Global View From Nordic
第15回 北欧で定着した育休社員の代替要員 雇用される側にもあるメリット
フィンランドの大手企業の部門長として活躍するキヴィオヤさん。キャリアの第一歩は、育休中の代替要員として採用された経理アシスタントだった。
Photo=井上陽子
北欧の企業文化で驚いたことの1つが、育児休業中の従業員の業務を補うために、期間限定で代替要員を雇用する、という慣習だ。代替要員を採用すれば、育休中に同僚に仕事のしわ寄せがいくこともないし、本人にも戻る場所があるという安心感が生まれて、気がねなく育休が取れる、というわけだ。最近では、財務大臣(男性)が育休を取る間、ほかの議員が大臣代理を務めていたが、こういう仕組みが一般的に受け入れられている。
試しにデンマークの求人サイトで「育休代替要員」と検索すると、幼稚園の保育士から公益団体の弁護士まで、100以上のポジションがずらっと並ぶ。雇用期間は約1年~1年半なので、そんな短期間のポジションに応募する人がいるのか、と不思議に思われるかもしれない。だが、実はこれ、若い世代にとっては、キャリアをスタートさせるチャンスとも捉えられている。
フィンランドの大手水処理企業で人事評価部門長を務めるマルヤーナ・キヴィオヤさんも、この仕組みを活用した1人だ。社会人としての最初の経験は、スポーツ用品の輸入会社の育休代替要員だった。そこで1年半働いて経験を積んだ後、別の企業に移ったのだが、この“最初の一歩”は大きかったそうだ。「代替要員であっても、職歴上は確かな実務経験として評価されるので、職業人生のいい入り口になった」と、キヴィオヤさんは振り返る。代替として働いた後、その会社で引き続き正社員として採用されるケースも多く、雇う側としても、社員候補としてじっくり評価できるメリットがあるのだ。
こうした企業文化は、子育てをしやすい環境を作るという、企業の重要な社会的役割とも認識されている。フィンランドのある企業担当者は、「誰かが育休に入るのに代替要員を採用しない会社だという噂が広まったら、大きな風評リスクになる」と話していたが、ほかの社員に仕事の負荷が回るようなことがないよう、しっかりと気を配っているのだ。
私自身、「独身ばかりが割を食っている」と感じ、同僚が育休を取ることを素直に喜べなかったことがある。でも、代替要員を雇う慣習があれば、育休中の社員を支える側としても納得しやすいだろう。少子化が深刻なスピードで進む日本でも、育休を「取る側」だけでなく「支える側」にも配慮した視点は参考になるのではないだろうか。
Text=井上陽子
プロフィール
井上陽子氏
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。
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