
研究プロジェクト『「マネジメント」を編みなおす』のリーダー辰巳哲子に話を聞きました
リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season3」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第3回は、研究員の辰巳哲子に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。
マネジャーが忙しすぎて「罰ゲーム」と言われてしまう現状
――辰巳さんは、『「マネジメント」を編みなおす』というプロジェクトのリーダーを担当されていましたが、本日はこのプロジェクトについてお話を聞かせてください。 まず最初に、なぜこの『「マネジメント」を編みなおす』というテーマについて、研究したいと思ったのか? そのきっかけはどんなところにあったのでしょうか?
辰巳:今回の『「マネジメント」を編みなおす』は、前回のポッドキャストでも少しお話しした「学習を阻害する職場の研究」と、実は発想としてはすごく近いんです。
私は個人が学びやキャリアの主導権を取り戻すにはどうしたらよいのかというテーマを、研究の中心に据えているんですけれども、それを実現しようとすると、マネジャーがどのように個人に関わるかというのはとても大きな問題で、そのことについて考えているうちに、マネジャー自身も実は自分の仕事の主導権を持ちきれないような組織の仕組みになっていることに気づいてしまったというのが、このプロジェクトを進めようとした理由です。
例えば、ある人がすごく能力が高くて、すごく力のある人であったとしても、それを発揮しやすい環境と発揮しづらい環境ってありますよね。
今はマネジャーのスキル向上だけではどうにもならないぐらい、外部環境の変化のスピードが速いんです。で、その外部環境の変化のスピードが速い中で、マネジャーが忙しすぎて「罰ゲームだ」と言われ、なり手がいないような状況になっています。
これはもう個人のスキルの視点を超えた構造的な問題なので、マネジャーにそうさせているものは何なのかという発想で考え始めました。つまり、人の問題じゃなくて、仕組みの問題を考えるということです。
――実際に企業の方と会話した中で、どんな問題が起こっていると捉えましたか?
辰巳:企業の方と話していると、例えば短期業績のためのマネジメントと、中長期的な事業価値を高めるためのマネジメントっていうのが両立しておらず、短期的な動きしかできない、今目の前にあることへの対応で、もう必死すぎて、それ以外のことがなかなかできないという課題感、また、部長クラスの方が、実現したいと思っている戦略があるのに、それができる体制になっていないということの課題感が非常に大きいように思っています。
私の問題意識もまさにそこにあります。事業価値を実現するために、組織のファーストラインのマネジメント機能は、そもそもこうありたいっていうことを、まず部長クラスの方が言葉にしていかなければ組織は変わらないという風に思うんですね。
――あれもこれもやろう、両方頑張ろうっていう風に現場のマネジャーに押し付けていくのではなくて、それをどんな仕組みで解決していったらいいのだろうかということから考え始めることが、大事なんだなと改めて思いました。ありがとうございます。
このプロジェクトの報告書は、ウェブサイトに掲載されていますので、ぜひ皆さんにも読んでいただければと思います。
報告書には入らなかったこぼれ話とかエピソードについて、お尋ねしたいなと思っています。特に辰巳さんが気になっているエピソードがあれば教えていただけますか。
サッカーのマネジメントから得た気づき
辰巳:報告書の中で、サッカーのマネジメントについて触れているところがあります。サッカーについては正直全く詳しくなかったのですが、プロジェクトメンバーの千野さんが、サッカー推薦で高校に進学した方だったのです。
――すごいですね。
辰巳:すごいですよね。サッカーの本を読みながら、この単語どういう意味? みたいなことも含めて、千野さんに聞きながら、監督さんとかスタッフの方にインタビューをさせていただきました。
ピッチに出た時に自分の判断でチームの勝利のために活躍できる個人っていうのを、どういう風に育成されているのか。要は、すぐそばにいるわけじゃないので、個人個人が自分で判断していかなきゃいけないわけですよね。 これは今、企業組織の中でも求められていることだと思いました。では、筋のいい判断、この組織のために良い結果が出るような判断をしていくために、普段からどんな育成をされているのかということについて、インタビューをさせていただいたんですけれども、そのお話が非常に面白かったです。 高校に行き、実際に皆さんが練習をしている様子も見たんですけれど、個人の力を諦めずに引き出す、コーチの様子や、監督の一つひとつの発言とか、普段から個人の持ち味や強みを支えている仲間とのやりとりが、とても強く印象に残っています。
このインタビューは、「マネジメントを編みなおす 挑戦者からの学び」というタイトルで、研究所のサイトで公開しているので、ぜひお読みください。
――今の話を聞いただけで読みたくなってきました。
辰巳:2つ目は、今回の視界の中には入りきらなかったことですが、ひと口にマネジャーといっても、それぞれ持たれている持ち味とか強みは、すごく多様だと思うんですよね。
それこそ、そのサッカーのインタビューをさせていただいた監督のように、メンバーの隠れた才能を引き出すのがうまいという方もいれば、仕組み作りがうまい方もいらっしゃって、その多様な持ち味を1つの組織の中で、いかに組織運営に反映していくかっていうことについて、本当は盛り込みたかったんですけれども、そこまで行ってしまうとテーマが広くなりすぎてしまうということで、今回は取り上げられなかったテーマになっています。
組織にとってのマネジメント機能っていうのを可視化した時に、具体的にその後ろのプロセスとして、じゃあ、どのマネジャーにどの役割を渡していけばいいのかっていうフェーズになってくると思うんですけれども、ここでとても大事になってくる観点なのかなと思っています。
――なるほど。ありがとうございました。
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辰巳 哲子
研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)