2026年、新卒採用になにが起こるのか―「高校卒シフト」という知られざる変化 古屋星斗
「大学卒を採用しない」企業が過去最高の14.0%
例年実施している、採用見通し調査(新卒2027年卒)がリクルートワークス研究所から公表された。従業員数5人以上の全国4110社から回答を得た大規模調査で、次年度の採用の方針について聞いたものだ(調査レポート)。
大学卒の採用(※1)全体の傾向としては、5年連続で採用数が「増える」企業が「減る」企業を上回るなど底堅さを感じさせる結果となっている。ただ、結果を見ていて気になった点がある。大学卒を「以前も今後も採用しない」と答えた企業の割合が、統計の残る2012年卒以降の過去最高値を更新し、14.0%に達したことである。
昨年の採用予定との比較で聞いているため、「以前も今後も採用しない」という回答になる(※2)が、これは一定期間(少なくとも昨年から)、大学卒採用を見送っていることを意味する。そして、その割合は15年前の2012年卒では7.5%だったものが、2027年卒では14.0%、つまり倍近くなっているのだ。図表1では、コロナ禍などによる変動はあったものの、近年じわじわと「大学卒を採用しない」企業が増えていることがわかる。
その理由を述べる前にまず押さえるべき前提は、これは極めて奇妙なことであるということだ。なぜならば、企業の人手不足感は非常に高い水準にあるためだ。図表2に同一期間の日銀短観の雇用人員判断D.I.を掲載したが、現状の新卒採用市場は「人手が不足しているが、大学卒採用を見送る企業が増えている」という状況にある。
これはなぜだろうか。
図表1 大学卒を「以前も今後も採用しない」企業の割合(%)
出所:リクルートワークス研究所,採用見通し調査
図表2 雇用人員判断D.I.(反転;企業の人手不足感が強いほど正の値が大きい)
出所:日本銀行,短観
①どうせ採用できないから、中小企業で広がる「あきらめ」現象
第一の理由は、中小企業にある。
大学卒の採用を「しない」企業を企業規模別に分析した際に顕著な傾向が出る。中小企業の「採用しない」割合が増加しているのだ(図表3)。5~299人では2013年卒で19.1%だった「大学卒を採用しない」は、2027年卒で24.6%と実に5%以上増加した。これはおよそ1.3倍の規模感であり、「大学卒を採用しない」という中小企業の数が、この15年ほどで1.3倍になり中小企業全体の4分の1に迫っている。合わせて、300~999人の中堅企業に相当する企業も同期間に3.2%から4.3%と微増している。他方、1000~4999人では2013年卒から2027年卒の期間中、1%前後でほぼ変動はない。5000人以上でも概ね1%未満(2025年卒・2016年卒が1.1%と期間中最高値)であり、ほとんど変動していない。
しかしもちろん、最も人材確保に困っているのは当然ながら中小企業である。日銀短観の雇用人員判断D.I.も、大企業が不足方向に28ポイントの一方、中小企業は不足方向に40ポイントと、中小企業の方が人手不足感はかなり強い(2025年12月期)。これは今にはじまった傾向ではなく、統計開始以来ほぼ一貫した傾向で、構造的(※3)に中小企業の方が採用・人材確保が難しい状況にある。人材確保ができていないのに、なぜ中小企業は大学卒採用をしなくなってしまっているのか。
筆者はそこに、「あきらめ」があるのではないかと考える。リーマンショック以降長く続く採用難、特に若手採用難のなか、特にここ数年の著しい採用難もあり、大卒採用を「あきらめてしまった」中小企業が増えているのではないか。
例えば、初任給。大手企業では月額初任給が30万円を超える企業はそれほど珍しくなくなってきた。そして、大手企業(ここでは従業員規模1000人以上)の大学卒採用数は増加基調にあり、2026年卒は過去最高水準にある(図表4、21万3200人は統計が残る1998年卒以降の最高値)。大手企業の大学卒採用総数は増加しているのだ。また、初任給だけでなく、福利厚生や休暇日数など、さまざまな数値で比べられる求人要件において中小企業は不利な立場にある。採用も長らくうまくいっていない。結果として、「あきらめて」しまった中小企業が増えたのではないか。
図表3 従業員規模別「大学卒を採用しない」企業の割合(%)(※4)
図表4 大手企業(1000人以上)の大学卒新卒求人総数
②高校卒シフト。大学生が採用できないから高校生を採用する
もう1つのあまり注目されていないが顕著な動向は、企業の高校卒採用シフトである。
順に説明しよう。まず、大学卒についても見た企業の「以前も今後も採用しない」割合を高校卒について整理した(図表5)。実は大学卒と真逆の結果、つまり「高校卒を採用しない」企業の割合が(コロナ禍における急激な変動期を除き)中長期的に低下傾向にあることがわかる。2012年卒では37.4%であった「高校卒を採用しない」企業は、2027年卒では30.8%と減少した。再掲となるが同期間に「大学卒を採用しない」企業は7.5%から14.0%へと倍加していたことと対照的である。
結果として、学歴別に見た企業の採用スタンスが変化しつつある。図表には大学卒、高校卒の別にて採用数が「増える」および「変わらない」と回答した企業の割合を示した(図表6)。これは、その学歴採用に対して、持続的に取り組んでいる企業の割合の指標と考えることができる(“新卒継続採用率”)。この数値を見ると、大学卒は2012年卒56.4%からほぼ横ばい・微増で推移し2027年卒61.0%となっていることがわかる。他方で高校卒の増加傾向は顕著であり、30.1%から46.4%と、実に1.5倍の規模感になっていることがわかる。つまり、日本で持続的・積極的に高校卒を採用している企業の数はこの15年で1.5倍になったのだ。
推移を見てみると、両数値の接近はコロナ禍以前にすでに生じており、コロナ禍以後も続いていることがわかる。2027年卒の両数値の差は14.6%ポイントであり、この差は2012年卒以降の最小値である。
さらに興味深いのは、従業員規模別で見た際に、すべての規模で近似した変化が見られることである(図表7)。つまり、中小企業も大手企業も、徐々に「高校卒採用をしない」企業が減っている=「高校卒を採用する」企業が増えている。大学卒採用を“あきらめた”中小企業にとっても、高校卒は“あきらめられない”、むしろ一層積極的に採用したいと考えている企業が増加している傾向にある。そして、その傾向は大手企業にも見られるのだ。
図表5 高校卒採用「以前も今後も採用しない」企業の割合(%)
図表6 学歴別の新卒継続採用率(%)(採用数「増える」+「変わらない」の合計値)
図表7 高校卒「以前も今後も採用しない」企業の割合(%)
なぜ、「高校卒採用シフト」が起こっているのか
もちろん、高校卒採用市場も極めて厳しい状況にある。需給逼迫の状況は大学卒以上であり、求人倍率は3.69倍(2026年3月卒(※5))に達し、これはバブル期の最高倍率3.08倍(1992年3月卒)よりも遥かに高い水準にある。統計が異なるため、単純比較できない部分はあるが、大学卒求人倍率はこれよりはかなり穏健な水準といえる(図表8)。大学卒採用が難しい企業が、だからといって高校卒にチラッと目を向けても若手採用難が解決される可能性は低いだろう。なお、筆者は高校卒採用について継続的に分析・検証してきたが、高校卒採用は“非市場障壁”(採用慣行等の参入障壁)も高いことを付言しておく(※6)。
しかし、大学卒採用よりも高校卒採用を行う企業が中長期的に増加トレンドにあるという事実は重要である。この構造的な変化について、その背景には、「入社時の大学卒資格は、うちの会社で働いていくうえで実はそれほど重要でないのではないか」という気づきがあるのかもしれない。
OECDは国際成人力調査(PIAAC)において、Over Qualification、つまり「過剰学歴」問題を指摘している。過剰学歴とは、「大学卒以上だが、大学卒以上でなくとも就業できる仕事についている」状況を指し、同調査において日本は、英国に次いで世界トップクラスの高水準(35%)にある(図表9。なお、OECD加盟国平均は23%)。こうした統計的状況は、先述のような企業の姿勢、「大学卒でなくともうちの会社で十分活躍できるのではないか」という気づきと、それによる新卒採用姿勢の変化の背景にある可能性があると指摘しておく。
また、近年の生成AIの進展により、大学卒入職者が大勢を占めていた事務職の“入り口タスク”が縮小し、相対的に従前は高校卒入職者が担ってきたような現業系タスクの重要性が高まっていることも関係している可能性はある。
図表8 新卒求人倍率の推移(大学卒/高校卒)
出典:大学卒はリクルートワークス研究所,大卒求人倍率調査(※7)。高校卒は厚生労働省,高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況(7月末)
図表9 「過剰学歴」の割合
出典:OECD,PIAAC,2023付帯調査より筆者作成
「中途採用シフト」と「高校卒シフト」が示すもの
いずれにせよ、今後の新卒採用市場を見る際に、「企業規模問わず、高校卒採用を行っている企業が増加している」という事実には留意が必要であろう。1990年代に大学卒に新卒採用の主戦場が移って以降(1995年に逆転するまで長らく、高校卒者の就職先は事務職が最も多く、今の大学卒の役回りを果たしてきた)、高校卒の動向にはあまり関心が払われてこなかった。大手企業のほぼ100%が大学卒を採用しているが、高校卒を採用しない大手企業が(減ったとはいえ)2割以上存在していることからも、その傾向は垣間見える。
しかし、若手採用難が極まる市場動向から、これまでにはなかったような変化が見られるようになってきた。その1つが大手企業の「中途採用シフト」(※8)であり、いま1つ顕在化しつつある変化が企業の新卒採用における「高校卒シフト」である。
今後、中小企業を中心に大卒採用をやめる、という企業が増加する可能性がある。しかし、その現象だけを見ていても全体像が把握できない。大学卒採用をやめる=若手の採用に困っていない、という従前の理解が通用しない市場状況になりつつあるのだ。なぜ大学卒採用をやめたのか、やめた企業はどうするのか、俯瞰して議論する必要がある。
(※1)同調査では大学生(学部卒)、大学院生(修士卒相当)が対象。本稿においても、大学卒とした場合には学部卒・修士卒を指す
(※2)昨年2名採用していて、今年0名なら「減る」という回答になる
(※3)二重構造論と整理されてきた
(※4)2026年卒以前は公表資料上、企業規模カテゴリが異なるが、サンプル数で加重し各カテゴリの値を算出することができる
(※5)厚生労働省,令和7年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」取りまとめ(7月末現在)
(※6)出所:「『就職後』から見た、高校生の就職活動の課題」(https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2409_03human/241121/human02_06.pdf)
(※7)2021年3月卒はコロナ禍の影響を反映するため、2020年6月に調査実施。他は前年の1-2月に実施している
(※8)日本経済新聞,採用計画調査などに詳しい。直近で、大手約2000社の単年度の新卒:中途比率は概ね5:5となった
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。
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