難しくなっているという話も聞きますね。

萩原: まさに管理職の負荷が高まっているということも大きな要因だと思います。働き方改革といっても対象がメンバーで、その分管理職が長時間労働になっているという話もよく聞きますし、メンバーが多様になって、マネジメントの育成自体の難度が上がっています。これを踏まえると、本当に管理職が育成に力を入れられるように、管理職の労働条件の見直しが必要になってくるなと思いました。

「学びと仕事の結びつき」について


――日本型雇用の7つの特徴を踏まえた上で、Global Career Surveyでは他にはどんな追加的な検証を行ったか教えてもらえますか?

萩原: 日本型雇用の「負の側面」と言われてきたものが、今なお、そうなのかという検証もしています。例えば、無業や転職経験がその後の働き方の選択肢を狭めると言われているが今もそうなのか、仕事の質や経験をそろえてもなお男女の賃金格差は残るのか、また「学びと仕事の結びつきがない」と日本では言われるけど本当か、といったことを検証しています。

―― どれもすごく興味深いですね。「学びと仕事の結びつきがないと言われるが本当か」という点について、実際はどうだったんですか?

萩原: 大学での専攻と現在の仕事・職種の関連は、実は他国と比べて弱いかと言われると、決してそうではないということが分かりました。にもかかわらず、「学んだ内容が今の仕事に生かされていますか」という質問に対して、日本は圧倒的に低く、さらに「次のキャリアに必要なスキルが分かっていますか」という設問に対しても、回答は圧倒的に低いということが分かったんです。そういう意味では、学びと仕事の結びつきが弱いと言えるかもしれません。背景としては、これまで企業主導でいろいろ決まってきた中で、何を学べば次につながるのかが見えないというのが実態なのかなと思います。

―― 複雑ですね。大学での学びと仕事の選択という点では他国と比べて変わりはないけれど、今の仕事において学んだことが生かされているかというと弱い。さらには次のキャリアにおいて何が必要なのかという点についても弱いということですね。

萩原:従業員からすると、今の仕事に必要なスキルやこの先必要になってくるスキルがきちんと分かっていない。一方で企業からすると、これまで与えてきた企業主導の異動が減ってきていますし、学びの機会そのものも減ってきている。従業員側からするとどうしていったらいいのか分からないという、過渡期なのかなと感じました。

―― 昨今キャリアオーナーシップの重要性が言われていますが、個人に選択肢を渡すのであれば、萩原さんがおっしゃったような「何を学べば次につながるのか」をきちんと企業側も提示することが大事ですし、そこに対して従業員側も選択をしていくというふうに、双方でやっていかなければいけないのかなと改めて思いました。ありがとうございました。

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萩原 牧子

「Global Career Survey」研究プロジェクト プロジェクトリーダー。大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年にリクルートワークス研究所に参画。首都圏で働くひとを対象にした「ワーキングパーソン調査」の設計や、全国の約5万人を対象にした「全国就業実態パネル調査」の立ち上げを経て、2019年から調査設計・解析センター長を務める。個人の就業選択や多様な働き方について、データに基づいた研究、政策提言を行う。公共経済学・労働経済学専攻。専門社会調査士。