
約5万人の同一個人を対象に毎年追跡する大規模なパネル調査、JPSEDが10周年!
リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season3」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第2回は、祝!JPSED10周年として、萩原牧子と永沼早央梨に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。
5万人の同じ人を対象に毎年データを取り続けたJPSED
――JPSEDは、正式には全国就業実態パネル調査と言いますが、このJPSEDが10周年を迎えるということで、概要について教えてください。
萩原:日本全国の15歳以上の、およそ5万人の同じ人を対象に、毎年追跡して調査し続けるパネル調査と呼ばれるもので、2016年に立ち上げました。働き方の実態と変化を把握できるだけではなく、働き方が変化した要因とか、変わったことによる効果を分析できるということが強みです。
また調査の設問も、労働時間や収入といった量的な側面と、働く場所を選べるのか、負荷をどれくらい感じているのかといったような質的な側面の、両側面から働き方の実態を捉えられるというのも特徴です。あと、インターネットモニターという新しい手法を活用しながらも、設計に工夫を凝らすことで、日本全体の縮図を捉えられる調査になっています。
―― 5万人の同じ人を対象に毎年データを取り続けるのって、すごく大変じゃないですか?
萩原:そうなんですよ。これだけの規模を対象に継続している調査は、働き方のパネル調査では他になくって。100問を超える設問数があるんですけど、それに毎年回答し続けてくださる、その調査回答者の方にはものすごく感謝をしています。
――ちなみに、この調査を10年前に立ち上げようと思ったきっかけは、どんなものだったのですか?
萩原:私、営業からリクルートワークス研究所に異動しまして、調査を担当することになった時に、調査とか統計のことを知らないとまずいと思い、大学院に学び直しに行ったんです。その時に、働き方の変化とか、その要因を分析しようとしたら、一時点のスナップショットを捉えるような調査では限界があって、それよりも、同じ人を追いかけ続けるパネル調査というのが適したデータなのだと。だけど、日本は他国に比べて、その蓄積が遅れているのだということを知りました。これがきっかけです。
――日本に蓄積がなかったのは、なかなか実行が難しかった、ということなのでしょうか?
萩原:そうですね。やはり同じ人を追いかけ続ける調査って、難しいし、費用もかかりますし。他国の場合は、そのような調査を政府だけが作ってるのではなくて、他の研究機関が一緒になって、データを蓄積しているそうです。だけど日本は、それができてなかったっていうことかなと思います。
――ありがとうございます。ちなみに、このJPSEDの調査は、実際にはどんな方たちに、使われていますか?
萩原:調査開始からこれまでに、厚生労働省の労働経済白書とか、内閣府の経済財政白書といったような、政府の白書ですね。あと、OECDの報告書で、まさに公的統計はありますが、それを補完するようなデータセットとして活用されています。
また、誰でも活用できるようにと、東京大学の社会科学研究所、SSJデータアーカイブにデータを寄託していて、活用できるような環境を整えています。2023年度までで、このデータ利用申請数がすでに5000を超えていて、労働だけじゃなくて、それ以外の分野の研究者たちに活用いただいているというのが実態です。
――永沼さんも、研究者として、このJPSEDのデータを使われたことはありますか?
永沼:実はJPSED立ち上げ前のワーキングパーソン調査を東京大学のSSJデータアーカイブを通じて利用させていただいたことがあります。それがですね、大規模なパネル調査として生まれ変わるということで、立ち上げの時から注目していました。
パネル調査はデータが蓄積されるほど価値が高まりますので、私も研究にぜひ参加したいなと思いまして、研究所の一員になったという経緯があります。
JPSED10周年を記念してシンポジウムを開催します
――ちょうどJPSEDが10周年ということで、1つの節目にあたるのかなと思います。 9月にイベントの開催を予定されているそうですが、どんなイベントを予定していますか?
萩原:ありがとうございます。まさにそれを宣伝しにやってきました。この10年の過程で、働き方改革があって、そしてコロナがあったと。それによって、私たちの働き方って大きく変化したと思うんですけど、これをパネルで追いかけ続けているJPSEDだからこそ把握できる、この10年の働き方の変化をしっかりと分析した上で、その変化によって、結局人は幸せになったの? と。あと、これからの課題は何なの? っていうことについて議論をするという、シンポジウムを企画しています。
――なるほど。確かにこの10年で、コロナもあったり、働き方改革もあったりで、いろんな働き方に変わってきていますね。結局人は幸せになったのか?って、今すぐにその結論を聞きたいところではあるのですが(笑)、10年間での調査で見えてきたところ、いろいろあると思いますが、現時点でどんなことが分かってきているのか、大きく変化したものについて、いくつかトピックスを教えてもらってもいいですか?
永沼:10年間の調査を通じて、2つの大きな変化が見えてきています。
1つ目は、女性やシニアなど、多様な人が就業して、正規雇用での就業を継続する傾向が高まってきた点です。ライフイベントや定年を経ても働き続ける人が増えていることが分かってきました。
2つ目は、働き方改革やコロナ禍を経て、働く時間や場所が部分的に変化したことです。この部分的というのは、長時間労働など、働きすぎが是正され、テレワークも拡大してきましたが、こうした変化は一部の労働者に限られるということです。働く人一人ひとりを追跡した調査だからこそ、平均的な変化だけではなくて、具体的にどのような人の働き方が変わったのか、あるいは変わらなかったのか、こうした点にも注目しています。
――ありがとうございます。先ほどあった、結局人は幸せになったのか?や、今後に向けた課題みたいなところは、シンポジウムでお話しいただけるのでしょうか?
永沼:はい、ぜひ楽しみにしていてください。
――はい、ありがとうございます。楽しみにしています。最後に改めまして、イベントの告知をお願いします。
永沼:JPSED10周年シンポジウムは9月19日金曜日14時より、東京の会場とオンラインでのハイブリッド開催を予定しております。詳細が決定次第、リクルートワークス研究所のウェブサイトにご案内と申し込み方法を掲載いたしますので、ぜひ皆様ご参加ください。
――ありがとうございました。
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萩原 牧子
「Global Career Survey」研究プロジェクト プロジェクトリーダー。大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年にリクルートワークス研究所に参画。首都圏で働くひとを対象にした「ワーキングパーソン調査」の設計や、全国の約5万人を対象にした「全国就業実態パネル調査」の立ち上げを経て、2019年から調査設計・解析センター長を務める。個人の就業選択や多様な働き方について、データに基づいた研究、政策提言を行う。公共経済学・労働経済学専攻。専門社会調査士。

永沼 早央梨
2004年日本銀行入行。日米の雇用など国内外の景気動向調査、人口動態・経済構造の変化と労働市場に関する経済分析、金融システム安定のための調査研究に従事。
2024年10月より現職。一橋大学国際・公共政策大学院(公共経済専攻)修了。