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第15回 かつての優位性は足枷に 減点主義の現場をどう変えるのか
なぜ日本ではiPhoneが生まれなかったのか。かつて強みとされた日本企業の組織のあり方にもその要因はある。
Photo=AFP=時事
かつて日本の製造業は、バリューチェーンの垂直統合によって飛躍的な発展を遂げました。代表的な事例は、自動車メーカーの「ケイレツ」で、開発・部品製造・組立まで各工程のすり合わせを徹底することで、品質向上とコスト削減を実現してきました。このモデルは、工程の標準化、不具合の最小化に役立つ一方、画期的なイノベーションが起こりづらい側面があります。
電気自動車の普及によって、自動車製造における競争軸が変化しつつあります。この変化は、かつてiPhoneがノキアなどの従来型携帯電話を駆逐した構造と類似しています。アップルはiPhoneの企画・設計を行うのみで、製造は外部のメーカーに委託しており、さらに誰でも自由にアプリを開発できるApp Storeという仕組みをつくることで、多様な付加価値を生み出す生態系を構築しました。
『イノベーションのジレンマ』著者のクレイトン・クリステンセンが提唱したバリューネットワーク理論の観点に立つと、アップルの成功は、従来の携帯電話メーカーが追求してきた通話品質やバッテリー持続時間ではなく、デザインや操作性、顧客体験という新たな価値基準の確立によって、スマートフォン市場を創造したことにあります。その結果、従来の携帯電話メーカーは撤退や縮小を余儀なくされました。
このような変化に危機感を持ち、イノベーション創出や組織変革に取り組む企業は増えているものの、そもそも管理職自身、いかに失敗を減らすかという競争を勝ち抜き昇進しているため、いくらトップが号令をかけたところで、現場では旧態依然とした減点主義が横行しているケースも見られます。ダブルスタンダードの背景には、組織の同質性、ハイコンテクストな暗黙知があり、かつての競争優位性が成長の足枷となっているといえます。
一方、変化の兆しも表れています。サイバーエージェントでは、行動指針「Mission Statement」の1つに「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」と掲げており、新規事業を立ち上げて失敗した社員が役員に昇格することも珍しくありません。名実ともに失敗を奨励する風土をつくることで、イノベーションを生み出す組織を構築できる好例ではないでしょうか。
次号では、AIの進化によるルールチェンジが日本企業にもたらす勝機についてお話ししたいと思います。
Text=渡辺裕子
プロフィール
尾原和啓氏
IT批評家。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。共著に『アフターデジタル』『努力革命』ほか。
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