エージェント型AIプラットフォーム「Maki People」:スクリーニングから面接までを自律化

2025年08月29日

採用の領域において、AIは補助的なツールから、自律的に機能する「エージェント」へと進化しつつある。その代表例が、フランス発のAIプラットフォーム「Maki People」である。
Maki Peopleの音声AIエージェント「Mochi」は、スクリーニング、アセスメントの実施・採点、面接対象者の選定、日程調整までを自動化する。

Maki Peopleの注目ポイント

音声AIエージェント「Mochi」による選考プロセスの自動化

■ 応募対応とスクリーニング

2025年3月に実装されたMochiは、40以上の言語に対応し、小売、物流、カスタマーサービス、製造など、大量採用が求められる職種に適している。
応募者にはSMSまたはWhatsAppで選考案内が送られ、返信後すぐに音声対話方式によるスクリーニングが開始される。就業条件や勤務地、給与などの確認に加え、仕事内容や採用プロセスに関する質問にも自動で対応する。

■ パワースキルの評価

Mochiは構造化面接に準じた質問を行い、応募者の回答をLLM(大規模言語モデル)と自然言語処理(NLP)により解析する。「判断力」「共感性」「論理性」などのパワースキルをリアルタイムで評価・スコアリングし、心理測定学(※1)に基づく複数の分析手法を用いて信頼性と公平性を担保する。
回答内容に応じて、深掘りの質問も生成され、精度の高い評価が可能となる。

■ 自然な対話設計

Mochiは、応募者の話し方や反応に応じて、会話のトーンやテンポを自律的に調整する。たとえば、ゆっくり話す応募者にはスピードを落とすなど、自然な対話を実現する。
企業は、Mochiの声の性別、会話トーン、背景ノイズなどを自由にカスタマイズできる。

候補者選定と面接日程の自動調整

Mochiはアセスメント結果に基づき、企業が設定した基準(例:スコアが80点以上)を満たす候補者を選定し、面接日程を自動で調整する。候補者は提示された日時から希望の時間を選ぶだけでよく、メールでのやりとりは不要である。

柔軟なアセスメントテスト設計とスキル評価

Maki Peopleは、300種以上のアセスメントテストを提供し、音声・ビデオ・テキスト形式に対応する。企業は職種や評価目的に応じてさまざまなテストを組み合わせて自由に設計できる。質問内容や所要時間、回答方法なども選ぶことが可能である。
評価対象となるスキルは以下のとおりである。

  • 認知能力:問題解決力、論理的思考力、チャット能力、知覚測定(※2)
  • 言語能力:発音、語彙、文法、論理性
  • 性格特性:Big Fiveに基づく行動特性
  • 職務特化スキル:マーケティング、事業戦略など

Maki People アセスメントライブラリー

<アセスメントテストライブラリー>
インサイドセールス、サイバーセキュリティの基礎、プロジェクト管理、バリューマップ、問題解決力、注意力などさまざまなアセスメントテストを組み合わせることができる。

出所:Maki People https://help.makipeople.com/en/articles/70229-creating-an-assessment

■ アセスメントテストの流れ(例:言語能力テスト)

  1. 実施:候補者が音声またはテキスト形式で一連の設問に回答する(選択/自由記述に対応)。
  2. 録音・記録:録音後にAIが自動で音声を文字起こしする。
  3. 解析:AIが語彙・文法・論理構成・感情表現など複数の観点から回答内容を解析する。
  4. スコアリング:評価指標に基づき、AIが各スキルのスコアと総合評価を算出する。

■ シミュレーション型評価とレポート生成

業務場面を模した「シミュレーション型テスト」では、トラブル対応などの状況設定に基づき、AIが候補者に質問を投げかけ、問題解決力や柔軟性を評価する。
アセスメント結果は、リアルタイムで解析・採点され、以下の情報を含むレポートが自動生成される。

  • 総合スコア(成功率 %)
  • 他候補者との比較(ランキング表示)
  • テストごとの評価スコア
  • 性格特性や行動傾向
  • 各スキルの強みと改善点

採用担当者はプラットフォーム上で全候補者の結果を一覧表示し、スコアやステータスによる並べ替えやフィルタリングを行うことができる。
個別の詳細情報も把握でき、明確な根拠に基づく意思決定が可能となる。

5つの不正検出機能による信頼性の確保

アセスメントテストには、以下の不正検出機能が搭載されている。

  1. 顔写真の自動撮影(複数の顔検出で高リスク判定)
  2. IPアドレスによる位置情報の検出
  3. タブの切り替えの検出(5回以上で不正リスク)
  4. AIによる回答支援の検出
  5. 全画面モードの強制

導入実績と成果

Maki Peopleは、Grant Thornton、Capgemini、Nestlé、H&M、Generali Concierge Services、PwC、Deloitteなどの大手企業に導入されている。
H&Mでは、従来の履歴書選考や長時間面接では対応しきれない採用ニーズに対し、Maki Peopleを導入した。販売職を中心に39カ国・25カ国語で対人スキルを評価し、採用期間を43%短縮。マッチング精度の向上により、離職率が25%減少した。
Nespresso Franceは、業務シナリオに基づくシミュレーションアセスメントを導入し、採用期間を26%短縮。早期離職の減少と候補者満足度99%を達成した。
2025年5月、Maki Peopleは、Viva Technologyによる「欧州急成長スタートアップ100社」に選出された(※3)。

他のAIエージェントとの違い

Mochiの自律性は、他のAIエージェントと一線を画す。たとえばAprioraのAIは、人間の指示を前提とするアシスタント型であり、「AIが提案→人が判断→AIが実行」という流れが基本である。
一方、Mochiは、基準を満たした候補者を次工程へ自動的に進ませることが可能である。

日本国内との比較と今後の課題

日本でもPeopleXなどの対話型AI面接サービスが登場しているが、Maki Peopleのように300種類以上のアセスメントテストでスキルを多面的に評価し、選考全体を自律的に担うサービスはまだ少数である。

AIが採用判断に深く関与するようになった現在、自律的な判断力を活かすためには、企業があらかじめAIに設定する選考通過基準が極めて重要となる。たとえば、AIによる初期選考において、どのスキルや資質を重視し、どこを通過ラインとするのか。また、AIが絞り込んだ候補者に対して、人が行う面接では何に注目し、どう判断するのか――AIと人の明確な役割分担が問われている。
こうした設計を可能にするには、企業が「どのような人材を良しとするのか」という価値観を明確にし、それを基にプロセスや基準を組み立てる必要がある。結局のところ、それこそが、AIを活かすための重要な「起点」であり、選考プロセス全体を支える土台となる。

TEXT=杉田真樹

(※1)心理的特徴を数値で表し、定量的に評価する手法である。
(※2)視覚的な情報を処理し、類似するパターンや差異を認識する速度と正確性を測る。
(※3)年間経常収益(ARR)500万ユーロ以上、過去3年間に年率40%以上で成長を遂げる革新的な企業を対象とする。