Global View From Nordic第4回 「〜はだめ」ルールの多い日本 それでイノベーション人材は育ちますか

w180_nordic_main.jpgイベントで、しきりと手を挙げてマイクで発言していた我が娘(左)。日本語はたどたどしいものの、発言をちゅうちょする様子はなかった。
Photo=井上陽子

ここ数年、夏休みは日本で過ごしている。デンマーク育ちの子どもたちに、生きた日本語を教えるためだ。

子連れで日本に来ると、つくづく感じるのは「やってはいけないこと」の多さ。走っちゃだめ、触っちゃだめ、大声を出しちゃだめ……。デンマーク人の夫は、子どもに無理があるルールが多すぎる、とぼやいていた。

しきりとだめと言われて育つからだろうか、聞き分けがよくおとなしい子が多い印象だ。それに比べれば、我が家の子どもたちはかなりワイルドだが、いい点があるとするなら、それは積極性かもしれない。

ある日、7歳の娘が「発明品を考える」というイベントに参加した。娘の日本語は完璧ではないが、モデレーターが質問を投げかけると、しきりと手を挙げてマイクを握り、「えーと、えーと」と言葉を探しながら発言していた。

主催者によれば、人前で積極的に発言する子は珍しいようで、「盛り上げてもらって助かりました」とのこと。娘は、質問者の意図からはピントが外れたことも言っていたし、できあがった発明品も、やや意味不明なところがある。それと比べると、ほかの子の発明品は、きちんと主催者の意図にあったものだった。マイクで発言すれば、娘よりもきっちり的を射た回答ができていたに違いない。

それでも発言しなかった子たち。きっと「この文章はどういう意味でしょうか」という問題をたくさん解き、間違いを修正されてきたんだろうな、と思ってしまった。

今のように、正解が何かがわからない時代には、「問題解決能力よりも課題発見能力こそが大事」なんていうことも、日本では言われているらしい。でも実際には、1年生ののっけから、1つの答えを求める文章題をしきりと解かせますよね、とツッコミも入れたくなる。

デンマークの経済競争力が高い理由について、ある専門家は、子どもの頃から間違いを気にせず積極的に意見を言うよう教育されるため、上司や社長に対しても物申す企業文化があり、そんな“フラットさ”が自由なアイデアとイノベーションを育む、と解説した。

聞き分けのいい子が、他人の意図を汲む訓練を積んだ先には、優秀なアシスタント型人材しかできないのではないだろうか。我が子の奔放さに手を焼きつつも、間違いを気にせず発言する積極性は守ってあげたい、と思うのだった。

Text=井上陽子

井上陽子氏
Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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