AI時代に成長する企業は、なぜ若手を必要とするのか

2026年07月30日

本連載ではここまで、生成AIが人と組織の「成長」の前提をどう揺るがしているかを見てきた。試行錯誤の機会が失われ、思考の過程が見えなくなり、成果は出ても人が育たない。そうした懸念は、現場の実感としても強い。この、人が育たない環境は、結果として一部の企業で若手の入り口そのものを閉ざしつつある。

「AI代替で雇用ピンチ 米テック、名門大卒も入社困難」(2025年6月20日、日本経済新聞)
「AIを導入した企業で未経験者の採用が8割減少している理由」(2026年6月6日、Forbes Japan)

生成AIの普及以降、こうした記事を目にすることが増えた。生成AIはエントリーレベルの業務を代替してくれる。だから未経験者は採用しない。そう考える企業が現れても不思議ではない。

しかし、その一方で興味深いデータがある。AIを積極的に活用している企業ほど、若手採用を増やしているのである。AIによってエントリーレベルの業務が減るはずなのに、なぜAI活用の先進企業は若手を採用し続けているのか。その背景を追うと、本連載が問い続けてきた「育成」や「成長」の再設計の、1つの実例が見えてくる。

データが示す逆説

Revelio LabsとRampによる共同研究(※1)は、この謎に手がかりを与えてくれる。米国の2万1,559社を対象にしたこの研究によると、AI導入から24カ月後、従業員1人当たりのAI投資額が継続的に高い企業(以下、AI投資先行企業)では、後から導入した企業よりも従業員数が10.2%多く増加していた。エントリーレベル人材に限ると増加幅は12.0%で、管理職比率が相対的に低下している。一方、AIへの投資額が低い企業(以下、AI投資後発企業)では、雇用増加に統計的に有意な変化は見られなかった(図1)。

図1 AI導入後のエントリーレベル人材数の推移(従業員1人当たりのAI投資額別、統制群との比較)

AI導入後のエントリーレベル人材数の推移
注:図の縦軸は統計分析で用いられる対数尺度(ログポイント)であるため、値をそのまま増加率として読むことはできない。著者らの推計では、AI導入から24カ月後、AI投資先行企業のエントリーレベル人材は統制群より約12%多く増加した。
出所:Kharazian, A. et al. (2026) A New Look at AI’s Impact on Jobs: Firm-Level AI Spending and Workforce Adjustment

この研究が説得力を持つのは、比較の設計にある。比較対象は「AI未導入企業」ではなく、「同等の規模・属性を持つ、将来的に同程度のAI活用を行う企業」だ。AI導入企業はもともと高成長・高給与・情報産業に偏りやすいため、その特性の影響を極力取り除いたうえでの比較になっている(詳細は※2)。つまり「もともと伸びている企業がAIも導入している」というだけでは説明がつかない増加分が、そこには残っている。

さらに興味深いのは、雇用が増えた職種である。エンジニア、営業、カスタマーサービス、財務、管理部門など、いずれも生成AIの影響を大きく受けるとされている職種だ。もしAIが業務を代替するだけならば、こうした職種の採用は減るはずである。しかし実際には、AI投資先行企業は増やしている。この結果は、AI活用が効率化にとどまらず、事業拡大を通じて新たな人材需要を生み出している可能性を示唆している。 

ただこの研究では、なぜ中堅人材よりも若手を増やしているのかという理由まではわからない。研究の著者らも、そのメカニズムは未解明としている。考えられる背景としてはいくつかある。すぐに思い浮かぶのは、AI投資先行企業の平均従業員数が26.7人と小規模であることから、これから事業を拡大しようとしている中で人員が足りなかった可能性である。 しかし、それならば中堅人材を増やしてもいいはずだ。あるいは、AIに壁打ちできることで若手の自己解決力が高まり、管理職の負担が減少してより多くの若手を受け持てるようになった可能性もある。実際、先進企業の中には、若手が早期に活躍できる仕事や組織の設計へと踏み込んでいる例も見られる。このデータが示すのは小規模なスタートアップを中心とした動きには違いない。しかし、大企業でも組織構造のパラダイムシフトが起き始めている。では、彼らは何を変えているのか。具体的な変化を見ていこう。

差を生んだのはAI利用量ではなく、組織の全面的な再設計か

世界経済フォーラム(WEF)のレポート(※3)は、その内側を知る手がかりとなる。多くの経営者は「AI活用には仕事の根本的な見直しが必要」と認識している。しかし、職務や業務プロセス、組織運営モデルまで含めて全面的に再設計した企業は16%に留まる。残りの8割超は、従来の仕事にAIを追加しただけの段階にある。

この16%の企業で見られるのが、従来の年功的・経験蓄積型の育成モデルからの転換だ。WEFが紹介する事例では、昇進や昇格の基準を経験年数や在籍ポストからスキルやポテンシャルへと変更した。また、評価項目を成果だけでなく、AIの出力を適切に検証・改善し、より速く価値を生み出せたかへと変えた企業もある。 さらに、若手とベテランを組ませるリバースメンタリングによって、若手のAIリテラシーとベテランの組織・事業ナレッジを相互に移転させる共同の学習機会やプロジェクトを設計している企業もある。

こうした育成モデルでは、若手人材を中堅レベルへと早期に育成できる可能性がある。従来は、若手は限られた業務領域の経験を積みながら徐々に責任範囲を広げていくことが想定されていた。しかしAIの普及によって、若手であっても複数の業務領域の情報を扱いながら高度な判断や提案を行いやすくなっている。これは、本連載でこれまで指摘してきた「試行錯誤の機会をどう設計するか」「経験や問いかけを通じて好奇心を磨き上げられるか」という問いへの、1つの実践的な回答と言える。AIは仕事を支えるものと考え、評価や昇進のルールそのものを組み替えることで、若手が育つ場を作り直す企業が現れているのだ。

ピラミッド型組織の終わり

この育成モデルの転換は、組織構造の転換と一体で進んでいる。これまで、多くの企業はピラミッド型組織を前提としてきた。多数の若手が基礎業務を担い、その中から選抜された一部が管理職へ昇進する。ピラミッド自体が下位職から上位職へと階段を上ることを前提とした人材育成モデルとして機能していた。しかしAIによって人が扱える情報量や担当範囲が広がると、この前提が揺らぎ始める。

PwC(※4)によると、少なくとも2つの新たな型が観察されている。1つは「ダイアモンド型組織」である。この型ではエントリーレベルの人数を絞り込み、AIエージェントを訓練・監督・管理する中堅層を厚く配置する。もう1つの型は「砂時計型組織」である。AIリテラシーを持つ若手を積極的に採用し、早期に事業センスを養わせて高度な業務へ参加させる。定型業務を管理する中間管理職の需要が減少するため、熟練者はコーチングや例外対応、重要な意思決定を行う役割へ移していく(図2)。

これは、AIによって若手の自己解決力が高まり、1人の管理職がより多くの若手を見られるようになるという、先ほど触れた仮説とも重なる変化だ。砂時計型の特徴は、若手が「AIから整った成果物を受け取るだけ」の立場ではなく、早期から判断や試行錯誤を求められる立場に置かれることである。これは、連載の第2回で指摘した「思考の過程が見えなくなる」という問題への、構造面からの対応と見ることもできる。ただし、PwCも指摘するとおり、そうした人材は放っておいて自然に育つわけではない。ベテランとのペアリングなど、意図的に機会を設計することが欠かせない。

図2 3種類の組織構造

3種類の組織構造
Images generated by AI

問われているのは、人が育つ仕組み

AI時代に若年層の失業が増えるという見方は根強い。しかし、AIをフルに活用しながら事業を拡大している企業では、若手は減るどころか増えていた。 その理由は、AIに定型業務を代替させていないから、ではないだろう。評価・昇進のルール、業務アサインの仕方、組織構造など、育成の仕組みそのものをAIを活用する前提で再設計したからだ。

AI時代の競争優位は、必ずしも効率化による少数精鋭化では築けない。若手をどのように配属し、どのような打席に立たせ、どのような役割を期待するのかという設計の巧拙が、成長の差を生んでいる。日本企業がこれから競争力を高めていくには、AIツールの活用を促進するだけでは不十分だろう。AI時代に問われているのは、育成と組織のルールそのものをAIありきでどう組み替えるかである。

(※1)Kharazian, A., Simon, L., & Stevens, R. (2026). A New Look at AI’s Impact on Jobs: Firm-Level AI Spending and Workforce Adjustment. Ramp Economics Lab.
(※2)研究の方法についての補足
Revelio Labsは労働市場に関する大規模データを保有するインテリジェンスプラットフォームであり、Rampsは企業の支出データを保有する企業向け決済プラットフォームである。
本研究の特徴は、AI活用状況の測定方法にある。従来の研究では、職種ごとのAI影響度の推計やジョブディスクリプションの内容、あるいはアンケートによる自己申告が用いられることが多かった。これに対し本研究では、企業ごとのAIベンダーへの支出額やAPI・トークンへの投資額という実際の支出データを用いてAI活用状況を把握している。さらに、そのデータを企業別の雇用者データと組み合わせ、米国2万1,559社を対象に分析している。加えて、一時的な試験導入を除くため、6カ月以上継続利用している企業を対象としている。 
また統制群として、「AI未導入企業」ではなく、「同等の規模・属性を持つ将来的に同程度のAI活用を行う企業」を設定している。AI導入企業はもともと高成長、高給与、情報業種、ベンチャーキャピタルの出資比率が高いといった特徴を持つため、それらの影響を可能な限り除く工夫がなされている。
なお、導入企業のうち、AI投資後発企業の平均従業員数は193.4人に対し、先行企業の平均は26.7人と大きく異なる点も結果解釈の際に注意が必要である。これは、従業員1人当たりのAI投資額を測定基準としているため、身軽で全社的なAI導入が進みやすいテック系スタートアップが「AI投資先行企業」に分類されやすいためである。しかし論文では、これらの企業が単に小規模だから伸びたのではなく、統制群と比較してもなお、若手の採用数が突出して増加していることを証明している。
(※3)World Economic Forum (2026). Artificial Intelligence and the Future of Entry-Level Work: A Framework for Safeguarding and Reinventing Early Career Pathways
(※4)PwC (2026). No more pyramids: Rethinking your workforce for the agentic AI era

石川 ルチア

デンバー大学修士課程(国際異文化コミュニケーション学)修了後、NPO勤務などを経て2014年に入所、2018年11月より現職。主な調査テーマは欧米の採用プラクティスやHRテクノロジー、コンティンジェント労働力。

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