ハローワークの紹介はなぜ事務職に偏るのか―統計から考える公共職業紹介の再設計①

主任研究員 古屋 星斗

2026年06月19日

ハローワークの役割の変化

日本の労働市場は、景気循環的な人手不足ではなく、人口動態に起因する慢性的な労働供給制約の局面に入りつつある(※1)。こうしたなかで、公共職業安定所、すなわちハローワークの役割をどう考えるべきかが重要な論点となっている。

ハローワークは、仕事を探す人と人材を探す企業に対して、無償で職業紹介サービスを提供してきた。しかし近年、民間人材サービス、求人広告だけでなく、企業による直接採用(ダイレクト・リクルーティング)、リファラル採用、スカウト型サービス、地域のブティック型・フリーランス型の職業紹介事業者、スポットワークアプリなど、労働需要超過の慢性化を背景として、求職者と求人企業を結びつける経路が急速に多様化している。この点について、内閣府もすでに2024年1月の月例経済報告関係資料(※2)で、企業の人手不足感がバブル期以降最高水準に高まる一方、ハローワークの有効求人倍率は横ばい傾向であり、両者に乖離が生じていると指摘した。さらに、ハローワークを経由した就職者の割合は15%程度まで低下し、民間職業紹介やスポットワークによるマッチングが増加していると整理している。

古屋(2024)は、ハローワークにおける紹介件数、就職件数が2004年以降中長期的に減少傾向にあり、また特定職種の紹介と就職斡旋が特に困難となりつつあることを指摘した(※3)。

重要なのは、有効求人倍率などの「一般職業紹介状況」に基づく労働市場統計が、労働市場全体ではなく、あくまでハローワークで扱った求人・求職・就職の状況を集計した業務統計である点である。労働政策研究・研修機構(JILPT)も、一般職業紹介状況はハローワークで扱った求人、求職、就職の状況を取りまとめたものであり、有効求人倍率は求職者数に対する求人数の割合として労働需給の逼迫度を示す指標として“参照される”と説明している(※4)。

この点において、例えば「失業率」は、入職経路に関係なく失業者数と労働者数をもとにした統計であり、現下のように労働市場における入職経路が移り変わる状況ではより頑健性が高いと言える。ハローワークの利用率が低下すれば、有効求人倍率は労働市場全体の指標としての代表性を弱めていく(図表1)。

図表1 入職経路別入職者数の推移(※5)図表1 入職経路別入職者数の推移

出典:厚生労働省,雇用動向調査

労働市場の分析をする人間は、近年この問題(有効求人倍率をどう扱うべきか)に悩まされてきた。この課題感に対して、ハローワーク統計(一般職業紹介状況)を労働市場の統計ではなく、「ハローワークの役割と機能を分析する統計」として用いようと提起し分析を行ったのが、内閣府や日本経済新聞(※6)、古屋(2024)の分析視点であった。

いずれにせよ、これまで筆者は、有効求人倍率と日銀短観の雇用人員判断やそのほかのマクロ統計・企業統計の乖離について、「ハローワークに求人を出しても採用できないため、企業が民間サービスへ切り替えている可能性」や、「有効求人倍率はハローワークに出された求人・求職者の統計であり、全体像把握には限界がある」という論点を提示してきた。

しかしそのことは、有効求人倍率の有効性を否定することとは別の問題である。本稿は、一般職業紹介状況をハローワークの機能を考える統計として、労働政策の検討上、むしろ重要性が増していると考える立場、併せて、労働供給制約下で働き手不足が逼迫する地域経済においてハローワークの重要性が低下することはなく、その機能をいかに発展・転換させていくのかを検討する立場から、これらの統計を検証し、今後のハローワークの機能を検討するものである。

ハローワークの最新状況:マッチング数の減少傾向の継続

厚生労働省の一般職業紹介状況では、2025年平均の有効求人倍率は1.22倍で、前年より0.03ポイント低下した。2025年平均の有効求人は前年比3.5%減、有効求職者は1.2%減であり、ハローワーク上の求人・求職はやや弱含みながらも、大きくは減少していない(図表2)。

それにもかかわらず、就職件数(※7)は9.1万件まで減少した(※8)。これは確認できる限り(1960年以降)の最小値を更新している。10年前の2015年と2025年を比較すると、有効求人数は1.8%減、有効求職者数は3.7%減にとどまる一方、就職件数は42.3%減である。求人や求職者は集め続けているものの、ハローワークによる就職先マッチングの件数の減少は著しく、その傾向は継続している(図表2、黄色折れ線)。

図表2 ハローワークにおける有効求人数、有効求職者数、就職件数の推移(※9)図表2 ハローワークにおける有効求人数、有効求職者数、就職件数の推移
出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

古屋(2024)では、2009年に85.8%だった「有効求人数に占める紹介件数の割合」(以降、「紹介率」と呼称する)が、2023年には11.3%(※10)まで低下し、直近で9割方の求人は紹介されていない状況にあると指摘した。この紹介率について、2025年は11.9%で、2023年からわずかに上がったものの、ハローワークに求人は存在するが求人企業に求職者を紹介できていない状況は継続している。

なお、厚労省は2021年9月以降、ハローワークインターネットサービスの機能拡充に伴い、オンライン上で求職登録した求職者数や、求人への直接応募による就職件数なども統計に含めている。窓口へ行く必要がなくなったため就職件数が増加すると考えられたが、就職件数の低下が続いている点は、単に「求職行動が対面窓口からオンラインへ移った」という説明だけではハローワークの紹介機能低下に関わる議論が不十分であったことを示している。

図表3 有効求人数に占める紹介件数の割合(紹介率)及び有効求人数に占める就職件数の割合(※11)図表3 有効求人数に占める紹介件数の割合(紹介率)及び有効求人数に占める就職件数の割合出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

求人シェアと紹介シェアのいびつな関係:ハローワークの紹介の36%は事務職

さて、全体状況を見た上で、職種別(大分類)の状況を見ると一点興味深いことがわかる。それは「ハローワークの紹介件数・就職件数で最も多い職種は事務職である」ことだ。紹介件数では実に35.9%を占めている。それでは、事務職(事務的職業)の求人が多いのだろうと考えるが、そうではない。事務職の有効求人数に占める割合はわずか9.5%である。9.5%の求人数の事務職へ35.9%の紹介が行われている。就職件数の割合でも20.4%と求人数割合に比して倍以上となっている(図表4)。他方で、専門的・技術的職業は求人数23.6%に対して紹介件数12.7%、就職件数13.6%と求人数の割合に比して紹介、就職決定のシェアは少ない。サービスの職業(医療・介護・飲食・宿泊等)も同様の傾向が見られる。建設・採掘の職業は5.3%の求人シェアだが、紹介件数1.4%、就職件数2.4%である。

図表5にハローワークの職種別の状況を整理した。横軸が有効求人数における職業別シェアであり、縦軸が紹介件数における職業別シェアである。求人の多寡とハローワークの紹介の多寡をマッピングしている。求人が多ければ紹介しやすく、少なければ紹介することは難しいのは道理であり、横軸と縦軸と数値は原則として1:1で対応しやすいと考えられる。実際に、一部の職種以外は斜め45度の右肩上がりの線上(図表5赤線)の前後にあることが確認できる。しかしそれと大きく乖離している職種がある。著しく「求人数割合に比して紹介件数が多い」のが事務的職業であり、その逆に「求人数割合に比して紹介件数が少ない」のが専門的・技術的職業及びサービスの職業である。

現下、地域において現場職、つまり生産工程従事者や建設従事者、医療・介護従事者の不足が社会課題となっている。しかし、ハローワークの紹介につながりやすい職種は事務職に集中していることがわかる。

図表4 2025年の有効求人数、有効求職者数、紹介件数、就職件数のシェア図表4 2025年の有効求人数、有効求職者数、紹介件数、就職件数のシェア 出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

図表5 有効求人数のシェア(横軸)、紹介件数のシェア(縦軸)(職種別、2025年)図表5 有効求人数のシェア(横軸)、紹介件数のシェア(縦軸)(職種別、2025年)出典:厚生労働省,一般職業紹介状況を筆者分析

なお、こうした傾向は直近だけではなく中長期的なものである(図表6)。事務的職業の求人数シェアはおおむね9%台を推移している一方で、紹介件数、就職件数はそれより遥かに多い(2025年の事務的職業の紹介件数シェア35.9%は統計が確認できる2012年以降の過去最高値)。

図表6 事務的職業のシェア(2012~2025年)図表6 事務的職業のシェア(2012~2025年)出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

なぜ事務的職業を重点的に紹介しているのか:求職者の希望が集中するため

これは奇妙なことでもある。地域の企業のニーズがある仕事(求人が多い仕事)と異なる領域に求職者を紹介しているという状況は、なぜ起こっているのだろうか。
興味深い分析結果がある。図表7―1と図表7-2に紹介件数の変化率(2013年→2025年(※12))と有効求人数および有効求職者数の変化率を比較した2つの散布図を示した(上図は有効求人数の変化率との、下図は有効求職者数の変化率との比較である)。決定係数(この場合は相関係数)を比較すると、紹介件数の変化率は、有効求人数の変化率との相関は弱く(.11)、有効求職者数の変化率とはより強い相関を示している(.42)ことがわかる。

この点から、紹介件数の変化は求職者数の増減との関係が深いことが示唆される。つまり求職者が多くなれば紹介件数も増え、求職者が少なくなれば紹介件数は減りやすくなる。求人ではなく求職者数との関係が強いということだ。
つまり、紹介件数が多くなっている事務的職業等は希望者が多いために、求人はそれほどないもののハローワークは多くの紹介をしている。一方で、建設や医療・介護などのサービスの職業は、求人はたくさんあるものの希望者がいないためハローワークは紹介をできていない。

図表7―1 有効求人数変化率と紹介件数変化率の散布図
(縦軸=紹介件数変化率、横軸=有効求人数変化率)
2013年→2025年、職種別の変化率をプロットしたもの
図表7-1 有効求人数変化率と紹介件数変化率の散布図

図表7―2 有効求職者数変化率と紹介件数変化率の散布図
(縦軸=紹介件数変化率、横軸=有効求職者数変化率)
2013年→2025年、職種別の変化率をプロットしたもの
図表7-2 有効求職者数変化率と紹介件数変化率の散布図出典:厚生労働省,一般職業紹介状況を筆者分析

ハローワークが企業の求人に対応できている職種は「事務系」

この点について、ハローワークが企業の求人にどの程度対応しているのかを詳細な職種別(小分類)に分析した結果を図表8に示す。紹介率が最も高い(ハローワークが求人に最も対応できている)のは、一般事務の職業50.6%であり、実に半分以上の求人に対応できている計算となる。続いて、会計事務の職業44.6%、美術家、デザイナー、写真家、映像撮影者41.8%、営業・販売関連事務の職業39.5%、居住施設・ビル等の管理の職業34.0%と続いていく。こうした上位の職業はいずれも求人に高い割合で紹介できている。

他方で、下位では、最も低いのが建設躯体工事の職業で1.87%、続いて船舶・航空機運転の職業1.92%、建築・土木・測量技術者2.9%、医療技術者3.0%、土木の職業3.0%となっている。まさにエッセンシャルワーク・現場職であるが、こういった仕事の紹介率はなんと数%台、50件に1件、30件に1件しか紹介されていない可能性があるということだ。そして上位の職種の紹介率との懸絶も著しい。

さらに図表9は職種別大分類で見た職種別紹介率であるが、事務的職業が突出しており45.2%、続いて運搬・清掃・包装等の職業19.2%、管理的職業16.0%が続いている。低いものでは、建設・採掘の職業3.2%、保安の職業5.7%、専門的・技術的職業6.4%である。
現状のハローワークの紹介先は事務的職業に偏在している。

図表8 職種別紹介率=求人数に対する紹介件数割合(2025年)図表8 職種別紹介率=求人数に対する紹介件数割合(2025年)
出典:厚生労働省,一般職業紹介状況を筆者分析

図表9 職種別紹介率(大分類)(2025年)図表9 職種別紹介率(大分類)(2025年)注:紹介率=紹介件数/有効求人数
出典:厚生労働省,一般職業紹介状況を筆者分析

紹介の“質”の向上?

一方で、ハローワークにおける紹介件数と就職件数を分析すると、紹介から就職への結びつきという意味での“質”が上昇していることもわかる。図表10に、紹介件数のうちの就職件数の割合を経年で示した。2012年に18.8%、2013年に21.2%と2割台であったものが直近は3割前後となっており、2025年は28.3%である。

図表1で見たとおり、ハローワークにおけるマッチング件数(就職件数)はこの期間に半減しているが、紹介から就職に繋がる精度自体は向上している可能性が高い。これは企業の採用コスト(採用にかかる時間、工数)を下げる産業政策的な効果とともに、求職者の失業期間を短くする労働政策的・福祉的視点でも重要であると言えよう。

この“精度”について職種別に見ている(図表11)。農林漁業の職業47.2%、建設・採掘の職業46.9%、サービスの職業41.2%が高く、4割以上となっている。紹介率が低い職種でも、紹介から就職に至る割合は高くなっている。これはハローワークにおける職業斡旋の難しさが、紹介より前の段階に起因すること、つまり「紹介する求職者がいない」ことや「求職者が希望しない」「職種を転換する支援に至りにくい」ことにあることを示唆している。

図表10 紹介から就職に至る割合(就職件数/紹介件数)図表10 紹介から就職に至る割合(就職件数/紹介件数)出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

図表11 紹介から就職に至る割合(就職件数/紹介件数)(職種別)図表11 紹介から就職に至る割合(就職件数/紹介件数)(職種別)出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

そのほかの状況

また、そのほかの要点について触れておく。

  1. 販売職の求人数・求職者数が著しく減っている
    ハローワークの求人数や求職者数は近年ほぼ横ばいの傾向にあるなかで、特徴的な動きを見せるのが販売職である(図表12)。有効求人数は2013年から25%程度減少(24.4万人→18.2万人)、有効求職者数は55%程度減少(20.1万人→9.1万人)している。
    特にコロナ禍以降の変化については、販売職の募集構造の変化が背景にあるだろう。スポットワーク経由も含めて、募集経路が多様化したことの影響がある可能性が高い。

    図表12 販売職の動向(パートタイム含む常用)図表12 販売職の動向(パートタイム含む常用)出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

  2. 保安の職業の求人数は増加傾向が鮮明
    逆の傾向を見せているのが保安の職業である。求人数は2010年代前半の1.5倍程度に達しており、求職者数も減少しておらず近年は微増傾向である(図表13)。
    この点は今後のハローワークの機能を考える上で重要な示唆を与えている。保安の職業、つまり警察官や自衛官、そして民間の警備員であるが、このうち、警備員については従事者の高齢化が進んでいる。全国警備業協会によれば警備員の約2人に1人が60歳以上(46.1%)、5人に1人が70歳以上(19.2%)である(※13)。高齢者であっても活躍できる仕事として、希望する求職者も高齢者が多いと想定される。この点で、保安の職業の有効求職者数が減少せず安定的に推移し、合わせて求人が増え続けていることは、高齢者の就業率が高まっていく時代にハローワークが高齢者就業のプラットフォームとして重要な役割を果たすことができる可能性を示していると言えよう。

    就職件数も、全体がマイナス44.3%と半減の水準にあるなかで(2013年→2025年(※14))、保安の職業は職種別(大分類)で減少率が最も低く、マイナス18.7%にとどまっており、求人難のなか存在感を発揮している。この背景にあるのは、警備業をはじめとして、高齢者を中心にした未経験者の受け入れを積極的に行っている業種であること、現場職のなかでも比較的標準化された業務が多いこと、といった特性があるためではないか。こうした標準化され、高齢者を中心とする未経験者を受け入れる高いノウハウを有する領域においては、現在のハローワークは紹介機能の強みを発揮しやすいのかもしれない。

    図表13 保安の職業の動向(パートタイム含む常用)図表13 保安の職業の動向(パートタイム含む常用)出典:厚生労働省,一般職業紹介状況

問題点の整理:ハローワークが直面する困難とは何か

以上から、労働供給制約下においてハローワークが直面する価値発揮の難しさが何に起因するのか整理したい。

第一の問題は、紹介機能そのものの機能低下である。図表3で示したように、有効求職者数や有効求人数の低下に比して、紹介率の低下は顕著であり、2013年には紹介率は31.2%であったが、2025年には11.9%である。これは、単に求人倍率が上下しているという話ではなく、ハローワークが求人を集めても、それを求職者に結びつける機能が中長期的な傾向として縮小していることを意味する。就職件数についても、2013年の17.6万件から2025年の9.1万件へと減少している(パートタイム含む一般)。「企業から受領した求人に対して求職者を斡旋することが難しくなっている」という筆者の2年前の指摘の妥当性は継続している。

第二の問題は、セーフティネット機能とマッチング機能の緊張関係である。ハローワークの最重要機能は、失業者、就職困難者、高齢者、障害者、子育て・介護などの事情で働く時間や場所に制約がある人を支えるセーフティネットである。他方で、企業側は慢性的な人手不足のなかで、より迅速で、より能動的で、より調整力を持つマッチングを求めている。就職件数の低下基調は、企業がハローワークに対して人材獲得のパートナーとしての期待を持ちにくい状況が強まっていることを示唆する。セーフティネットとしての丁寧な支援と、採用市場で競争力を持つ人材紹介機能は、同じ組織で両立できると考えられるものの、現行の体制やこれまでのKPIで達成するのは難しくなっているのではないか。

第三の問題は、求職者不足の職種に対して、従来型の「求人受理・求職者紹介」モデルでは対応が難しくなっていることである。建設、介護、保安、輸送などでは、求人を受理して待つだけでは求職者が現れにくい状況がすでに生じている。2025年の高校新卒者向けハローワーク求人でも、求人数は約46.7万人、求職者数は約12.6万人、求人倍率は3.69倍となっており、若年層の入口でも人材獲得競争は強い。

このような状況では、ハローワークは「求人票の掲載・紹介」の機能を超え、地域の教育機関、訓練機関、自治体、業界団体、企業と連携して、人材の育成・移動・定着までを設計する機能が求められる。求職者数がハローワークの紹介機能のボトルネックになっている構造は本稿で示したとおりであり、いかに企業の需要が高い分野で就労を希望する求職者を集めることができるのか、この点にハローワークが価値を発揮するための大きなポイントがある。特に現役世代労働者への訴求力が低下していることは指摘できる。

第四の問題は、職員・組織の業務負荷と専門性の問題である。筆者は求職者の性質の変化から、1件1件の採用・就職を決定するための労力が高まっている可能性、またハローワークが職業紹介以外の多様な業務を担うことで、企業と人をつなぐ基本機能が低下している可能性を指摘してきた。労働供給制約下では、職業紹介は単なる「求人と求職の突合」ではなく、企業側への求人条件設計の支援、職務の切り出し、労働者側への訓練機会との接続、高齢求職者のようなフルタイム勤務を前提としない人の労働時間や待遇の調整を含む高度な支援が求められる。紹介件数と就職件数の比較では、“質”は高まっている可能性があるが、従来の人員配置と業務設計のままで、地域企業が求める人材紹介機能の回復は難しいだろう。

ハローワーク改革の方向性

今後のハローワークに求められるのは、「紹介件数を元に戻す」ことだけではないことは言うまでもない。外部労働市場が拡大し、企業と求職者の接点が多様化した以上、もはやハローワークが労働市場のマッチングの多くを担う時代に戻ることは難しい。むしろ、労働供給制約下において公共職業紹介だからこそ担うべき機能を再定義する必要がある。

第一に、ハローワークは労働市場の可視化機能を強化すべきである。ハローワークが保有する情報は今なお有用であり、現行の有効求人倍率だけではなく、職種別・地域別で紹介率、充足率、未紹介求人率、求人の滞留期間、就職後の定着状況、賃金・労働時間条件の改善状況など具体的な「この地域・この仕事の今の情報」を組み合わせ、地域労働市場の現在地を可視化することができる。本稿で見たとおり「求職者が集まらない」ことにハローワーク機能のボトルネックがあることから、こうした機能を持つことで求職者がよりよい仕事を探す際に不可欠の情報提供として求職者への訴求力にもなる。

第二に、ハローワークは求人側へのサービスを高度化できる。人手不足職種では、企業が従来の条件のまま求人票を出しても、求職者は集まらない。ハローワークは、単に求人票を受理するのではなく、求人条件、職務内容、労働時間、賃金、未経験者受け入れ、訓練機会、職場環境などを点検し、「紹介可能な求人」へと改善する支援を行うことができる。これは、求職者を企業に合わせるだけでなく、企業の仕事を地域の求職者に合わせて再設計する機能である。

第三に、ハローワークは求職者側へのサービスを高度化できる。本稿で見てきたとおり、ハローワークは求職者が多い分野ほど存在感を発揮している。逆に言えば、希望する求職者がいなければ紹介することはできていない。これは当たり前のことのようではあるが、当たり前で仕方がないと言っていては地域の紹介無し求人が減ることはない。いかに企業の需要が高い分野に関心がある求職者を増やしていくのか。そのためには、職業訓練との連携が欠かせない。どのような資格・技能を身につければ、今希望する職よりも収入が高い職で働けるのか、そのためにはどのような訓練をどんな順番で受講する必要があるのか。こういった紹介と訓練を融合した情報を、個人のこれまで蓄積したスキルや強みも考慮しながら提供していく。これこそが、求職者がいない分野では機能を果たすことが難しい、という現場における最大の壁を解消するために求められている(※15)。

第四に、ハローワークはセーフティネット機能をより明確に位置づけることができる。民間サービスでは支援されにくい求職者、例えば長期失業者、高齢者、障がいを持つ方、育児・介護などの事情で働く時間や場所に制約がある人、低所得・不安定就業者に対する支援は、公共部門の役割が求められている。就職件数だけをKPIにすると、支援困難層への丁寧な伴走は評価されにくい。しかし「丁寧な伴走をしている」というだけではその価値は見えにくいことも事実である。したがって、その機能を評価する上で、所得の伸び、就業継続の状況、訓練への参加、社会保障との接続など、ハローワークのセーフティネットとしての成果指標を別途設けるべきである。

ハローワークだからこそ担いうる「使命」

これまでのハローワークの「求人を受理し、求職者を紹介し、企業への就職を支える」というモデルはその機能を低下させている。2013年から2025年にかけて、有効求人数は増えているにもかかわらず、紹介件数は6割近く減り、就職件数も4割以上減少した。2025年時点で、有効求人数に対する紹介件数の割合はわずかに11.9%にすぎず、求人の大半は紹介にすら至っていない。

この状況を放置した際の最大のリスクは、ハローワークが「求職者の最後のセーフティネット」としての機能だけに縮小し、地域の労働市場を繋ぎ直すインフラとしての力を失うこと、つまり労働市場政策的機能が後景に退き福祉政策的機関としての性格が強くなることである。それは結局のところ、労働者によりよい求人を斡旋していく機能を公共職業紹介が低下させることを意味する。完全雇用下の社会において、ハローワークは求職者の最後の砦であるとともに、地域で人材を求める企業にとっても最後に頼れる先になることを求められることは言うまでもない。

必要なのは、ハローワークを過去の成功モデルに戻すことではない。ハローワークを、失業対策の窓口から、労働供給制約社会における地域労働市場のインフラへと再定義することである。すなわち、求人内容自体を改善し、求職者を支え、地域の必要人材を可視化し、紹介と訓練を同時に行うことができる機能を持つ機関へ。民間人材サービスが担いづらいこうした領域を開拓し、日本の外部労働市場全体を先へ進めることができるのはハローワークだけである。
ハローワーク統計とその背景にある労働市場の動向は、その転換が先送りできない段階に来ていることを示している。

(※1)古屋星斗,2023,日本は「令和の転換点」を越えたか,リクルートワークス研究所「働く」の論点
(※2)月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料 令和6年1月25日
https://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2024/01kaigi.pdf
(※3)古屋星斗,2024,人手が不足するなか、なぜハローワークの紹介件数は減少を続けるのか,リクルートワークス研究所「働く」の論点
(※4)労働政策研究・研修機構, 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/shozai/html/a01.html (2026年5月29日閲覧)
(※5)厚生労働省,雇用動向調査。未就業者、転職入職者の計
(※6)2024年3月31日付朝刊1面「チャートは語る 人手不足映せぬ政府統計」
(※7)有効求職者が就職したことを確認した件数をいう
(※8)パートタイム含む一般労働者
(※9)パートタイム含む一般労働者
(※10)以降の分析の数値は、職種別の分析を行うため、統計のあるパートタイム含む常用労働者を用いている
(※11)紹介件数の統計があるパートタイム含む常用労働者の統計
(※12)以降の分析において、2013年を比較の基準年としているのは2012年が有効求人倍率が極めて低く1倍を大きく割り込んでおり、労働市場の市況感が現在と著しく異なり、特に「就職件数」に対しての影響が大きいと考えられるため、比較の基準年として市況が正常化した2013年を基準とした分析を行うことでハローワークの変化を見ている
(※13)全国警備業協会,2023,警備業 高齢者の活躍に向けたガイドライン
(※14)パートタイム含む常用
(※15)筆者はこうした融合的機能を持つ場を「キャリアの窓口」と呼んできた(https://www.works-i.com/column/works04/detail076.html

古屋 星斗

2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。