AIによる職務分解と自動化の定量化プラットフォーム「Beamery」
AI導入の成否を分ける「タスクインテリジェンス」
企業によるAI導入が加速する一方、現場における具体的な変容を実感できないという課題が顕在化している。AI活用を戦略的成果へと結びつけるには、職務の精緻な把握が不可欠である。従来の職種ベースの管理や固定的な組織図では、AIがもたらす不可逆な業務変容を捉えきれない。業務の可視化が不十分なままAIを導入しても、断片的な自動化にとどまり、組織全体に対する実質的な価値創出にはいたらない。
Beameryが2025年に実施した米国企業調査(※)によれば、経営幹部の99%がタスクの自動化を推進しているものの、その障壁として「適切なタスクの選別(49%)」や「質の高いデータの確保(48%)」を挙げている。また、人事リーダーの37%が、AI導入の最大障壁に「従業員の実務実態の不透明さ」を指摘する。
この課題に対し、「どのタスクを自動化し、どの程度余力が創出されるのか」を可視化し、「創出されたリソースの再配置」の設計までを一気通貫で実現する手法として、業務を最小単位の「タスク」へと分解・データ化する「タスクインテリジェンス」が注目されている。本コラムでは、同領域を牽引するBeamery の取り組みについて解説する。

Beamery:AI時代の組織再編シミュレーター
英国発のユニコーン企業であるBeameryは、2025年7月にタスクインテリジェンス機能を公開した。
200億のデータに基づく「ナレッジグラフ」
Beameryの中核は、約10年をかけて構築された独自のデータ基盤「ナレッジグラフ」である。200億件の人材データ、6億件の匿名プロフィールと3億件の職務記述書(ジョブディスクリプション)が蓄積されており、独自のAIが「特定のジョブに紐づくタスクとスキル」を90%以上の精度で推論する。
特筆すべきは、社内データが不完全な場合でも、膨大な外部ベンチマークデータから生成AIが不足情報を自動補完する「合成職務記述書(Synthetic job descriptions)」機能である。これにより、職務記述書の整備が遅れている企業において即座に分析を開始することが可能となった。
組織の「デジタルツイン」による変革シミュレーション
企業内に散在する非構造化データ(人事データやLinkedIn等の外部情報)を収集し、ナレッジグラフを用いて世界基準の共通言語へと統合する。これを実際の役職や部署データと連結させることで、組織の現状を仮想空間上に再現した「デジタルツイン」を構築する。
人事担当者は、特定部門の定型業務を自動化した際の余剰リソース創出について、実践前にこのモデル上でのシミュレーションが可能となる。
自動化適正タスクの特定とROIの算出
AIは標準化された職務を実務レベルの「タスク」に切り分け、「発生頻度」と「遂行に要する時間」の2軸でスコアリングを行う。
さらに、各タスクの「単純性(ルールの明確さ)」に基づき、自動化への適性を判定する。
分析結果は具体的な導入インパクトとして算出される。たとえば、カスタマーサポート職のタスクの55%を自動化した際、削減可能な年間総時間やコスト、再配置の検討対象となる具体的な従業員数までが定量的に提示される。
論理的根拠の提示と技術選定
Beameryは自動化の可否を判定するだけでなく、その「根拠」と「手段」をセットで提示する。「本タスクはルールに基づく反復プロセスであり、人間による判断の必要性が低いため、自動化に最適である」といった論理的裏付けに加え、推奨される技術(RPA、ワークフロー自動化、NLP等)を具体的にリストアップする。
組織レベルでのROI可視化
Beameryの強みは、個人単位の「数時間の余力」をチームや部署、さらには全社規模で合算し、AI導入のインパクトを全社的視点でシミュレーションできる点にある。「組織全体で特定の共通タスクの60%を自動化することで、年間1400時間の創出と5万ドルのコスト削減が見込める」といった、投資対効果(ROI)の具体的な予測値を提示する。
データに基づく「納得感」のある配置転換とリスキリング
余剰リソースをどの職務へ再配置すべきか。Beameryは、個々の従業員のスキルセットと各職務との親和性を解析し、客観的な「フィットスコア」として可視化する。
特徴的なのは、新しい職務に必要なトレーニング期間までを定量化する点である。「スキルの親和性が87%あるため、3カ月のリスキリング期間を経てデータエンジニアへ転換可能」といった具体的な「再配置パス」を生成する。さらに、社内人材のリスキリングコストと外部採用のコストを比較提示し、経営上の意思決定を支援する。
パーソナライズされた再配置プランの策定
分析の精度は組織単位に留まらず、個人レベルにまで及ぶ。全従業員に対し、推奨する転換先職種、想定給与、現在のスキルとの整合性、受講すべき具体的な学習コース(「Python入門」など)を包含した個別プランを提示する。これにより、人事担当者はデータ集計や整合性の確認といった事務作業から解放され、キャリア面談や内省支援、パーソナルな伴走といった「人間にしか代替できない高度な対人業務」にリソースを集中させることが可能となる。
生成AIコンサルタント「Ray」による意思決定支援
これらの複雑な解析結果を直観的に引き出すのが、生成AIコンサルタント「Ray」である。人事担当者がチャット形式で質問すると、即座に「モニタリング業務の40%が自動化可能であり、人員の22%が再配置対象となる」といった具体的回答が得られる。
導入事例
大規模人員削減から戦略的再配置へ
業界全体のDX化と不況という課題に直面していたある大手金融サービス企業は、当初、構造改革の一環として大規模な人員削減を検討していた。しかし同社は、削減の決行前に、Beameryを用いて業務実態の詳細な把握を行った。
業務をタスク単位で可視化した結果、「どのタスクが自動化に適し、どのタスクを人間が継続するべきか」を客観的なデータに基づき特定。
さらに、自動化によって余剰が生じる従業員の転用可能なスキルを分析したところ、データサイエンスなどの成長領域に対し、高い親和性を持つことがシミュレーションで示された。結果として、具体的な学習コースを含む再配置プランが生成され、同社は一律の人員削減に代わる「成長領域への再配置」という、データに基づいた合理的な選択肢を得ることができた。
日本企業への示唆
配置転換が頻繁に行われる日本のメンバーシップ型組織において、タスクインテリジェンスは極めて強力な武器となる。従来、定性的な評価や判断に頼っていた異動を、データに基づいた「戦略的な人材再配置」へと進化させることができるからである。
その第一歩は、職務をタスクに分解し、データで可視化することにほかならない。労働力不足が深刻化する日本において、人事が担うべき真のミッションは、データ活用による「ワークフォース・リデザイン(労働力の再設計)」を主導することである。
TEXT=杉田真樹
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