高校卒就職の最新状況―経年変化の分析から

主任研究員 古屋 星斗

2025年12月01日

高校卒の就職市場の最新動向を整理する。最新の求人倍率は過去最高水準にあり、2026年卒の7月時点での求人倍率は3.69倍であり、昨年度(3.70倍)と同水準で急速な上昇には歯止めがかかったものの高止まりの状況にある(図表1)。もともと高校卒就職市場の求人倍率の振れ幅は大きく、1980年代半ばは1倍前後だったが、バブル期の1992年卒に3.08倍に達した。以降は長い調整局面に入り、2003年卒で0.50倍の最低水準を経て、人手不足感の高まりと若年人口の縮小が重なり上昇基調に転じ、2024年卒3.52倍、2025年卒3.70倍、2026年卒3.69倍と高水準で推移している。

図表1 高校卒の求人倍率の推移 高校卒の求人倍率の推移(折れ線グラフ)以下出典:厚生労働省,「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」取りまとめ 各年結果より

図表2の求人数・求職者数の推移を見ると、1992年卒の求人数152.4万件に対し求職者数49.5万人という需給逼迫のピークから、2003年卒では求人数わずか11.5万件、求職者数23.1万人であった。求人数はこの約10年で10分の1以下となった計算となる。リーマンショック期も含め求人数は長く10万-20万人台で推移した。2015年卒頃から求人数が増加し始め、2019年卒で42.6万人、2020年卒で44.3万人、コロナ禍を経た2021年卒は33.5万人となったが、その後再び増加に転じ直近2026年卒では46.6万人となった。なおこの46.6万人という求人数は1996年卒以降の最高値である。

図表2 高校卒の求人数、求職者数の推移高校卒の求人数、求職者数の推移(棒グラフ)

なお、求人数を横軸、求人倍率を縦軸において1980年代以降の両者の関係を散布図で示したものが図表3である。ここでも、1980~90年代の緩やかな右肩上がりの相関関係(赤枠)と2010年代以降の急激な右肩上がりの相関関係(緑枠)とで、構造が異なっていることが確認できる。高校卒業者が半減(1992年卒180.7万人、2024年卒91.8万人)(※1)するなか、特に高校卒就職希望者は5分の1程度の12万人台へと減少しており、その結果として求人倍率の弾力性が高くなっている。

図表3 高校卒の求人数(横軸、人)と求人倍率(縦軸、倍)高校卒の求人数(横軸、人)と求人倍率(縦軸、倍)

求人が最も増加したのは金融・保険業

求人数について産業別の変化(図表4)はどうか。2026年卒の求人数が最も多いのは製造業であり14.6万人、次いで建設業8.7万人である。この2業種で全求人の50.0%を占めており、この構造自体は長く変わらない。また、求人数の変化率のコロナショック前との比較(2026年卒/2019年卒)では、合計は+9.6%と増加している。内訳では、最も増加率が高いのは金融・保険(+63.8%)であり、ほか電気・ガス・熱供給・水道(+57.1%)、建設(+43.9%)などで伸びが大きい。金融・保険は求人数自体は少数であるが、一部地方銀行などで高校卒採用を再開したり、高校卒者も対象とする新たなコースを設けたりしたことが影響していると考えられる。一方、生活関連サービス・娯楽(-25.1%)、公務・その他(-19.7%)、医療・福祉(-10.9%)は減少している。医療・福祉は求人数も多く、働き手不足も激しく、減少幅が大きいことに意外な感もある。資格が必要な職種が多く、高校卒者入職後の育成コストの負担が現場の逼迫により難しくなっていることなどが背景にある可能性がある。
業種間の変化率の差異は大きく、業種ごとに高校卒採用へのスタンスが分かれる状況が示唆される。

図表4 高校卒の業種別求人数と変化率(2026年卒/2019年卒)
高校卒の業種別求人数と変化率(2026年卒/2019年卒)
さらに企業規模別(図表5)を見ると、29人以下(+20.1%)、30~99人(+11.4%)、300~499人(+9.5%)など小規模・中小企業主体に伸びが見られる一方、1000人以上は-7.4%と減少している。高校卒採用においては、大手企業よりも、地域・中小企業の採用が厚みを増しているのが足下の特徴と言える。地域の若手採用需要の逼迫から、「大学卒・専門卒だけではなく高校卒も」という新たな広がりが生じていることが示唆される。

図表5 高校卒の企業規模別 求人数の変化率(2026年卒/2019年卒)
高校卒の企業規模別 求人数の変化率(2026年卒/2019年卒)
総じて、高校卒就職では「求人総数は増加しつつも、業種・規模でのスタンスの差異が進行」していると整理できる。その上で、地域の若手人材ニーズの高まり、新たに高校卒の採用を始めたい企業の存在のなかで、高校卒就職希望者数は徐々に減少しており求人が容易に逼迫してしまう状況になっていることに注意が必要である。

上記のような求人・求職状況を踏まえると、高校卒就職市場の今後の焦点は、(1)建設やインフラ等の地域需要が強い業種と学校との密接な連携、(2)地域・中小企業での職場定着を支える育成設計、(3)現代の業種別求人や初任給等待遇動向など、変動の大きい外部環境に対応した高校段階のキャリア教育のアップデートであると指摘できよう。

(※1)文部科学省,学校基本調査(高等学校卒業者、中等学校等卒業者は除く) 

古屋 星斗

2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。