Global View From USA第5回 大幅引き上げ相次ぐ米国の最低賃金 NYでは差し止め訴訟を起こす企業も

w181_usa_main.jpgスターバックスでもより高い賃金を求めて従業員が行動を起こしている。
Photo=EPA=時事

米国の各州や市が定める最低賃金が物価上昇を反映して2023年7月に改定され、首都ワシントンD.C.では時給が17ドル、カリフォルニア州ウェストハリウッド市では19ドルを突破した。

米連邦政府が定める最低賃金は2009年以来、時給7・25ドルで据え置かれているが、深刻な人手不足のもと、各州・自治体は、最低賃金を引き上げざるを得ない状況だ。

物価に連動して毎年自動的に引き上げる、自治体として目標時給を定め毎年段階的に引き上げるなど、賃上げの方法はそれぞれ。消費者物価指数は2022年7月には前年同月比9.1%上昇を記録して以来、2023年8月でも3.7%と依然として高いため、今後も引き上げは続くとみられる。

カリフォルニア州のニューサム州知事は9月、州内のファストフードチェーン店の時給を現在の16・21ドルから20ドルに引き上げる法案に署名した。対象は全米に60店舗以上を持つファストフードチェーンで、州内約50万人の従業員が恩恵を受ける。同時に、州政府内に「ファストフード評議会」を設置。賃金水準、労働条件、安全性、衛生面についての最低雇用基準を策定すると発表した。

カリフォルニア州と同様、労働者の票を得たい民主党の地盤でもあるニューヨーク市も負けてはいない。同市は、フードデリバリーサービスの配達員の時給を現在の7・06ドルから17・96ドルと大幅に引き上げる規則を発表した。2025年4月には19・96ドルまで引き上げる。

これほどの急激な賃金アップに企業側は反発を強めている。配達アプリのドアダッシュはニューヨーク市の発表を受けて、ウェブサイト上で「このような極端な最低賃金の要求を満たすためには、注文当たりの手数料を引き上げるか、ニューヨーク市でのサービスを縮小せざるを得なくなる」と表明。ウーバーイーツなどと規則の一時的な差し止めを求め、ニューヨークの地裁は差し止めを認めた(その後、最高裁では棄却)。

労働省労働統計局によると、米民間企業(農業部門を除く)の1時間当たり平均賃金は、2023年9月で33・88ドル。各自治体が定める最低賃金を大きく上回っており、インフレに苦しむ労働者側は最低賃金の「伸びしろ」があると主張する。

一方、企業側は賃金アップを最小限に抑えたいものの、人材確保も競争力維持には喫緊の課題となっており、2つの困難に板挟みの状況が続いている。

Text=津山恵子

津山恵子氏
Tsuyama Keiko
ニューヨーク在住ジャーナリスト。元共同通信社記者・ニューヨーク特派員。著書に『現代アメリカ政治とメディア』(共著)など。海外からの平和活動を続けている長崎平和特派員。

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