「重いケア」を国が引き受けることが未婚化・少子化への対策になる
本プロジェクトでは、「全国就業実態パネル調査」の分析から、ここ10年程の日本では、就業や生計の安定化が進むなかで、未婚化・少子化が更に進行しつつあることを示した。仕事と家族の関係について実証的に研究するとともに、社会における「家族」の役割について世に問い続けてきた家族社会学者の筒井淳也氏に、家族形成と働き方の現状と今後について聞いた。
家族と仕事は影響しあわないことが望ましい
――ご著書『仕事と家族』をはじめ、仕事と家族の関係性について研究してこられています。なぜ、家族と仕事のつながりについて考える必要があるのでしょうか。
望ましいのは、「家族と仕事のつながりについて考えなくてもいい社会」です。今の社会では、家族と仕事がお互いに強く影響しあい、女性の就業抑制や少子化の進行など、社会としてうまくいっていない。ではなぜ、家族と仕事が影響し合っているのかという問いが成り立ちます。
マザーフッド・ペナルティという言葉がありますが、母親であることで仕事が制約されてしまう状況は、支援制度がしっかりしているデンマークやフィンランドなどの北欧の国々でも残っており、完璧に克服できている国はありません。まして、日本は伝統的な性別分業を引きずっており、「残業と転勤を引き受けたら賃金が上がります。引き受けないなら出世は諦めてね」という雇用のあり方が残っている。加えて、日本では家庭と両立可能な働き方をしやすい公務員の数が少ないことも重なり、ワークライフ・コンフリクトが発生しやすい状況にあります。
このような実態を変えていく必要があります。どういった仕事でどういった働き方をするかは自分で選択し、そのことが、誰かとカップルになり一緒に住んだり子供を作ったりすることと影響しあわずに別々に考えられる、いわば「切り離し」のできた社会を目指すべきだと考えています。
しきい値を超えた、結婚しなくてもよいという価値観
――「全国就業実態パネル調査」を用いた分析では、雇用の安定化が進んでいるにもかかわらず、結婚しない「単身化」も進んでいる状況も示されました。このような家族×仕事の形の変化にはどういった背景があるのでしょうか。
確かに直近では雇用の安定化が進んでいるかもしれませんが、1990年頃の水準と比べれば、若年者の非正規雇用者は今も段違いに多く、そのことは留保しておく必要があります。ただ、確かに若年者の非正規雇用化が進んでいるわけではないのに未婚化が進んでいる、ということは事実です。2010年代前半には「未婚化の流れに歯止めがかかっている」という感じもありましたが、2015年頃からは、世界的にも未婚化と少子化が進んでいます。
データがそろいにくいこともあって、その原因は必ずしも明らかになっていません。ただ、背景の一つとして考えられるのは、以前と比べて結婚のハードルが上がっていることです。皆が結婚するような時代にはあたかも「結婚しないと人生が終わる」かのような感覚さえありましたが、現在は「結婚して幸せになれそうなら結婚するけれど、特にそう思わないならしないでいい」という、単純な自由選択の時代になってきています。周囲からのプレッシャーも少なく、未婚者も周りに多いので自分だけでないという安心感もあります。ソーシャルメディアもそういった価値観の共有に一役買っている可能性があります。
日本は欧米のような、カップルを作ることをきわめて重視するような文化がなく、特に都市部では、結婚しなくても幸せになれる道筋が見えています。女性も男性も正社員としてバリバリ働き稼ぐなか、「これくらいの基準の人が現れたら結婚する」という基準がだいぶ上がってきているのではないかと考えています。
少子化を前提に社会を組み立てることも必要
――家族×仕事の形が変化するなかで、日本社会は何にどう対処していくべきでしょうか。
社会にとって、結婚する人が減ること、ひいては子どもが減っていくことは大きな問題です。その一つが社会保障制度の維持が困難になることであり、既にいくつかの自治体では維持が不可能なレベルになりつつあります。これは日本全体として明らかに問題です。
ただ、今は個人にとっての合理的な生き方と、社会を維持するためのあり方にずれが生じてしまっている状態です。結婚しないこと、子どもを作らないことが個人にとって合理的な選択になりつつある一方で、国や社会を維持していく上では、結婚しない、子どもを持たない選択に歯止めをかけることが求められる。そのずれを埋め合わせる責任を持てるのは政府です。国として、個人の自由な選択を阻害しないようにしながら、未婚化や少子化への対策を進めることが求められます。今も実態としては、頑として独身を貫きたいという人はそれほどいなくて、条件が良ければ結婚するかもしれないという人がそれなりにいる状況だと考えられます。そうであれば、動かせる余地がある。
ただ、そうした取り組みをしたとしても、今の社会の構造を前提とすれば、出生率はそれほど上がらないと思います。ですので、現状の少子化を前提にして社会を組み立てていく必要があります。具体的には、ある程度は外国人労働力を活用しないと日本社会は持続困難なのではないかと思います。その点については、本当は政府が長い時間をかけて国民の間の成熟した合意を作り上げていく必要があります。
ただ、社会意識としては共存の方がより困難で、放っておくと排外主義に向かう傾向が生まれます。しかし外国人労働者が入ってこないで社会経済が安定的に回るという国はおそらくありません。東欧には、若い有能な人材がフランスやドイツにどんどん流出してしまい、国内が空洞化してしまっている国もあります。日本はまだそうなっていませんが、こうした他国の事例を踏まえるなら、現状のままだと、逆に高度な教育を受けさせた人材がどんどん国外に流出する状況にもなりかねません。そのような可能性も含めて議論を徹底的に行い、政策を動かすための合意形成を進めることが政治家の重要な役割です。
公助のサポートを土台にすることで、家族を含む人間関係を結びやすくなる
――家族は、今後どういった役割を担っていくべきなのでしょうか。
今の日本社会では、家族を作るときに覚悟が求められます。それをハードルに感じる人がいるならば、それを軽くさせることも大事だと思います。もちろん、家族の一体感や絆を重視して、「重荷があってこそ家族だ」という考え方もあります。どちらが正しいというのはありませんが、パートナーを持ったり子どもを持ったりすることを気軽にできる社会にするには、なるべく重荷を外しておいた方がいいというのが私の考えです。
これまでは、大変な介護や経済援助などの「重いケア」を家族が諦めつつ引き受けてきました。「そんな大変な引き受けをするくらいなら家族を作らない」という人を増やさないためには、「本当に重いところは公助として助けるので、自由に人間関係を結んでね」というメッセージを政府が発していくことが必要です。そうすることで、結婚したり子どもを育てたりすることに向かいやすくなるだけでなく、家族以外の人たちとのつながりや助け合いが生まれやすくなります。話し相手となることで孤独感やストレスをやわらげるといった軽い関わり方なら誰もが参加しやすいですが、きわめて深刻な状況に陥ったときの支援を求められるのであれば、そこに関わろうとする人は大幅に減るでしょう。大きなリスク要素はなるべく公共でカバーされる社会の方が、結果的には予算や人的資源を効率的に使え、社会としても望ましい姿に近づくのではないでしょうか。
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