なぜ、ハローワークの「有効求人倍率」は低いのか 古屋星斗
民間の求人数は増えているのに「有効求人倍率」は低い?
日本の人手不足は深刻な状況が続いている。しかし、労働市場を把握するために広く利用されているハローワークの求人統計を見ると、必ずしも求人の増加が確認できるわけではない。
厚生労働省「一般職業紹介状況」によれば、2026年8月の有効求人数(原数値、パートタイム除く)は前年同月比-0.5%となっているなど、近年一貫して前年同月比マイナスで推移している(図表1)。一方、民間求人メディアの掲載情報を集計した求人統計(「HRog」)では、異なる動きも見られており、2026年8月の求人数(正社員)は前年同月比+16.3%であった。
一方は求人数が継続的にマイナス、もう一方は求人数が大幅にプラス。労働市場を扱う類似の統計だが、これほど結果が異なっている。
本稿は、日本の労働市場のこれからを把握するために、何をどう見ればよいのかを模索する1つの考察である。

出所:厚生労働省「一般職業紹介状況」、株式会社フロッグ「正社員平均月給・求人数レポート」より筆者作成
注:民間求人数の出所であるHRogは対象媒体が2025年3月に変更されており、2026年1・2月の結果と3月以降の結果は単純には比較できないことに留意が必要
日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」の2026年9月調査では、全規模・全産業の雇用人員判断D.I.はマイナス38(マイナス方向が人手不足、図表2では反転)となり、企業の人手不足感は依然として極めて強い状況となっている。この日銀短観「雇用人員判断」(企業の人手不足感)と有効求人倍率については、当然のことではあるが、従来は強いリンクが見られた。実際、図表2に示すように、2023年頃までほぼ同様の動きをしてきたことがわかるが、ここ数年、全く別の動き(雇用人員判断D.I.が人手不足方向に高止まりする一方、有効求人倍率は低下。図表2右端)をしている状況が顕在化している。

出所:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」
注:有効求人倍率は季節調整値、パートタイム含む
企業は人手不足を訴えているにもかかわらず、ハローワークの有効求人倍率は上昇していない。こうした状況を、どのように解釈すればよいのだろうか。労働市場を見ている多くの人間にとって、この問題、つまり近年の有効求人倍率の統計的代表性低下は頭の痛い問題である。
もちろん、これらの統計はそれぞれ測定しているものが異なる。ハローワークの有効求人数は、新たに申し込まれた求人数に前月から繰り越された求人数を加えたものである。また有効求人倍率は有効求人数を有効求職者数で割った数として算出される。民間求人データは、それぞれの媒体に掲載された求人広告等を集計したものであり、掲載単位や集計対象に違いがある。また、日銀短観の雇用人員判断D.I.は、企業が現在の雇用人員を「過剰」と考えているか、「不足」と考えているかを示す指標であり、実際の求人件数を示しているわけではない。
ただ、今後の日本の労働市場を見るうえであらためて考えなくてはならないことは、「ハローワーク統計は労働市場の状況をよく表しているのか」ではない。「ハローワークの求人統計は、日本の労働市場のどの部分を捉えているのか」である。
近年、転職や就職に用いられるサービスは大きく変化している。民間の求人メディアや人材紹介サービス、企業の直接採用など、労働市場における求人・求職の経路は多様化した。こうした変化のなかで、ハローワークの求人統計を日本の労働市場全体の需給動向を代表する指標として読み続けることには、以下で述べるように慎重さが必要になっていると言わざるを得ない。それでは、労働市場のどの部分を表す統計として捉えるべきなのだろうか。
本稿では、近年のハローワークの構造変化をもとに、この問題を考えてみたい。
ポイントは3つ、①地域差、②利用者の高齢化、③労働需要と企業の採用行動のギャップ、である。
①ハローワーク経由の入職者は大きく減少、ただし地域差が大きい
まず確認したいのは、ハローワークが日本の労働市場で果たす役割そのものが変化しているという点である。
図表3に示すように、厚生労働省「雇用動向調査」をもとに転職入職者の入職経路を集計すると、ハローワーク(職業安定所およびハローワークインターネットサービス)を経由した転職入職者の割合は、2012年の26.5%から2024年には18.2%へと低下した。12年間で8.3ポイントの低下である。ハローワークにおける求人数の減少だけでなく、仕事選びの経路のシェアでもこうした変化を見ることができる。なお、図は省略するが同期間に増加したのは、「民間職業紹介所」(いわゆる、転職エージェント)で同3.5%から8.4%となっている。「広告」(いわゆる民間転職サイト)も同28.5%から32.9%へと増加した。

出所:厚生労働省「雇用動向調査」(既就業者(転職入職者))
入職経路としての民間職業紹介サービスの存在感は高まっており、転職活動では求人メディアや人材紹介サービスに加え、企業の採用サイトなど多様な経路が利用されるようになった。ハローワークは依然として重要な職業紹介機関であるものの、転職市場における相対的な位置づけは明らかに変化している。
ここまでは現下の採用情勢や労働市場に接点がある方々にとっては衆目の一致するところであろう。ただ、注意すべきはハローワークの利用率に、相当程度の地域差があることだ。
筆者は以前、厚生労働省「雇用動向調査」をもとに、都道府県別のハローワーク利用率を分析した(※1)。その結果、2024年の転職入職者に占めるハローワーク経由の割合は、岩手県で65.3%、福島県で49.3%、青森県で47.2%、長崎県で46.6%と高い一方、東京都ではわずかに8.9%、京都府では9.8%、福岡県では10.1%にとどまっていた(図表4)。

つまり、転職時の入職経路としてハローワークが引き続き大きな役割を果たしている県がある一方で、転職入職者の1割程度しかハローワークを利用していない都府県も存在している。全体的な傾向として、地方部ほどハローワークの利用率が高く、大都市部では低いと言える(※2)。
この背景には、民間人材サービスの事業構造がある。求職者数や採用企業数の多い大都市部は、民間人材会社にとって事業を展開する魅力が大きい。求人広告や人材紹介サービスの選択肢も豊富であり、企業・求職者双方が民間サービスを利用しやすい。一方で、労働市場の規模が小さい地方部では、民間サービスによる十分な求人・求職のマッチングが難しい場合もある。ハローワークが地域の労働市場を支える重要な基盤であり続けていることは、こうした地域差からも理解できる。
重要なのは、こうした違いが、ハローワーク統計の読み方にも大きな影響を与えることだ。
仮に、都市部で採用需要が増加し、地方部では横ばいであったとしよう。都市部の企業が民間サービスを中心に利用している場合、そこで生じた採用需要の増加はハローワーク統計に十分に表れない。一方で、地方部の求人動向はハローワーク統計に相対的に強く反映されることとなる。
その結果、労働市場全体の採用需要が増加していても、ハローワークの新規求人数は横ばいとなりうる。
つまり、ハローワーク統計は、日本全国の労働市場を地域の規模に応じて均等に捉えているわけではなく、地方部の労働市場の動きを相対的に強く反映する構造をもっている可能性が高い。
もちろん、ハローワーク利用率の低下幅が大きい地域が、必ずしも大都市部とは限らない点にも留意が必要だ。地方部でも利用率が急速に低下している県は存在する。ここで指摘しているのは、利用率の変化の大きさではなく、現時点における利用経路の地域的な偏りが「有効求人倍率」等の公的統計へ与える影響である。
②求職者の高齢化
もう1つ見逃せない変化が、ハローワーク利用者の年齢構成である。
筆者が厚生労働省「一般職業紹介状況」を分析したところ、ハローワークの新規求職申込件数は2012年度から2025年度にかけて大きく減少している。しかし、その動きは年齢層によって一様ではない。
特に顕著なのは高齢女性の動向である。65歳以上女性の新規求職申込件数は、2012年度から2025年度にかけて172.8%増加した。実に、およそ2.7倍である(図表5)。男性でも、65歳以上のみが増加し+114.6%とおよそ倍増しており、64歳以下では大きく減少している。
図表5 ハローワーク新規求職申込件数(性別・年齢層別)および増減率
もちろん、2012年度と2025年度の労働需要の違いや、この間の高齢女性の就業そのものの増加の影響もある。総務省「労働力調査」によれば、65歳以上女性の就業者数は2012年の231万人から2025年には401万人へ増加した。増加率は+73.6%である。ハローワークの65歳以上女性の新規求職申込件数の増加率は+172.8%だから、就業者数の増加を大きく上回っていることがわかる。高齢女性求職者から頼られる存在がハローワークなのだ。
また、女性の新規求職申込件数に占める65歳以上の割合は、2012年度の3.3%から2025年度にはなんと13.2%に上昇した。60歳以上の女性では、その割合は同9.5%から22.7%まで上昇した(図表6)。ハローワークを利用する求職者の構成が、この十数年間で大きく変わったことがわかる。

なぜ高齢女性がハローワークを利用するようになっているのか。背景には、短時間就労や近隣での勤務、健康状態や介護との両立など、働くうえでのさまざまな制約について、相談しながら仕事を探したいというニーズがあると考えられる。また、長期間の非就業期間があったり、職業経験を履歴書や職務経歴書の形で十分に整理できなかったりする場合には、対面による職業相談が重要になることもあるだろう。
こうした役割は、民間の求人プラットフォームが提供するサービスとは必ずしも同じではない。ハローワークが民間サービスを代替するのではなく、異なるニーズに対応する形で役割を分化させている可能性がある(※3)。
このこともまた、ハローワーク求人統計の解釈に影響する。
求職者の年齢構成を確認すると、ハローワークでの求職者は日本全体の労働市場と比較して高齢求職者の割合が高い。こうした求職者構成の変化に対して、企業がハローワークに期待する求人求職のマッチングも変わっている可能性がある。つまり、近年のハローワーク統計は、相対的に高年齢層の労働市場の状況を反映しやすくなっており、その傾向は年を追うごとに強くなっていると考えられる。
こうした変化は、現在のハローワークが労働市場全体を均等に支える機関ではなく、特定の地域や求職者層に対して相対的に大きな役割を担う仕組みへと変化しつつあることに影響を受けたものである。
③人手不足が深刻化しすぎると、中小企業の求人が増加しづらくなる
また、日銀短観が示す人手不足感と求人統計の違いについては、もう1つ考えるべきことがある。
それは、「人手不足が深刻になることと、企業が求人を増やすことは、必ずしも同じではない」という点である。日銀短観の雇用人員判断D.I.が示しているのは、企業が現在の人員を不足していると認識しているかどうかである。一方、求人統計が捉えるのは、企業が実際に募集に踏み切った求人である。
企業は人手不足を感じたとしても、新たな求人を出すとは限らない。
例えば、人材採用が難しい状況が長く続けば、企業は求人を出しても採用できないと考え、募集を控えるかもしれない。また、採用したい人材の賃金水準が高くなれば、採用人数を抑制する場合もあるだろう。採用競争が激しくなり離職率が高まれば、「採用しても育たない」と考え新規の採用をやめてしまうだろう。
労働供給制約が厳しい地域では、そもそも必要な人員を採用できる見通しが立たず、事業の拡大を断念したり、提供するサービスを縮小したりすることも考えられる(労働供給制約による機会損失)。
つまり、企業が認識する人手不足の深刻さと、実際に求人として表れる採用需要との間には、それをつなぐプロセスが存在し、そのプロセス自体が変わっている可能性がある。従来、求人数の増加は企業の労働需要の拡大を示す重要な指標として利用されてきた。しかし、労働供給制約が強まる局面では、求人が増えないことをもって、人手不足が緩和したと判断することはできない。
むしろ、求人が増えない背景に、より深刻な現場の問題、つまり採用困難の長期化や採用活動そのものの抑制が存在する現状を考慮しなくてはならない。
筆者も、ここ数年意欲的に新卒採用に取り組み先進事例とも言われてきた地域企業の経営者から、「中小企業に新卒採用はやはり難しかったので、若手は欲しいが採用数を見直そうと思う」という声を聞いて驚いたことがある。特に中小企業において著しい労働需要超過に対して新卒採用抑制の傾向が見られている(※4)(筆者レポート参照)ことが明らかになっており、中小企業の割合が高い地方部の比重が高くなるハローワーク統計に一定の影響を与えている可能性がある。
もっとも、この点は企業の採用行動に関する仮説を含んでおり、求人統計と日銀短観の差を実際にどの程度説明できるか含め、企業調査などを通じた検証が必要である。
ハローワーク統計だけで労働市場を判断できる時代の終わり
以上を踏まえれば、ハローワーク統計と民間求人統計、そして日銀短観の間に生じる乖離には、大きく2つの構造があると考えられる。
第一は、求人の捕捉範囲の違いである。ハローワークと民間サービスでは、利用する企業や求職者、地域、職種などが異なる。そのため、労働市場全体で生じている変化が、それぞれの統計に異なる形で表れる可能性がある。具体的には、ハローワーク統計は近年、地方部の影響および高齢求職者の影響を相対的に強く受ける構造となっている。他方、民間統計は大都市部、現役世代求職者の影響を相対的に強く受ける。
第二は、労働需要と求人募集の違いである。企業が強い人手不足を感じていても、そのすべてが新規求人として表れるわけではない。特に労働供給制約が強まるなかでは、企業の採用活動自体がさまざまな制約を受けるようになる。
では、ハローワーク統計の利用価値が低下したと考えるべきなのだろうか。
筆者は、そうは考えない。今後も地方部や高齢求職者の労働市場を把握するうえでは最も重要な指標であり続けるだろう。
もちろんハローワークは、民間サービスが十分に対応できない地域や求職者を支える公共職業紹介機関である。地方部での職業紹介や、高齢者をはじめとする多様な事情を抱える求職者への支援など、その役割は今後ますます重要になるだろう。
ただし、公共職業紹介機関として重要な役割を担っていることと、ハローワークの求人統計が労働市場全体の動向を代表していることは、別の問題である。
ハローワーク統計だけで日本の労働市場を判断できる時代が終わろうとしている。
労働市場の全体観や見通しをもつために、民間求人統計、企業の人員過不足判断などを組み合わせ、またそれぞれの特性をふまえたうえで総合的に判断することが求められる。特に重要なのは、地域別・職種別に、どの求人経路がどの程度利用されているのかを把握することである。ハローワークの求人件数が減少している地域でも、民間求人が増加しているのか、それとも地域全体で募集が縮小しているのかによって、その意味は全く異なるからだ。
さらに、民間と公共のいずれの求人統計にも十分に表れない人手不足が存在する可能性にも目を向けなければならない。スポットワークによる需給調整や新時代の縁故採用とも言えるダイレクトリクルーティングは統計には表れづらい。また、求人未充足に内在する質的なミスマッチの問題(希望職種の違いや必要なスキル・経験の違いによって生じる未充足)は、今後ますます解決が求められる課題となるだろう。
ハローワークの統計は、日本の労働市場を把握するうえで引き続き重要な情報である。しかし、それが労働市場全体のどの部分を捉えているのかを理解しないまま利用すれば、求人動向について誤った解釈につながるおそれがある。
「求人が減っている」とき、本当に企業の採用需要が減っているのか。それとも、求人を出す場所が変わっているのか。あるいは、人手不足にもかかわらず、企業が採用をあきらめ始めているのか。
現場の課題感をふまえてこれらを把握することが、労働供給制約の時代における労働市場を見抜く際に求められる視座となるのだ。
(※1)古屋星斗,2026,都道府県別、ハローワークの役割の変化―統計から考える公共職業紹介の再設計④,リクルートワークス研究所
(※2)例えば岩手県はハローワーク利用率が2012年57.0%から2024年65.3%とむしろ上昇した。ただ、政令指定都市のない県である岐阜県は2012年のハローワーク利用率が52.7%であったが、2024年は26.6%と半減している一方、政令指定都市のある広島県では同32.5%から26.4%とほぼ横ばいで2024年では岐阜県と広島県がほぼ同水準となるなど、ハローワーク利用率の高低が地方部・大都市部だけで整理しきれないことは注記しておく
(※3)古屋星斗,2026,ハローワークで職探しをする女性はどう変わったか―統計から考える公共職業紹介の再設計③,リクルートワークス研究所
(※4)古屋星斗,2026, 2026年、新卒採用になにが起こるのか―「高校卒シフト」という知られざる変化,リクルートワークス研究所・働くの論点
例えば、大学卒を採用しない企業割合は2012年卒7.5%だったものが、2027年卒では14.0%まで高まっており(当該レポート図表2)、「採用しない」割合が最も高まったのは5~299人規模の中小企業である
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。
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