Global View From Work Tech World第1回 HRテックからWorkテックへ 人事課題解決から「働く」自律を捉え直す

ビッグデータやクラウド、AI(人工知能)などのテクノロジーを活用して、人事領域の課題を解決するHRテックは、今やWorkテックと呼ばれ、その範疇を広げています。当初は人事や労務管理の効率化に使われていたテクノロジーが、社員のタレントマネジメントからキャリアプランニング、健康、家族、ウェルビーイングまで、今では「働く」ことそのものを捉え直すようになってきているのです。

そもそも「働く」とは、どのような要因に影響を受けるのでしょうか。外部環境分析に使われるPESTのフレームワークで整理してみます。

政治では国際情勢が緊迫し地政学リスクが高まる一方で、人材の越境は進んでいます。富裕層がシンガポールやドバイなどに移り住むことで不動産価格は高騰。シンガポールは2023年、高度人材の獲得のために、月収約300万円以上を条件とする長期ビザを導入しました。国境を越えた高度人材の争奪戦が起きています。

経済では各国でインフレーションの加速が予測され、依然として景気後退も懸念されています。日本は中長期的には円安傾向となり、縮小均衡が続くと見られています。

日本だけでなく先進国が直面する最大の問題は少子高齢化です。中国も61年ぶりに人口減少に転じました。その一方で、Z世代やα世代は消費の主役に躍り出て、その価値観は無視できなくなっています。

そしてテクノロジー。人間が担ってきた仕事の一部はAIに代替されつつあるだけでなく、テスラの登場によって自動車が工業製品からソフトウェアになったように、テクノロジーはすべてをソフトウェア化していきます。メタバースやNFTといったWeb3.0によって、バーチャルシフトも進み、いわゆる「限界費用ゼロ社会」の本格化は、産業構造を大きく変えるでしょう。

荒唐無稽だと思うかもしれませんが、既にZ世代を中心に、消費の舞台は物理空間からバーチャルに移っています。世界一利益率の高いアパレル企業は、もはやユニクロではありません。ゲーム上でアバター(バーチャル・キャラクター)が着るアイテムを販売するフォートナイトなのです。

このように外部環境が大きく変化するなか、テクノロジーの進化は人事領域、そして働き方をどのように変えていくのでしょう。次号以降、海外におけるHRカンファレンスでの最新事例も交えながら、世界の潮流を紹介していきます。

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Text=渡辺裕子

尾原和啓氏
Obara Kazuhiro
IT批評家。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。著書に『ザ・プラットフォーム』『アフターデジタル(共著)』ほか。

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