Global View From Work Tech World第3回 生成AI登場は日本にとって好機 個人ビジネスの商機広げる可能性

ChatGPTを開発したOpenAIは「約80%の職種で10%のタスクがAI に代替される」と予測し、話題となりました。「奪われる仕事」ばかりが注目されますが、労働力不足、生産性低下に直面する日本にとっては、むしろチャンスといえます。

生成AIで加速するのはノーコード開発です。これまでソフトウェアやシステム開発では、プログラミング言語に習熟した人材が必要でしたが、英語や日本語でプロンプト(指示)を入力すれば、AIがソースコードを記述するようになります。既にノーコードAI開発ツールも提供されており、それが「AIが最初に殺すのはAIスタートアップ」といわれる所以です。

一方、これまで莫大な工数をかけてきた開発が少人数・短期間で可能になり、スタートアップや社内新規事業の立ち上げコストは劇的に下がるでしょう。ICT人材が不足しデジタル競争に立ち遅れる日本にとって大きな好機といえます。

教員や医師など専門人材が逼迫する労働市場においても、AI活用が鍵となります。オンライン学習サービスを提供する米国カーンアカデミー創設者のサルマン・カーンは「AIの進化は教育を加速するだろう」と予測しています。個々の習熟度に合わせたカリキュラムをAIが提供し、動画で学習する。「8 歳児にわかるように説明して」などパーソナライズも可能です。教師の役割は、学習のメンタリング、討議のファシリテーションなどに変化するでしょう。海外では、医師とAIを組み合わせたチャットを提供することで、本来は病院にかかる必要のない患者の来院が減り、社会保障費の削減につながった事例もあります。

時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中27位にもかかわらず、日本市場の時価総額は、世界3位を維持しています。専門人材不足の解消、DXを通じたコスト削減と新規事業への投資。AIを追い風として生産性向上を実現できれば、時価総額はさらに上昇するはずです。

クリエイター経済の活性化も期待できます。
生成AIの真価は、既存の情報を無限に組み合わせ、多様なアイデアを生み出すことです。町のケーキ屋さんが「子どもが本当にほしい誕生日ケーキは?」と尋ねるだけで無数のアイデアが提示され、作業工程や予算も明示してくれます。予算はないけれども、優れたハンドメイド技術やファンコミュニティを持つ個人や商店にとって、生成AIの活用は商機につながるでしょう。

w179_tech_main.jpg生成AIの登場は、特に教育において大きな影響を及ぼすと指摘されている。
Photo= dpa/時事通信フォト

Text=渡辺裕子

尾原和啓氏
Obara Kazuhiro
IT批評家。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。著書に『ザ・プラットフォーム』『アフターデジタル(共著)』ほか。

Reporter