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第14回 フィンランドでも若手の“心理的な壁”が課題 女性CEOらが育成やメンタリングに尽力
イトコネン氏は、これまで3つの会社を起業した連続起業家。20歳、14歳、そして8歳の双子と4人の子どもの母親でもあり、「出産と出産の間に起業してきた」そうだ。
Photo=井上陽子
アメリカのトランプ政権が反DEI(多様性、公平性、包摂性)政策を鮮明にするなか、ジェンダー平等の先進国であるフィンランドで、企業や政府関係者らを取材する機会があった。多様性を進めてきた姿勢に変化があるのか尋ねてみたが、口を揃えて、まったくないと言う。
というのも、小国であるフィンランドでは、あらゆる人の才能を活かすことで経済的繁栄を成し遂げてきた、という考えが、社会に深く根付いているためだ。アドゥレルクロイツ教育相は、「性別や人種にかかわらず、才能は平等に分布しているという前提に立てば、公平性を積極的に進めることが国全体のパフォーマンスに影響を与えるのは自明のことです」と語っていた。
男女平等を測るジェンダーギャップ指数で世界2位(2024年)というフィンランドでは、ビジネスの分野でも女性進出が進む(経済分野は10位)。フィンランド最大の製薬会社「オリオン」は、売上の約8割を海外市場が占めるグローバル企業で、従業員のうち女性が56%と過半数に上る。研究者出身の女性CEO、リーサ・ハルメ氏は、「企業が成功するためには、男女がバランスよく働き、多様な視点で異なるタイプの顧客ニーズを理解することが重要です」と話す。
バイオテクノロジーの分野でも、女性研究者の活躍が目立つ。動物由来ではない卵白たんぱく質を開発する「オネゴ・バイオ」でも、女性従業員が多数派だが、その理由は「最も優秀な研究者を探そうとすると、ほぼ女性になってしまうから」(CEOのマイヤ・イトコネン氏)。むしろ、男性を増やすのに苦心しているそうだ。
イトコネン氏は、起業は3社目という連続起業家だが、4人の子どもの母親でもある。キャリアの成功の秘訣を聞くと「幼稚園」と即答。働く間に質の高い育児を提供してくれる幼稚園に、全幅の信頼を置けたことが大きかったそうだ。「『私たちは、これを一緒に成し遂げている』という感覚がありました。だから、働くことに罪悪感を持たずに済んだんです」と振り返る。
そんなフィンランドでも、残る課題は16%という男女間の賃金格差だ。理由の1つは、女性が管理職やリーダー職になるのを尻込みするためだといわれている。そのため、女性CEOたちは、率先して若い女性のリーダー育成やメンタリングに取り組んでおり、最後の“心理的な壁”を破ろうとしている。
Text=井上陽子
プロフィール
井上陽子氏
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。
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