女性リーダーからの手紙女性の活躍を「見える化」する

人事部御中

2017年4月にトッパンフォームズの執行役員に就任しました。当社の女性管理職は増え、私の入社当時とは隔世の感があります。この機会に私自身の経験を振り返り、約15年間の営業アシスタント時代を経て当社のダイバーシティ推進責任者として仕事をしてきた立場から、女性活躍推進に大切なことは何かをお伝えしたいと思います。
入社した1989年当時、社内で女性の仕事は事務が中心でした。ルーティン業務が多く、モチベーションを保つ難しさを感じましたが、自ら仕事を見つけて前向きに働くよう心がけたつもりです。しかし、与えられた職務領域のなかで仕事の範囲を広げていくには限界があり、行き詰まりを感じました。転機は入社14年目。キャリアの発展につなげたいと時間を必死でやりくりしてスクールに通い、キャリアカウンセラーの資格を取りました。そのうえで人事部に「人材開発の分野で会社に貢献したい」と希望を伝えたところ、時間は多少かかりましたが、総務本部に異動させてもらえ、社員教育に携わることになったのです。
総務本部で会社全体の状況を知って強く感じたのは、活躍する女性が増えれば各部署の生産性がより向上するということ。会社に提言したところ、女性活躍推進の部署が新設され、責任者に任命されました。これらの仕事に力を注いできたことが今につながっています。私のキャリアはやりたいことを自ら発信することで開かれましたが、すべての女性が私と同じように行動できるとは限りません。女性が自ら強く働きかけなくても、普通に一生懸命仕事をすれば管理職への道が開ける。そんな環境を作り、女性管理職を男性と変わらず一般的にしたいと願って仕事に取り組んできました。


女性活躍推進にあたって最も力点を置いたのは、女性の活躍の「見える化」。女性管理職の数を増やすことです。女性が管理職を希望しないのは多くの場合、身近にロールモデルがなく、「イメージできないから」。私もそうでしたし、「管理職は特別なもの」と考えている女性も周囲に数多くいました。管理職に登用される女性を増やし、女性管理職を身近な存在にすることで、女性社員の管理職に対する心のハードルを下げようと考えたのです。
そのために、特に力を注いだのは教育です。当時、当社で女性が責任の重い仕事に就くことは少なく、管理職に必要な経験や知識をOJTで得る機会に男女差がありました。その差を埋めるため、管理職に必要な知識や技術を学べる実践的な研修を実施したところ、昇進試験を受ける女性社員が増えました。管理職に必要な能力・スキルのレベルを知ることにより、「意外と自分にもできそう」と女性が自己肯定感を持つ効果もあったようです。
身近な女性の活躍に刺激を受けたのでしょう。育児など家庭の事情で昇進に積極的でなかった女性たちにも意欲の向上が見られるようになり、最近では育児中の女性管理職もいます。プライベートの事情と両立しやすい環境を作るために、当社では時短勤務制度、在宅勤務制度など制度の整備も進めてきました。一方で、社員自身が「育児との両立のために家族の協力体制を整える」といった工夫をする姿も見られて頼もしい限りです。制度によるサポートも大切ですが、先回りし過ぎる必要はありません。顕在化した課題に丁寧に向き合い、解決に必要なことをその都度制度化していけばよいと考えています。
最後に、社内の女性活躍推進に取り組むなかで痛感したのは、一社だけで頑張っても女性の活躍は加速しないということです。たとえば、育児と仕事の両立のために家族の協力体制を整えるにしても、パートナーの職場に女性活躍への理解がなければ、成立しづらいものです。そこで、近年は近隣企業と女性活躍推進のためのネットワーク構築に力を注いでいます。他社とも協力して女性のキャリアをめぐる環境を変え、女性が遠慮なく活躍できる社会を作っていけたらと思っています。

Text=泉彩子 Photo=刑部友康

寺上美智代氏
トッパンフォームズ 執行役員/総務本部長兼ダイバーシティ推進部長
Terakami Michiyo 1989年、営業アシスタントとしてトッパンフォームズ入社。2004年より総務本部。ES 推進部長、総務部長などを経て2017年4月より現職。