なぜ転職希望者の転職実現率が低下しているのか
リクルートワークス研究所の「働き方の定点観測2025」によると、労働市場全体では「転職したい」と望む人が増えているのに対し、実際に転職に結びつく割合(以下、転職実現率)は10年前と比べて低くなっている(※1)。転職実現率は、なぜ低下しているのか。このコラムでは、「全国就業実態パネル調査」(JPSED)の11年分のデータを用いて、その理由を探っていく。
転職実現率を押し下げる2つの要因
転職希望者の転職実現率が低下する要因は、大きく分けると2つあると考えられる。1つ目は、転職希望者の構成が変わったことによる影響である。もし転職希望者に占める、もともと他の属性と比べて転職実現率が低い属性の割合が増えれば、それ自体が転職希望者全体の転職実現率を押し下げることになる。2つ目は、同じ属性でも10年前と比べて転職実現率そのものが低下したことによる影響である。たとえば、もともと転職実現率が高かった属性において10年前と比べて転職実現率が低下しているのであれば、転職希望者全体の転職実現率は押し下げられる。
そこで、様々な属性(転職希望の程度、年齢、年収、企業規模、業種、職種など)を考慮した要因分解を行い、2つの要因がどれだけ影響しているのかをみた(※2)。その結果、1つ目の要因である構成変化による影響は39%、2つ目の要因である同じ属性内での実現率そのものの低下による影響は61%であることがわかった。ここからは、それぞれの要因の詳細をみていく。
転職実現率が低い「いずれ転職したいと思っている者」が増える
まず、1つ目の構成変化(寄与率39%)についてみてみよう。分析結果から、特に大きく変わった構成要素は転職希望の程度であることがわかった。
転職希望者と一口にいっても、すべての人が転職に対して強い希望をもっているわけではない。JPSEDでは、転職希望者を3つに分けて捉えることができる。転職希望の程度が高い順に、実際に転職活動を行っている人(転職活動者)、「現在転職したい」と考えているが活動はしていない人、そして「いずれ転職したい」と思うにとどまる人だ。それぞれの転職実現率をみると、2025年では順に32.6%、10.9%、6.7%と、前年の転職希望の程度が高いほど、当年の転職実現率も高いことがわかる(図表1)。
図表1 前年転職希望者の程度別の(当年)転職実現率の推移
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注:集計対象は前年就業者(各年12月時点の15〜74歳かつ社会人経験のない学生を除く)。2年連続で回答した者に限定し、脱落を補正するウエイト(脱落ウエイト)を用いた集計。
次に転職希望の程度がどのように変化したのかを確認するために、転職希望者の内訳の推移をみると、2015年から2025年にかけて、転職実現率がそもそも低い属性である「いずれ転職したいと思っている者」の比率が高まっていることがわかる(図表2)。つまり、1つ目の要因は、そもそも転職実現率が低い属性が増えたことで、転職希望者全体の転職実現率が低下したということだ。
図表2 転職希望者の内訳の推移
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注:集計対象は就業者かつ転職希望者(各年12月時点の15〜74歳かつ社会人経験のない学生を除く)。各年のクロスセクションウエイトを用いた集計。
もともと転職実現率が高い「非正規雇用者」で転職実現率が下がる
続いて、転職実現率の低下をもたらした2つ目の要因(寄与率61%)についてみていこう。要因分解の結果によると、特に転職実現率が低下した属性は、非正規雇用者であった。転職希望の程度別でも要因分解を行ったところ、なかでも「転職活動をしている非正規雇用者」の転職実現率低下のインパクトが極めて大きく、これが転職希望者全体の転職実現率の低下に大きく影響していると考えられる。
そこで、転職活動者に絞って、正規雇用者と非正規雇用者の転職実現率の推移をみてみよう。正規雇用者では、2016年の26.0%から上昇傾向だったものの、2018年以降は低下傾向が続いた(図表3)。コロナ禍以降は31%前後で推移しており、2025年には29.8%となった。2016年と比較すると3.8pt高まっていることがわかる。対して、非正規雇用者では、相対的に正規雇用者よりも転職実現率は高く、2016年では47.5%であった。コロナ禍前までは上昇傾向であったが、コロナ禍で大きく下がった後はコロナ禍前の水準には戻っていない。コロナ禍後の数年は45%前後で推移していたが、直近2年で急速に低下し、2025年には38.5%となっている。2016年と比べると9.0pt低い。
つまり2つ目の要因は、もともと活動者のなかでも実現率が高かった「非正規雇用者」の実現率が低下したことで、転職希望者全体の転職実現率をも引き下げてしまったということだ。
図表3 前年の正規・非正規かつ転職活動者の(当年)転職実現率の推移
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注:集計対象は前年12月時点の就業者(15〜74歳、社会人経験のない学生を除く)かつ転職活動者。2年連続で回答した者に限定し、脱落を補正するウエイトを用いて集計した。
本コラムでは転職希望者の転職実現率の低下について、背後で何が起こっているのかを探ってきた。その結果、転職実現率の低下は労働市場全体で一様に起きているわけではなく、特定の属性・特定の課題に起因していることが明らかになった。こうした構造を正しく捉えることは、政策や人事施策の対象を見極めるうえでも欠かせない。
一方で、なぜ「いずれ転職したいと思っている者」は増えているのか、なぜ非正規雇用者の転職実現率は低下しているのか、その背景までは本コラムでは踏み込めていない。この問いに答えていくことが、今後の分析課題になる。全体の指標の背後にある変化を引き続き追っていきたい。
(※1)総務省統計局「労働力調査」によると、就業者に占める転職等希望者の割合は、2015年の12.7%から2024年の14.8%へと増加傾向にある。そうしたなかで、「全国就業実態パネル調査」を用いて実際に転職に結びつく割合(前年転職希望者の転職率)をみると、2016年の14.5%から2025年では11.8%へと2.7pt減少している。
(※2)Blinder-Oaxaca分解という手法を用いた。コロナ禍の影響を除くために、期間は前期(2016〜2019年)と後期(2022〜2025年)に分けて分析した。
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