Global View From USA第6回 AIへの懸念は人材採用面でも NYでは規制法も制定

w182_usa_main.jpg伊藤園がCMに登場させたAIタレント。「30年後の自分」を表現させるため、今回はAIタレントが最適と判断したという。
Photo=伊藤園提供

AIの影響である職種が消える──アメリカでこうした事態が現実的になってきた。

「私のキャリアは終わった」。知人の中堅俳優は涙目でこう言った。2023年7月に始まった米映画俳優組合(SAG-AFTRA、組合員16万人)のストライキは11月上旬、制作会社側と暫定合意に至り終結した。しかし、焦点の1つだったAIで俳優をスキャンする「AI俳優」使用の合意内容は悲惨なものだった。制作会社はAI技術を、俳優への「報酬」「同意」「肖像権の確保」なしには使えないことで合意したが、そもそも実在しない合成映像の偽俳優を使うことは自由だ。

「結局ドラマや映画は、主演以外は合成映像の偽物が氾濫し、脇役やエキストラの仕事はなくなる時が来た」
と前述の俳優。匿名を希望したのは、合意に対する不満を公言すると、制作会社から仕事のオファーが来なくなるためだ。

若い俳優らは従来、組合で定められた200ドル以下の日当で、エキストラとして作品に出演し、キャリアを積むと組合員になれる。出演のチャンスがなければ、組合員もいなくなる。組合の弱体化につながり、労働者の権利は、企業の利益追求に踏みにじられることになる。

また、脚本家のアニー・ドースンは、AIにクリエイティビティがあるのかと否定的だ。
「AIに思考や想像力を託してしまうと、私たちは貧弱な文化に取り残される。私たちは、特異なもの、予測不可能なもの、これまでに見たことのないものを見失ってしまう」(ニューヨーク・タイムズのイベントで)

一方、人材採用面でもAIを使うことに対する懸念が浮上している。ニューヨーク市は2023年7月、「自動雇用決定ツール法」を施行した。米自治体が実施する初のAI規制法の1つだ。雇用主は①人材採用にAIを使用する際、応募者にそれを伝える、②差別的なツールではないことを第三者機関に証明させる――などが柱で、守らなかった場合の罰金は最高で1500ドルだ。

同市は、AIの導入によって白人男性ばかりを優先して採用することを抑止し、人種・性差別を防げると主張。大企業は何千人もの求職者をふるいにかけられるAIの恩恵を受けたいところだが、アルゴリズムによっては、採用時に女性や有色人種に不利になるという懸念がある。

アメリカでは労働者や求職者がAIを理解する前に、導入が進んでしまった。今やっと、AIに対する懸念や疑念が高まりだしたばかりだ。

Text=津山恵子

津山恵子氏
Tsuyama Keiko
ニューヨーク在住ジャーナリスト。元共同通信社記者・ニューヨーク特派員。著書に『現代アメリカ政治とメディア』(共著)など。海外からの平和活動を続けている長崎平和特派員。

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