外部人材の「コスト管理」から「戦略的タレント活用」へ──VMS(ベンダーマネジメントシステム)の最新動向と主要ソリューション3選
派遣、請負、フリーランスといった外部人材は、今や企業活動に不可欠である。2024年のArdent Partnersの調査によれば、大企業では全労働力の約50%を占めるケースもある(※1)。
しかし多くの企業では、外部人材との契約、稼働状況、コストの管理が依然として部門ごとにサイロ化されている。その結果、コストの不透明化、偽装請負などのコンプライアンスリスクといった深刻な経営課題を生み出している。さらに、ベンダー(人材供給会社)のパフォーマンスに関するデータが属人化し、最適な人材の獲得を阻害している。
これらの課題を解決する戦略的基盤として大手グローバル企業が導入しているのが、ベンダーマネジメントシステム(以下、VMS)である。
VMSの進化―AI搭載と「トータルタレントマネジメント」
VMSは2000年代から存在する成熟した領域であるが、近年、AIの本格的な実装により、その役割は劇的に変化している。2025年現在、VMSは単なる「管理システム」から、AIが発注書や契約書の作成、最適なベンダーや候補者の推薦、支出リスクの自動検知を行う「インテリジェンス・プラットフォーム」へと進化を遂げている。
さらに、VMSはHCM(人事管理システム)やATS(応募者追跡システム)といった既存の人事システムとAPI連携を深めている。これにより、分断されていた従業員と外部人材のデータを横断的に可視化し、スキル、コスト、パフォーマンスの観点から全社的な労働力の構成を最適化する「トータルタレントマネジメント」の実現に向けた中核的基盤となりつつある(※4)。
本コラムでは、この進化を牽引する代表的なVMSソリューションとして、「Beeline」「SAP Fieldglass」、そして独自のAI機能で注目される「Ceipal」を紹介する。

コスト管理から戦略的人材活用へ
VMS市場は既に成熟期にある。Staffing Industry Analysts(SIA)の調査によると、2025年時点で従業員数1000人以上のグローバル企業におけるVMS導入率は 83%であった(※2)。 2023年のVMSの取扱高は、世界で2700億ドル(約40兆円) に達した(※3)。
注目すべき点は、VMSを活用した外部人材の管理主体の変化である。かつては調達部門の「コスト管理ツール」という位置づけだったが、現在は人事部門が関与(主導または共同)するケースが52%と半数を占める(※3)。これは、企業が外部人材を単なる「コスト」ではなく、自社の競争力を左右する重要な「タレント」として戦略的に捉え直していることを示唆している。
VMSの対象範囲と機能
VMSは、時給制のコンティンジェントワーカー(派遣労働者・契約労働者)と、SOW(作業範囲記述書)に基づく請負・プロジェクト型業務(SOW案件)を対象とする。以下の情報を全社レベルで可視化・統制する。
- 労働力の確保:どのベンダーから、どのような契約条件(単価、期間)で人材を獲得しているか。
- 稼働状況:誰が、どの部署・プロジェクトで、いつ・どれだけ稼働しているか。
- コンプライアンス:契約や支払いは適切か。契約区分は適正か。
- パフォーマンス:どのベンダーが人材の供給スピード、質、費用対効果において優れているか。
VMSのしくみ(SAP Fieldglassの例)
■ コンティンジェントワーカーの発注~契約~支払いまでの主な流れ
- 求人条件をVMSに登録する。
- 依頼内容が複数のベンダーに自動通知される。
- 各ベンダーからの候補者情報を基に、面談対象者を選定して、面談依頼をベンダーに送る。
- 面談後、採用可否をVMSに登録する。
- 発注書が自動生成され、契約が確定する。
- ワーカーがVMSに入力したタイムシートや経費を承認する。
- 請求データが自動生成され、企業の会計システムと連携して支払いが行われる。
■ SOW案件の発注~契約~支払いまでの主な流れ
- プロジェクト要件をVMSに登録する。
- 依頼内容が複数のベンダーに自動通知される。
- 各ベンダーからの提案や見積もりを基に、ベンダーを選定する。
- VMS上で作業範囲記述書を作成し、契約を確定する。
- 成果物の検収状況をVMS上で確認し、承認する。
- 請求データが自動生成され、企業の会計システムと連携して支払いが行われる。
主要ソリューション3選
Beeline:外部人材の「スキルベース採用」をAIで促進
VMSのマーケットリーダーであるBeeline は、2025年4月に「Beeline AI」の一般提供を開始し、AIファーストのVMSへと舵を切った。
■スキルベースの候補者推薦
Beeline AI の最大の特徴は、スキルを基点としたコンティンジェントワーカーの推薦機能である。VMSに蓄積された過去のコンティンジェントワーカーのスキル情報やプロジェクト実績データと、ベンダーから提出される新規の候補者データをAIが統合解析する。
企業は、候補者のスキル適合度を示すスコアや、「一致スキル」「関連スキル」「不足スキル」を画面上で確認でき、経験や勘に頼らない、データドリブンな人材の選定が可能となる。
■AIによるコンプライアンス強化
契約書や稼働データなどを解析し、各国の労働法規と照合する。「“従業員”と誤分類されるリスクがある」といった違反の兆候を自動検知し、未然にアラートを発する。
■導入事例
BNP Paribas、Cognizant、Accenture、Amazon、Airbus、Best Buy、LinkedIn、Southwest Airlinesなどが導入している。ある大手コンサルティング会社では、1万人以上の外部人材と約4億ドルの支出管理を自動化し、初年度で約10%のコスト削減を実現した。
SAP Fieldglass:生成AIによる発注・管理プロセスの完全自動化
SAP Fieldglassは、多通貨・多言語(22カ国語)・多国間の法制度に対応する強固な基盤を持ち、180カ国以上で利用されている。
特に、同社のHCM「SAP SuccessFactors」とシームレスに連携し、従業員と外部人材を総合的に管理する「トータルタレントマネジメント」を実現する点で優位性を持つ。
2025年8月には、生成AIアシスタント「SAP Joule」を搭載し、業務プロセスを劇的に効率化した。
■生成AIによる発注書・契約書作成
「システムエンジニアを3カ月間、東京で」といった自然言語の指示だけで、Jouleが過去の類似案件データを基に最適な発注書テンプレートを提示し、必要項目を自動入力する。
さらに、契約書作成時も過去のデータを基に、最適な契約条項や文言を自動提案する。
■生成AIによる予算消化・契約更新の自動通知
Jouleは、契約金額や支払いデータをリアルタイムで分析し、予算の消化状況を自動で可視化する。「予算消化率が90%に達した」「契約満了まであと10日」といったアラートを自動で通知し、予算超過や契約更新漏れを未然に防ぐ。
■導入企業
Hitachi、Siemens AG、Capgemini、HP、Carnival Cruise Lineなどが導入している。
HPでは、 Jouleの活用により、発注書作成日数を平均10日から3日に短縮。さらにグローバルでの1万件以上の契約監査を自動化し、監査コストを約20%削減した。
Ceipal:AIが「最適ベンダー」と「最適候補者」を推薦
Ceipalは、ATSのプロバイダーとして成長してきた企業であり、そのAI技術を適用したVMS「Procurewise」を2023年から一般提供している。比較的新しいサービスであり、特にAIによる「ベンダー推薦」機能に強みを持つ。
■ AIによるベンダー推薦(企業向け)
企業が案件要件(職種・スキルなど)を入力すると、AIが、VMSに蓄積された過去の実績データ(採用率、充足スピード、拒否率、定着率など)を分析。各ベンダーをスコア化し、「Recommended(推奨)」「Good Fit(適性高い)」などの評価ラベルとともに一覧表示する。これにより、データに基づいた客観的なベンダー選定を実現する。
■AIによる候補者マッチング(ベンダー向け)
企業に選ばれたベンダー側に対しても、保有する候補者の中から「その案件に誰が最適か」をAIが推薦する。企業とベンダーの双方にマッチング機能を提供することで、人材確保全体のスピードと精度を向上させている。
スキルベースの戦略的人材活用へ
現在、多くのグローバル企業がVMSを通じて、外部人材の契約・稼働・コストの「可視化」を実現している。しかし、VMSの進化はそこにとどまらない。
Beeline AIの事例にあるように、VMSは外部人材のスキル情報を統合・活用し、最適な人材を選定・配置するための戦略基盤へと進化しつつある。
これまで、「スキルベース採用」は、主に従業員の採用・配置を対象としてきた。しかし、即戦力性とプロジェクトへの迅速なアサインが求められる外部人材の活用においてこそ、スキルベースのマッチングは極めて重要である。
今後、VMSのスキル関連機能が進化することで、企業は社内外の「トータルタレント(全人材)」のスキルと稼働状況を横断的に把握し、真に戦略的な人材活用を実現できる可能性が高まる。
日本企業にとっても、全社に分散する外部人材のスキルと実績、コストを可視化・一元化するVMSの活用が、限りある人材リソースを最大限に生かすための選択肢になる。
TEXT=杉田真樹
(※1)https://www.beeline.com/resources/transform-the-way-you-manage-your-growing-contingent-workforce
(※2)https://www.staffingindustry.com/research/research-reports/americas/vms-global-landscape-and-differentiators-2025
https://magnitglobal.com/us/en/resources/knowledge-center/reports/sia-vms-global-landscape-differentiators-2025-showcase-report.html
(※3)https://www.staffingindustry.com/research/research-reports/americas/vms-global-landscape-and-differentiators-2024
https://magnitglobal.com/content/dam/prounlimited/content/report/sia-vms-global-landscape-and-differentiators-2024-magnit.pdf
(※4)https://talenttechlabs.com/next-gen-vms-orchestrating-total-talent-intelligence/
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