
人材モデリング・スキル選考・瞬時マッチングを支援する注目のAI採用ツール

2025年4月29〜30日の2日間にわたり、ネバダ州ラスベガスにて「ERE Recruiting Innovation Summit」が初開催された。本イベントは、採用責任者向けの「ERE Recruiting Conference」と、ソーサー向けの「SourceCon」を統合した新たな試みであり、現地会場とオンラインのハイブリッド形式で実施された。
両日にわたって展開された「AI showcase」では、最先端のAI採用ツールをライブデモ形式で体験できる特別なプログラムが用意された。参加者は、各社が提供するツールの機能や活用方法を実際に比較・検討する機会を得た。登壇者との質疑応答を通じて、AIの具体的な導入イメージを深めるとともに、採用・ソーシングにおける課題解決のヒントを得る場となった。
1日目はHumanly、Canditech、Upwage、Puckの4社(図表1)が登壇し、採用課題に対する革新的なテクノロジーを披露した。各社は、応募者体験の向上、選考プロセスの効率化、バイアスの排除など、現場が直面する課題に対してAIを活用した具体的なソリューションを提示した。
図表1 採用AI showcase登壇企業(1日目)
Humanly
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Canditech
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Upwage
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Puck
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ERE Recruiting Innovation Summitにおける4社のAI採用支援ツールのデモの中から、特に注目すべき2社として、HumanlyとCanditechを取り上げる。Humanlyは「AIによる理想の人材像の即時モデリング」を実現する機能を披露し、Canditechは「スキルに基づく選考を可能にし、履歴書に依存しない採用プロセスの構築」を支援するプラットフォームを紹介した。
Humanly:AIによる理想の人材像のモデリング
Humanlyは、ソーシング、CRM(候補者関係管理システム)、チャットボットによるスクリーニングや面接日程の調整機能を統合したAI採用支援プラットフォームである。専門職から時給制職まで、幅広い採用領域に対応したプロセス設計が特徴である。
デモでは、専門職の求人と応募者のマッチング機能に加え、大量採用が求められる時給制職において、候補者を即座に面接へ誘導する機能が紹介された。
AIによるマッチングと人材モデルの構築
求人情報がATS(採用管理システム)に登録されると、AIはその内容、過去の採用実績、現在の応募者情報を基に、理想の人材像を分析する。採用担当者の選考アクション(面接に進める/不合格にする)を学習し、企業の採用判断の傾向を最適化する。
出所:Humanly
求人に適した候補者は、以下の4つに分類され、適合度の高い順に1つの画面上に提示される。
- 新規応募者
- 過去にATSに登録された応募者
- 社員の知人(リファラル候補)
- Humanlyの外部データベースに存在する6億人以上の転職潜在層
これにより、企業は候補者層に応じた次のアクションを即座に判断できる。たとえば、過去の応募者への再接触、社員による紹介依頼、転職潜在層へのスカウトメールの送信などを一元管理できる。
AIはスカウトメールの自動生成や、候補者の反応に応じた面接日程調整メールの自動送信も行う。
チャットエージェントによる即時接触
時給制職では、候補者が複数の企業に同時に応募する傾向が強く、迅速な接触と面接誘導が採用の鍵となる。Humanlyのチャットエージェントを活用することで、候補者との即時接触が可能となる。たとえば、飲食店の待ち時間に、店頭のポスターなどに印刷されたQRコードをスマートフォンで読み取ることで、AIチャットが起動し、2分以内に会話形式でのスクリーニングと面接日程調整が完了する。24時間365日対応のプロセスにより、候補者が求人に関心を持ったタイミングで即座に対応でき、候補者とつながることができる。
Canditech:履歴書に依存しないスキルベースの選考支援
Canditechは、スキル評価、ジョブシミュレーションテスト、録画面接、チャットボットによる自動スクリーニングを統合したアセスメントプラットフォームである。履歴書に依存せず、候補者のポテンシャルに基づいた選考を可能にする点が特徴である。
チャットボットはWhatsAppやSMSを通じて、応募者に希望の雇用形態などの基本情報を質問し、回答に応じて録画面接やジョブシミュレーションテストを送信する。これらの回答が自動で採点・評価され、結果に基づいて次の選考プロセスの案内や不採用の通知が自動で送信される。
デモでは、実務に近い形式のジョブシミュレーションテストを通じて、候補者のスキルや適性を評価する機能が紹介された。
実務ベースのジョブシミュレーションテストによるスキル評価
候補者は、コードやSQL(構造化照会言語)の記述、プレゼンテーション、メール作成、キャンペーン最適化、財務分析などのタスクに取り組み、企業は履歴書では把握しづらい能力を、客観的かつ高精度に評価できる。
出所:Canditech
デモによると、導入企業におけるCanditechの主な用途は以下の2つである。
- 大量採用や職歴が少ないエントリーレベルの採用の初期選考としてテストや録画面接を実施。
- リクルーターとの電話面接後にジョブシミュレーションテストを実施。
オンラインテストにおける不正検知・防止機能
Canditechは、以下のような不正検知・防止機能を備えている。
- 不正の検知:ブラウザのタブの切り替え、不審なマウス操作、生成AIによる回答のコピー&ペーストなどを検知する。
- 不正の防止:問題のランダム出題や、受検中のウェブカメラによるスナップショットの撮影により、不正行為を抑止する。
生成AI活用力の評価
Canditechは、受検中の生成AI利用を認める企業向けに、候補者が生成AIをどのように活用したかを可視化する機能も提供している。これにより、企業は候補者のAI活用力や思考プロセスを評価することが可能となる。
ソーシング領域のAIツール
2日目には、Fastr.ai 、TRC Talent Solutions、Pin.comの3社(図表2)が登壇し、それぞれのプロダクトの機能と特徴を紹介した。各社は、ソーシング領域の課題に対してAIを活用した具体的なアプローチをライブデモ形式で実演した。
図表2 ソーシングAI showcase登壇企業(2日目)
Fastr.ai
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TRC Talent Solutions
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Pin.com
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以下では、従来のATSと容易に統合でき、求人と候補者を瞬時にマッチングする機能を披露したFastr.aiに注目し、デモ内容を紹介する。
Fastr.ai:既存データを活用した、求人・候補者マッチング支援ツール
Fastr.aiは、ATSに蓄積された人材情報や、社内外のデータを活用し、ポジション要件と候補者特性をAIでマッチングするプラットフォームである。ブラウザ拡張機能により、ATSの画面上に候補者のマッチスコアやLinkedInなど外部サイトの情報を表示できるため、既存の採用ワークフローを維持しながらAIによる強化が可能となる。
ライブデモでは、応募者の自動スコアリングと、埋もれた人材を再発掘する2つの機能が紹介された。
自動スコアリングによる初期選考の即時化
大量応募が短期間に集中した場合でも、AIが履歴書とジョブディスクリプションを基に、応募者を自動スコアリングし、「ホット」「ウォーム」「コールド」の3段階で優先順位を表示する。
これにより、採用担当者は、どの候補者から優先的に確認・接触すべきかを、即時に判断できる。
出所:Fastr.ai
ATS上の応募者名をクリックすると、応募者のスキル一覧や履歴書を表示することができる。適任と判断した場合は「Contact」ボタンで、即座に次の選考ステージへ進めることができる。
また、経験年数、出身大学、過去の勤務先、居住地などの条件で応募者を絞り込むフィルター機能も搭載されている。
過去応募者や外部人材の再評価から候補者を発掘
Fastr.aiでは、ATS内に眠る過去応募者を再評価する機能を備えている。たとえば、以前最終選考まで進んだが採用に至らなかった「銀メダリスト」、過去に応募した類似スキルを持つ人材をAIが自動で抽出し、適合度に基づいてランク付けする。これにより、従来は見落とされがちだった有望な候補者を効率的に再発掘できる。
さらに、「Externals」ボタンを押すことで、2億8000万件以上の外部データベースから、求人との適合度が高い転職潜在層を自動で抽出することが可能である。
これらの機能により、既存データと外部データを組み合わせ、幅広い人材プールから候補者を短時間で発掘できる。
総括
ERE Recruiting Innovation Summitは、採用責任者や現場担当者が直接交流し、AI活用の実例に触れる貴重な場となった。
AI showcaseでは、製品の操作感や導入イメージをその場で体験できたことで、参加者の間では「AIへの漠然とした期待や懸念が、具体的な理解へと変わった」との声も多く聞かれた。
AIはもはや理論上の可能性ではなく、採用業務の現場で実用的な選択肢となりつつある。今後、企業が自社の課題に応じて、どのようにAIを取り入れ、どこまで意思決定を委ねるかが重要な検討事項となるだろう。
TEXT=山根江理子