「もっと働きたい」個人はどのくらいいる?  「家族」と「働く」のデータが示す、30~59歳の切実な希望とは

大嶋寧子

2025年12月09日

「もし、週にあと3〜5時間、自由な時間が増えたら何に使いますか」。これは、多くの人が一度は夢想する問いかもしれない。しかし、この問いに現実のデータで向き合うと、現代の個人が直面する切実な課題と、その潜在的なニーズが浮かび上がってくる。

「家族」と「働く」めぐる問題を把握するために行った、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」2025年の追加調査(以下、追加調査)では、30〜59歳の男女に対し、まさにこの質問を投げかけている。選択肢は「睡眠・休息」から「労働」「家事・育児」「学び」「趣味」など10項目だ。あえて「最も当てはまるもの」を1つだけ選ばせるこの設問は、回答者が「今、最も不足している」あるいは「最も強く求めている」活動を浮き彫りにするといえる。

以下では、「家族」と「働く」の類型ごとの動向にも着目しながら、個人が求める活動を明らかにし、人事関係者や政策立案者が注目すべきシグナルを読み解いていく。なお、ここまでのコラムでは家族の類型を20種類としていたが、本稿では一部を統合し15類型としている。データは全てクロスセクションウェイトを使用してウェイトバックした値であるため、日本の30~59歳の状況を反映したものといえる。

4割が望む「睡眠・休息」
—睡眠が足りていない

図表1は、家族の類型別に項目別の選択割合を見たものだ。まず目につくのは30〜59歳全体で最も多かった回答が「睡眠・休息」であり、平均で40.3%となったことである。背景には、仕事や家庭役割により、睡眠など健康維持に重要な条件を必ずしも満たせていない人が多いことがあると考えられる。厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」では、個人差はあるものの、1日の睡眠時間が少なくとも6時間以上確保できるように努めることを推奨している(※1)。追加調査によれば、30〜59歳の平均的な睡眠時間は6.4時間であり「少なくとも」の基準は超えているものの、6時間未満の人も23.3%と約4人に1人を占める。睡眠という基本的条件を確保できていない人がこれだけいることが、休息を求める人の割合の高さに表れていると考えられる。

図表1 週にあと3〜5時間、自由な時間が増えたら使いたいこと図表1 週にあと3〜5時間、自由な時間が増えたら使いたいこと

(注)30~59歳の個人の集計。クロスセクションウェイトを用いてウェイトバック済の数値。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」2025年追加調査

実際、「睡眠不足の人の割合」と「睡眠・休息を求める人の割合」には一定の関係がある。図表2のとおり、「家族」と「働く」の類型別に両者の関係を見ると、中程度の正の相関(r = 0.5305)が見られた。

特に、「同居の子がいる単身正社員」や「同居の子がいる単身非正社員」など家族のケアと家族内役割の双方を担う必要がある人で、「睡眠不足の人の割合」と「睡眠・休息を求める人の割合」の双方が高くなる傾向があった。

また単身正社員も両割合が高い傾向があった。単身正社員の1日の平均労働関連時間(労働+通勤)は30~59歳の就業者の中では長い傾向にあり、また「正社員同士の共働き(同居の子あり)」「正社員同士の共働き(同居の子あり)」「非正社員同士の共働き(同居の子あり・なし)」では、「睡眠不足の人の割合」は高くないものの、「睡眠・休息を求める人の割合」が高く、仕事などの負荷により睡眠や休息が必要になっている可能性がうかがえた。

図表2 睡眠時間6時間未満の割合と「睡眠・休息」を選んだ割合の関係
(「家族」と「働く」の類型別散布図)※クリックで拡大します図表2 睡眠時間6時間未満の割合と「睡眠・休息」を選んだ割合の関係

(注)30~59歳の個人の集計。クロスセクションウェイトを用いてウェイトバック済の数値。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」2025年追加調査

同居の子の有無で分かれる優先度
―「趣味」か「家事・育児」か

「睡眠・休息」に次いで多かった回答は「趣味」(38.6%)であった(前出の図表1参照)。しかし、この「趣味」の割合は家族構成、特に「同居の子の有無」によって大きく変動する。

図表3は、配偶者がいる人のうち、「正社員同士の共働き」「正社員と非正社員の共働き」「正社員と非就業者の片働き」を選択している人を抜き出して、「趣味」を挙げた人の割合を見たものだ。

ここから同じ夫婦の働き方であっても、同居の子がいる場合に「趣味」を選ぶ割合が低下することが分かる。例えば「正社員同士の共働き」では「同居の子なし」では「趣味」が38.0%、「同居の子あり」では30.6%という違いがある。

では「同居の子あり」の人でより多くの割合を占めているのは何かというと、「家事・育児」である。先の「正社員同士の共働き」の例では、「同居の子なし」で「家事・育児」を挙げた人は1.9%であるのに対し、「同居の子あり」では8.0%であった。

これらのデータからは、子育て中の個人は思うように家事・育児に時間を割けていないという意識があることがうかがえる。その結果、たとえ時間ができても自分の人生の充実ではなく、家事・育児を希望しやすい状況が生じていると考えられる。

図表3 「趣味」を挙げた人の割合(配偶者のいる人、夫婦の主要な働き方別)

(注)30~59歳の個人の集計。クロスセクションウェイトXA25を用いてウェイトバック済の数値。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」2025年追加調査

男女別の希望から見えてくるもの:「もっと家事・育児を」
― 潜在する男性の参画意欲

回答を男女別に見ると、別の課題も見えてくる。図表4は、配偶者がいる男女について、夫婦の主要な働き方別に「家事・育児」を挙げる人の割合を見たものだが、目立つのは男性で「家事・育児」を挙げる人が少なくないことだ。例えば「正社員同士の共働き(同居の子あり)」の類型で、「家事・育児」を選んだ割合は男性は8.1%となった。「正社員と非就業者の片働き(同居の子あり)」、すなわち伝統的な性別役割分業が行われていると想定される男性でも、8.4%が「家事・育児」を望んでいた。

この背景には、そもそも男性の家事・育児時間が女性に比べて少ないという事実があるだろう。しかし、上記のデータはそれを当たり前と思うのではなく、「もっと家事や育児に関わりたい」と願いながらも、時間的制約によって実現できていない男性が一定数存在することを示唆している。

また、「正社員同士の共働き」の女性も、「家事・育児」を挙げる割合が比較的高かった(7.6%)。この背景には、正社員としての就業に多くの時間を配分せざるをえないなかで、家族のケアに時間を十分配分できていないという罪悪感が表れているようにも見える。

図表4 夫婦の主要な働き方別・「家事・育児」を希望する人の割合図表4 夫婦の主要な働き方別・「家事・育児」を希望する人の割合

(注)30~59歳の個人の集計。クロスセクションウェイトXA25を用いてウェイトバック済の数値。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」2025年追加調査

「労働時間」に充当したい人は少ない

最後に注目したいのは、男女ともに「もっと働きたい」というニーズが、どの類型においても非常に少ないことである。「労働」に時間を使いたいと回答した人は男性平均で1.7%、女性平均で1.3%にすぎなかった(図表5)。少なくとも30〜59歳において、追加の自由時間を「労働」に充てることへの希望は「家族」と「働く」の選択に関わらず低水準であった。

図表5 「家族」と「働く」の類型別・「労働」を挙げた人の割合
図表5 「家族」と「働く」の類型別・「労働」を挙げた人の割合

(注)同居の子がいる単身非正社員男性はNが極端に少ないため表示していない。30~59歳の個人の集計。クロスセクションウェイトを用いてウェイトバック済の数値。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」2025年追加調査

「時間の使い方」を再構築する社会へ

「もし時間があったら何をしたいか」という問いは、今の社会を生きる個人が切望する活動を映す鏡である。そこに表れたのは、「もっと働きたい」ではなく、「もっと休みたい」「もっと家族と関わりたい」「もっと自分を取り戻したい」という声であった。

働き手の確保が社会的課題になるなか、政策的に労働時間を増やすことを目指すことや、長時間労働を前提とする企業文化を維持することは、「家族」と「働く」の間に生じているコンフリクトを強めるだけだろう。それは結婚や子どもを持つことのハードルを高め、少子化という副作用を強めるリスクがある。
さらに職場について言えば、これまでのコラムで見てきたように、この10年で単身正社員や正社員同士の共働きを選択する個人が増えている。このような環境下で、より希望を叶えにくくなる変化は優秀な人材の流出を引き起こしかねない。

優先すべき課題は「より長く働ける」ようにすることではなく、賃金水準の上昇により、余暇より労働を選択するインセンティブを高めること、「よりさまざまな人が」「より効率的に」働ける環境を作ることだろう。データが示す人々の静かな、しかし切実な「望み」に向き合うことで、優先すべき解が見えてくる。

(※1)同ガイドでは、日本の男性労働者2282人を対象に14年間追跡した調査研究で、睡眠時間が1日当たり6時間未満の人は、7時間以上8時間未満の人と比べて、心筋梗塞、狭心症などの心血管疾患の発症リスクが4.95倍となることが報告されているといった研究成果に基づいて推奨が行われている。 

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。