Global View From Nordic第5回 人件費削減のためにDX進めたデンマーク 生産性の低さは賃金の低さにつながる

w181_nordic_main.jpgデジタル化が浸透するデンマークでは、行政の窓口業務の省人化が進んでいる。パスポートの受け取りも、スマホのデジタル認証アプリで本人確認をし、ボックスが開く仕組み。
Photo=井上陽子

先日、日本を何度も訪れているデンマーク人にインタビューをする機会があった。ビジネスや公共政策の分野で、ユーザーの目線に立った「デザイン思考」を浸透させ、日本の政府機関や大学にも呼ばれてその考えを伝えてきた人なのだが、印象に残ったのが、コロナ禍での日本の空港におけるエピソードだった。

大量の情報をスマホで入力したにもかかわらず、空港に到着すると再び紙に同じような情報を記入する必要があり、そのために何十人もの係員が配置されていたという。「さっき入力したのは何だったの?と思ったよ。それに、この人たちの人件費は税金で賄われているのだろうか?とも」

私も日本で水際対策を経験したが、同じ感想を持った記憶がある。個人情報を繰り返し伝えながら、ブースからブースへと移動する必要があり、空港を抜けるのに3時間もかかった。動員されていた大量の人のなかには、ただ看板を持っているような人もいて、「この人たちの人件費は……?」と不思議に思ったものだ。ちなみにデンマークに戻った時は、空港で社会保障カードをかざし、「ピッ」と1秒で終了したのだが。

デンマークの生産性の高さは、社会に相当深く浸透したデジタル化も大きく関係している。公的部門が大きい福祉国家ということもあり、技術によって物事がスムーズに進むのならそちらを選択し、公務員の人件費を削減しよう、という強い動機があったそうだ。逆にそういう明白なメリットがなければ、デジタル化を進めるために国民の協力を得るのは難しかっただろう。

先のデンマーク人は、「何をやっているかわからない人にお金を使うことは、生産性の低さにつながる」と話す。周りの人たちのやる気にだって影響するだろう。なぜハードな仕事をしている自分と、ぶらぶらしているあの人の給料が同じなの?と思えば、やる気も削がれるというものだ。

何もやっていないように見えて、実はその人の存在が組織にとって重要な意味があるということもあるから、仕事の価値を測るのは難しいところはある。それに、サービスの丁寧さが売りの日本では、人数をかけてこそ、という仕事もあるのだろう。だが、国際的に見た日本の賃金レベルの低さが問題となるなか、「仕事の価値÷ 携わる人数」という根本的な方程式を見直すことも必要だと思うのだ。

Text=井上陽子

井上陽子氏
Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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