人口動態と失業率の国際比較―日本の奇妙な人手不足は「日本だけ」か
日本の奇妙な人手不足
筆者は日本の奇妙な人手不足について指摘してきた。
「人口が減り、需要も冷え込むはずの社会で、なぜこれほど人手不足が深刻なのか」という問いに集約されるが、その答えとして検証が進んできたのは、人口動態の影響である。
高齢化の一層の進捗(具体的には人口のボリュームゾーン、日本においては“団塊の世代”の後期高齢者入りと並行して進む生産年齢人口の減少)が、労働供給量を押し下げ(※1)、一方で労働需要を押し上げている。労働需要については特に医療・介護・物流等対人サービスといったいわばエッセンシャルワーク領域への需要が高齢者のほうが高いことが指摘(※2)されている。エッセンシャルワーク職種は労働生産性が高まりづらい構造があるため、高齢化の進捗が労働生産性を押し下げる効果が観測されており、同じ生産量を確保するためにより多くの働き手を必要とする構造が顕在化したことが、人口減少だが高齢人口は増加する局面における労働需要増という現象の背景に存在している(※3)。
もちろん、人口動態がその国の経済に対して与える影響については、「人口ボーナス」や「人口オーナス」といった表現で指摘されてきた。今回は、人口動態と社会構造の関係について、労働市場との関係に焦点を合わせて仮説を提示する。具体的には、生産年齢人口(15~64歳)割合と失業率の関係に見られる関係であり、諸国の1990年以降の統計(※4)を整理することで見ていく。
逆U字カーブ
まずは全体状況を見るため、先進国における状況を整理する。分析には、労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較」を用いる。こちらに掲載のあった国別統計で、OECD加盟国(※5)の結果を用いる。国名や掲載年次については注釈のとおりである。マッピングしたものが図表1である。
なお、本稿の図表は国別年次データを単純にプロットし、形状把握のために近似曲線を当てたものである。景気循環や金融危機等の経済状況、制度・産業構造、移民や女性就業などの国別要因を統制した分析ではないため、ここで示した曲線は因果を主張するものではない。むしろ本稿の狙いは、人口構造(生産年齢人口比率・老年人口比率)の変化局面によって、失業率の「出方」そのものが変わり得るのではないか、という仮説を提示する点にある。
図表1についても、景況感などの外的要因や各国独自の事情などを勘案せず、各国の年次別結果をプロットしたものであり、あくまで全体像をつかむために示したものと考えていただきたいが、緩やかな逆U字の二次式の近似曲線が形成されていることがわかる。これは、生産年齢人口比率が高い(70%以上など)場合に失業率が低い傾向があり、生産年齢人口比率が低い(63%以下など)場合にも失業率が低い傾向があることを示している。他方で、生産年齢人口比率が65%前後をピークとして失業率が高い、そういった逆U字カーブ構造である。
もちろん、この図表はあくまで全体像を示したものであり、例えば「生産年齢人口比率が低い」という社会には、「高齢者が多い」という社会と、「子どもが多い」という社会の両方が含まれる。より精緻に見るために、人口動態の状況に応じたグループごとに傾向を見ることにしよう。
図表1 失業率と生産年齢人口比率(先進国12か国/1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
カテゴリ別の「U字カーブ」
ここでは「ワークブック国際労働比較」に掲載のある国別統計を、老年人口(65歳以上)比率の水準によって3つのカテゴリに分けた。区分は国の属性を固定的に規定するものではなく、高齢化の進行度合いが異なる国を比較しやすくするための整理である。議論の中心はカテゴリの境界の特定ではなく、老年人口比率(および生産年齢人口比率)の変化に伴う関係の変化である点を注記しておく。
以降の分析では、老年人口比率の違いによる傾向差を見るために(特に人口動態が若年型の局面を補う目的で)、OECD非加盟国・地域の統計も用いた。
第一に、老年人口比率が高い社会、2020年時点で老年人口比率が20%以上の国である。具体的には、イタリア、スウェーデン、ドイツ、フランス、日本である。カテゴリ①として図表2に掲示した。
こちらも先進国全体(図表1)と同様、緩やかな逆U字カーブの二次式の近似曲線が見られる。
第二に、老年人口比率が中間の社会、2020年時点で同10%以上20%未満の国・地域である。具体的には、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、シンガポール、タイ、ニュージーランド、ロシア、中国、韓国、香港である。カテゴリ②として図表3に掲示した。
こちらでは、逆U字の右半分のような二次式の近似曲線となっている。むしろほぼ一次式的な関係と見ることができ、生産年齢人口比率65%付近に向けた上昇傾向が見られる。
第三に、老年人口比率が低い社会、2020年時点で同10%未満の国・地域である。具体的には、インドネシア、フィリピン、ブラジル、マレーシア、メキシコである。カテゴリ③として図表4に掲示した。カテゴリ①②とは全く異なる構造になっており、緩やかな正U字の二次式の近似曲線となっている。
図表2 カテゴリ①失業率と生産年齢人口比率(老年人口比率高い国・地域/1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
図表3 カテゴリ②失業率と生産年齢人口比率(老年人口比率中程度の国・地域/1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
図表4 カテゴリ③失業率と生産年齢人口比率(老年人口比率が低い国・地域/1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
「二重のブランコ」
カテゴリ①②③の結果を見ると、「二重のブランコ」のような人口動態による変化のプロセスが見える。
老年人口比率は経済発展とともに上昇していくと考えられるため、多くの国において老年人口比率が低い(一つの基準として65歳以上人口比率10%未満)段階でまずはカテゴリ③のような動きが生じると考えられる。
これはつまり、子どもが多く高齢者が少ない(=生産年齢人口比率が低い)経済発展前の社会において、生産力の低さから失業率が高くなりやすく、その後子どもが青年期を迎え労働力になっていく過程において適正な生産年齢人口比率となり「人口ボーナス」による経済発展を達成、産業が拡大し労働力が活用される。これにより失業率が抑制される。これがさらに進み生産年齢人口比率がさらに高まると、どこかの時点で労働供給量が過剰となり、失業率が高まる。これが正のU字カーブ、つまりブランコの1スイング目である。
ただし、このブランコは戻ってくる(生産年齢人口比率が下がっていく)プロセスにおいては逆U字構造となる。生産年齢人口比率が上がりきった際の過剰労働供給によって失業率が高まるが、老年人口が増加し生産年齢人口比率が下がっていく過程で総需要の伸び悩み(需要制約)が生じ失業率がさらに押し上げられる可能性がある。いわゆる「人口オーナス」である。しかし、老年人口比率が一定水準を超え(おおむね20%台半ばと考えられる)、労働集約型の職種(エッセンシャルワーク等の現業職)において労働需要が高まることによって、再び失業率が下がり始める。これが逆U字カーブで現れている、ブランコの2スイング目である。
生産年齢人口比率が上がり、そして下がっていくという過程で起こる、労働市場における2度のスイング。そのスイングは本稿のサンプルではともに生産年齢人口比率65%前後をピークとしていることも興味深い。そして、老年人口比率が9-13%で2度目のスイング(生産年齢人口比率の低下局面)に入っている。この生産年齢人口比率低下局面開始時の失業率がその後の逆U字の始点となっている。
図表5 「二重のブランコ」の概念図
出所:Gemini3 PRO(コーポレートモード)により筆者作成
国別で見る
人口動態が労働市場、具体的には失業率の構造に影響を与えているのではないか、という一つの仮説について紹介してきた。最後に国・地域別で状況を見ていこう。
- フランス/日本(カテゴリ①)図表6・7
老年人口比率が高いフランスは生産年齢人口比率64%前後をピークとしたブランコの2度目のスイングのただ中にある。図表中1990年が生産年齢人口比率のピーク(65.9%)であり、その後は一貫して低下している。
日本も同様の構造にあり、生産年齢人口比率は1990年の69.8%が図表中ピークである。
- イギリス/アメリカ(カテゴリ②)図表8・9
中程度の老年人口比率であるイギリスは、2005年が生産年齢人口比率のピークであり、1度目のスイングと2度目のスイングの双方がこの図に出ている。生産年齢人口比率65%前後であった1990年(65.0%)と2013年(64.9%)を比較すると、失業率は6.9%と7.5%でこの2点が失業率のおおむね頂点にあたる。
同様の老年人口比率にあるアメリカは、本稿の提示した構造に当てはまらない例である。生産年齢人口比率は2010年(67.5%)にピークを迎えており、老年人口比率は2023年に17.4%と着実に高齢化社会を迎えているが、現役世代を構成する移民の多さなどの影響があり、生産年齢人口比率はこの30年間ほとんど変化がなく、失業率との関係も曖昧である。
- マレーシア/インドネシア(カテゴリ③)図表10・11
老年人口比率が低いマレーシアは生産年齢人口比率が図中最新の2023年が最高値(69.8%)であり、ブランコの1度目のスイングがまさに終わろうとしているところであると考えられる。
さらに老年人口比率が低い、“若い国”であるインドネシアは人口ボーナス期のただ中にあると考えられ、1度目のスイングの「底」に向かう途上にある。生産年齢人口比率が低かった1990年に開発独裁モデルによって低失業率を実現していたために二次式の近似曲線は逆U字になっているが、全体としては生産年齢人口比率が上がるにつれて失業率が低下する傾向が見られている。
図表6 フランス 失業率と生産年齢人口比率(1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
図表7 日本 失業率と生産年齢人口比率(1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
図表8 イギリス 失業率と生産年齢人口比率(1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
図表9 アメリカ 失業率と生産年齢人口比率(1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
図表10 マレーシア 失業率と生産年齢人口比率(1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
図表11 インドネシア 失業率と生産年齢人口比率(1990-2023年)
出典:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋作成
「超高齢化社会の労働市場」という未接触の問題
本稿の分析はあくまで一つの仮説として、人口動態が労働市場にどのような影響を与えるのか、という点について生産年齢人口比率と失業率の関係を整理した。
なお、総括として図表12に失業率と生産年齢人口比率の変化で見た値を国別でプロットした(※6)。ここでは、カテゴリ①の国、つまり老年人口比率が高まった社会において、生産年齢人口比率が低下することが失業率の低下と関係している傾向が見られる(二次式の近似曲線のほうが決定係数が高いが、完全雇用の状態に近づき、失業率が下方硬直しつつあることを示している可能性がある)。
老年人口比率の高まりは世界の全ての国に共通する傾向であり、特に先進国においては今後「高齢者の高齢化」(=65歳以上人口のなかでも75歳以上、85歳以上の人口増加とそれによる65歳以上人口の平均年齢の向上)という問題に直面する。日本はそれに先駆け(※7)、85歳以上人口が全体の約10%を占める社会が15年後(2040年代前半)に迫っており(※8)、人類がこれまで生きたことがない年齢構成の社会を営むこととなる。
その社会がどのような課題に接し、どのように備えるのか。高齢化が進むと、「ひととしごと」に何が起こるのか。超高齢化は「失業の構造」自体を変えつつあるのかもしれない。日本の労働市場が相対している奇妙な人手不足が私たちに与える示唆は決して小さくないのだ。
図表12 失業率と生産年齢人口比率の変化(1990-2000年、2000-2010年、2010-2020年)
出所:労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較をもとに古屋集計
(※1)就業者ベースではなく、時間(労働投入量)ベースで、労働力の高齢化は押し下げ要因である。それは、高齢就業者の平均労働時間が短いためである。詳しくは古屋,2024, 失業率、求人倍率、働き手不足……その「1人」は、本当に同じ「1人」か【https://www.works-i.com/column/hataraku-ronten/detail033.html】
(※2)日本医師会,JMAPなど
(※3)筆者は「ハイパー・ボーモル効果」と呼称している。詳しくはリクルートワークス研究所,2024,「報告書 令和の転換点」
(※4)統計は労働政策研究・研修機構,データブック国際労働比較より。2007~2025年版の結果をもとに、刊行年によって過去の数値が異なっている場合には、最新年の結果を用いた
(※5)アメリカ、イギリス、イタリア、オーストラリア、カナダ、スウェーデン、ドイツ、ニュージーランド、フランス、メキシコ、日本、韓国。掲載年次は、1990年、2000年、2005年、2010年、2013年、2014年、2015年、2019年、2020年、2021年、2022年、2023年。メキシコのみ、2010年以降の結果
(※6)対象国について、1990年から2000年、2000年から2010年、2010年から2020年の変化を算出しその値についてプロットしたもの。2020年から2023年は経過年数が異なるため除外した
(※7)ただし、65歳人口比率は2040年頃に韓国に抜かれる可能性がある
(※8)国立社会保障・人口問題研究所,日本の将来推計人口 令和5年推計(出生中位・死亡中位推計)より
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。
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