女性リーダーからの手紙変革には大胆な意思決定も必要

人事部御中

企業で活躍する女性リーダーを増やすために大切なことは何か。私自身の経験から感じていることをお伝えしたく、お便りさせていただきました。
まず、私が会社に感謝しているのは、「チャレンジングな登用」によって挑戦の機会をくださり、キャリアを後押ししてくれたことです。初の女性MR(医薬情報担当者)として大宮支店に人社し、人社6年目に係長として本社に異動、入社9年目には課長として責任を持って仕事をする機会をいただきました。その後も常に白分の能力をはるかに超えた八-ドルの高い仕事に挑戦する機会を与えられ、その期待に応えようと努力することで少しずつ成長してこられたと感じています。
大塚製薬は1980年代から経営トップが男女問わず若手社員を管理職やリーダーに起用し、ダイバーシティの推進を始めていました。前例のない人材配置は、会社にとって大きな挑戦です。「潜在能力に期待して登用したものの、本当に活躍してくれるだろうか」という不安もあったでしょう。それにもかかわらず当社が若い社員を登用する一番の理由は、変革を恐れないイノベーター気質にあります。「異質なもののぶっかり合いが革新を生む」という考えが昔から受け継がれており、「『何かを生み出そう』という熱意を持った人材には、性別や経験を間わず、機会を与えよう」という風土が定着しているのです。そのため、思い切った人事を実現しやすいところがあるように思います。
人社6年目に係長として本社に異動になったときのこと。異例の抜擢に居心地の悪さを感じ、「私よりも経験や能力がある人がいる。不公平です」と当時の社長に直談判したことがあります。すると、「100%公平な人事はない。数%くらいの不公平はあってもいい」とお返事がありました。今思えばすごい言葉ですが、時には大胆な意思決定も行わなければ、若手や女性リーダーの登用によって会社の変革を進めることは難しいでしょう。人事の皆さまにはぜひ覚悟を決め、これはという人材を積極的に登用していただけたらと思います。
次に、あるべき姿と改善すべき点を指摘してくれる「厳しい上司」の存在もとても重要です。男性社会のなかで「女性は厳しいフィードバックをなかなかもらえない」という話を聞きます。間違いやできていないことを面と向かって教えてもらえないまま放置されてしまうことが多いのです。

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私の場合は、若手時代から上司に恵まれていたと思います。「白分自身のゴールは何か。現状とのギャップは何か。それを埋めるために何をしなければならないか」を考える機会を与えてもらえました。たとえば、医薬品事業の海外戦略を検討する部署の部長に30代半ばで就任したころのこと。白分自身のマネジメント能力が足りないうえに、部下の適性や能力をまったく考慮せず、白分と同じ価値観で仕事に取り組むことを求めてしまい、マネジメントに失敗したことがあります。その様子に上司がいち早く気づき、「お前が厳しすぎて、部下がついていっていないぞ」と厳しく指導してくれたおかげで何とか方向転換ができました。あのとき、上司が目を覚まさせてくれなければ、私には「管理職失格」の恪印が押されていたと思います。
また、女性が力を発揮するには「仲間」の存在も欠かせないと思います。当社では社長や人事部の呼びかけによる会がいろいろと開催されており、そのなかに「女性の会」という20名前後の勉強会がありました。最初は女性だけが集まることに違和感もあったのですが、自分たちが直面する仕事上の課題や具体的な今後のアクションについて何度も議論するなかで、悩みや厳しいことも言い合える仲間ができたことは大きな糧になりましたし、助け合おうという意識も生まれました。女性は、ともすれば職場ではマイノリティとして孤立しがち。経営トップが呼びかける仲間づくりの場を提供していくことが、女性がのびのびと力を発揮していくための大きな原勣力になると思います。


Text=泉彩子 Photo=刑部友康

宇佐美睦子
大塚製薬執行役員医薬品事業企画部長
Usami Chikako 熊本大学薬学部卒業。1990年大塚製薬入社。2011年6月、医薬品事業で女性初の執行役員に就任。