ローカルから始まる。

上田市民エネルギー 理事長 藤川まゆみ

2026年04月14日

気候変動対策とまちづくり──。
一見関係が遠そうな課題を一緒に解決しながら、市民発で街の将来を考えていこうとするNPO法人「上田市民エネルギー」。

移住者だった1人の女性、理事長の藤川まゆみ氏が1本の映画に出合ったことで、地域の仲間や行政を巻き込み、大きなうねりを作ってきた。どの地域も抱える人口減少と街の空洞化、厳しい財政と気候変動問題は、どのように結びついたのだろうか。
聞き手・構成=浜田敬子氏

浜田:藤川さんが代表を務めるNPO法人「上田市民エネルギー」は、市民参加の形で自然エネルギーを増やしていく仕組みです。藤川さんが自然エネルギーに関心を持たれたのは、1本の映画がきっかけだったんですよね。

藤川:『六ヶ所村ラプソディー』という映画です。2007年9月にあの映画を見た日は、人生が変わるほどの大きな転機でした。こんなことが自分に起きると思わないほど揺さぶられました。当時は日本の電力の3割程度を原発で発電していたのですが、映画を見て、「あなたの使っている電気の先ではこういうことが起きている。あなたはどう考えますか」って問われた気がして。もうガクガクするぐらい「私に言われてもちょっと困る」って思ったんです。

監督のトークショーもあったのですが、すごく重いテーマなのに明るいんですね。帰り道に「ああ、でもこれかもしれない」って。意見が違ってもやり取りできるコミュニケーションの力が社会を変えるのかなって思いました。

浜田:映画の直後に市民出資型で屋根に太陽光パネルを取り付ける「相乗りくん」のアイデアが生まれたんですか。

藤川:それは311(東日本大震災)の後ですね。「この映画を上田の人たちと見たい」と上映会をしたら、いろいろな縁が生まれました。そのなかに上田の地域通貨のグループがあって、「相乗りくん」を始めるときも応援してもらったんです。上田で市民活動が盛んになったのは、ここ10〜15年ぐらいのことだと思います。今では市民が主催のイベントもすごく多くて、秋のシーズンには1日に3つとか重なります。分野が違ってもお互いの活動が混ざりやすいのも特徴です。

浜田:「相乗りくん」のアイデアが出てきた経緯について教えてください。

藤川:上映会後の市民活動でネットワークが広がったのは楽しかったのですが、その先の解決策として具体的なアクションをしていなかったと、311で気付いたんです。自分たちでエネルギーを作らないと根本的な解決にはならない。エネルギーに詳しい仲間に「自然エネルギーが大事だと思うんだよね」って話すと、「あんな面倒くさいもの本気?」と覚悟を試されたりしました。結果的にはビジネスの経験もない私だったから、やりたいという気持ちだけで始められたのかもしれません。

浜田:全国から誰でも出資できる市民出資型で、太陽光パネルを取り付けてくれる屋根オーナーとマッチングさせるというモデルは面白いですね。参加者はすぐに集まったんですか。

藤川:311後はそういう熱は高まっていたので、人はすぐ集まりました。最初の頃は「うちの屋根が役に立つんだったら」という人が多く、今では「電気代が少しでも安くなるなら」という問い合わせも増えてきました。電気代だけでなく、地球温暖化も気になるという気持ちが混在している人が多いと感じます。今までほとんど宣伝費を使わず、口コミで広がっています。最新の数字で、屋根が約80カ所、出資額は2億円を超えました。

浜田:NPOの活動は、相乗りくんの事業だけで持続可能なんですか。

藤川:相乗りくんが団体の活動の柱で、非営利事業として成り立つように設計しています。そのほかの活動は国や民間の補助金を活用したり、講演活動や会費、寄付などで収入を得ています。

意見が違ってもやり取りできるコミュニケーションが社会を変える

太陽光発電は脱炭素の主力関心がある潜在層は多い

浜田:最近は、原発再稼働の動きも加速するなかでメガソーラーの問題で反対運動が起きたりと、再エネに対しては一部には厳しい視線もあります。

藤川:実際、自然や景観を破壊しているメガソーラーは条例で規制しないといけないと思います。一方で「屋根の上ならいいよね」「本当はつけたいんだけど、お金がね」とか、関心がある潜在層はすごく多いと感じています。

既に、日本の太陽光発電は石炭火力よりも単価が安く、住宅でも企業でも太陽光パネルを設置したほうが経済的メリットがあります。自宅に太陽光発電を設置する人が増えることで市民の認識が変わり、社会の脱炭素の機運を高めると思っています。エネルギー費用を海外に流出させないで国内で循環させるためにも太陽光は経済政策でもあり、脱炭素の主力選手であることに変わりはない。適切な太陽光発電をもう少し増やせれば、あとは加速するのではと思います。

浜田:学校で断熱ワークショップという取り組みもやっていらっしゃいます。

藤川:2018年の猛暑のとき、うちの息子が「死にそうな教室で勉強してる」って言うのを聞いて。温暖化は待ったなし。新しいミッションをもらった気がして、まずは白馬高校で実施しました。生徒たちはスキーがやりたくて白馬高校に行ったのに、雪がなくなったらスキーできなくなりますから、危機感が大きかった。

天井板を外したり、内窓の枠作りは工務店にお願いするんですが、屋根裏にグラスウールの断熱材を敷き詰めたり、窓の枠を組み立ててはめたりする作業は生徒がやります。白馬高校ではその費用も高校生たちが寄付で集めていました。全国から「気候変動を止めたい」という人たちが寄付してくださって。村のなかでもスキー場やホテル業の人たちが寄付してくださった。当時は1教室で50万~100万円程度でできたのですが、今は資材が高騰しているのでもっとかかりますね。

そのうち県知事が「県のプロジェクトに」と言ってくれて、翌年から予算がつきました。このプロジェクトには反対の声が起こりにくいんです。断熱性能が高まるからエネルギー代が減るし、子どもたちの環境がよくなる。何よりこの体験の教育的な効果が大きいんです。

別所線増便の初日に手を振るイベントの様子や相乗りくんの第1号が発電開始の様子と白馬高校でのワークショップ2025年3月15日、別所線増便の初日に手を振るイベントを開催(写真左)。2012年3月、相乗りくんの第1号が発電を開始(写真左下)。白馬高校でのワークショップ。生徒たちが天井に断熱材を入れるなど、作業に参加した(写真右下)。

まちのコンパクト化が生きる道に

浜田:公共交通機関の問題とか街づくりにもかかわっていらっしゃいます。

藤川:上田市の総合計画を作る委員を務めていたんですが、「いちばん上位の計画なのに、しっくりこないな」みたいな気持ちがあって。千葉商科大学教授の田中信一郎さんから「地域のデータを集めよう」というアドバイスを受けて、人口の推移や中心市街地を歩く人数など上田市にまつわるデータを100以上集めたんです。すると「上田は持続不可能だ」とわかりました。人口は減るわ、高齢化するわ、公共施設はボロボロ、スプロール化※は止まらずまちなかは空き家が増えてスポンジ化していく。

上田市から市外にガソリン代や電気代などでかなりの金額が逃げていて、市内で発電することでそのうちの1割でも2割でも地域に残せれば、地域にお金が回せます。上田市は車社会で、自家用車を1台以上持っている家庭が多いのですが、公共交通の路線周辺に集まって住めばバスや鉄道を利用しやすい。車を手放しても生活ができるまちになれば、車のコストが節約できる。だから、まちをコンパクトにして公共交通が便利なまちにすれば暮らしにも経済にもエネルギー効率にもいい。それが上田の生き残る道だとプレゼンの準備を始めたら、市にはまだ道路を増やす計画があり、郊外の農地を住宅地に開発する計画もあったんです。(※都市の中心部から郊外に向けて、計画性なく市街地開発が進むこと。)

浜田:なぜそんなことが起きるんですか。市役所の人はデータも知っていますよね。

藤川:担当課は肌で課題を感じていますが、部署が縦割りで分断されていたり、住民の反対の声が壁になったりして、人口減少時代に合った政策に転換することが難しい。

私たちは市民こそが必要な施策の背中を押そうと、地域のことを考える「上田リバース会議」というものを開催していますが、そこで学んだ人は変わります。それでも2021年に始めた頃は、「公共交通なんて無理無理、不便だし」って、そんな意見ばかり。でも第3回の会で「交通まちづくり」であり、公共交通をみんなが使うようにすると、路線沿いに住むようになるし、歩くようになって健康になり医療費も減るし、地価が上がって税収も増えるし何よりまちの魅力が増える──1つやるだけで、副次的効果が多いのは公共交通だということを学んだら、「そうだったのか」って共感が高まり、前回とはまったく違う空気になったんです。

上田には市民が大好きな上田電鉄別所線が走っていて、この地域は環境省の「脱炭素先行地域」にも選ばれました。別所線の周辺の住宅や建物の上に太陽光パネルをつけ、その電気で別所線を動かしてゼロカーボンにするというもの。まちづくりのためのゼロカーボンです。脱炭素先行地域に選ばれたのは、リバース会議がきっかけで、市民活動で「交通まちづくり」への共感が高まっていることが評価されたそうです。

そうするうちに別所線が増便したんです。平日56便から78便に。乗る人が毎月大体6〜7%増えているそうです。その分車を使っている人が減っているわけです。私たちのNPOでは乗ってもらうための調査や実証実験もしていて、その1つが、5500円分の回数券を期間限定で1000円で販売する別所線エコチケです。それを買ったらみんな乗るのか。乗った人は料金がもとに戻っても乗り続けるのか。その検証をしようとしています。その先に目指すのは沿線への居住誘導ですが、それは時間もかかります。

浜田:これまでの脱炭素とはアプローチが違うのが面白いですね。街づくりと脱炭素を組み合わせてやるほうが多様な課題が解決できそうです。

藤川:別所線に乗り始めたら、家の建て替えのときに沿線に来ようかなとなると思うんです。富山市では「家をまちなかに新築するのだったら補助を出す」ようなことをやっています。強制ではなく選択肢として選びやすいようにしていく誘導ですよね。

上田でもまちなかに断熱が効いている集合住宅を作って、光熱費も安くなって快適で、スーパーにも市役所にも病院にも歩いていけて、保育園もあるという住みたくなるモデルができればと思っています。あくまでも市民が主体で、内発的にまちづくりをしていくことが大事で、海外にも国内にもそういったモデルはたくさんあります。

立場の垣根を越えて市民と行政が学び合う街へ


浜田:上田リバース会議には中心のメンバーがいるんですか。

藤川:オンラインも入れると100人ぐらいが入れ替わり立ち替わり参加します。主催は上田市民エネルギーのほか、「上田ビジョン研究会」という有志の任意団体なんですが、そのメンバーには造り酒屋とか広告のデザイン会社の人、市の職員や福祉のNPOの職員もいます。多様な人たちなので意見も違うのですが、喧嘩!?というくらいの議論ができる関係ができています。市民と行政が一緒にまちづくりをするために、行政職員と地域のキーパーソンたちが集まって学ぶことがすごく大事だと思っています。

浜田:今後はどういう形で街づくりを進めていきたいですか。

藤川:市民の声を聞くだけでなく、行政に要望するだけでもない、立場の垣根を越えて市民と行政がともに学び、議論し、強みを出し合って、持続可能なまちづくりも脱炭素も加速させる「仕組み」が作れるはずと模索中です。まちづくりも脱炭素も人類始まって以来の大仕事。スクラムを組まないと解決しません。時間はあまりない。きっとこの共同作業自体がみんなをエンパワーメントし、地域をよい方向に変えていく原動力になると思います。


まちづくりも脱酸素も人類初の大仕事。スクラムを組まないと解決できない


Photo=伊藤 圭、藤川氏提供

上田市民エネルギー 理事長 藤川まゆみ 氏の写真

Profile

2005年大阪から上田市に移住
2007年映画『六ヶ所村ラプソディー』を見て自然エネルギーに興味を持つ
2011年東日本大震災をきっかけに市民出資型太陽光発電「相乗りくん」事業を開始
2020年「教室断熱ワークショップ」を開始
2021年「上田リバース会議」を企画運営

プロフィール

浜田敬子氏

Hamada Keiko
1989年朝日新聞社に入社。2014年からAERA編集長。2017年に退社し、BusinessInsiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年よりフリーランスのジャーナリスト。2022年8月から2025年10月まで『Works』編集長。著書に『男性中心企業の終焉』(文春新書)など。