女性リーダーからの手紙計画性のあるアサインメントを

人事部御中

女性リーダーを育てるために配慮すべきことは何か。私の経験が役立てばと筆を執りました。
私が入社した1980年代初頭、髙島屋では既に多くの女性が売り場で活躍しており、女性取締役も誕生していましたが、大卒女性はまだ店舗のフロアに1〜2人でした。少数派だった大卒女性に積極的に機会を与え、育てようという考えが会社にあったのでしょう。同期の男性と比較すると、女性はスポットライトを浴びる機会が多かったように思います。
現在の当社では仕事の割り振りに性別による偏りは見られませんが、当時は、大卒女性は企画や開発など現場から少し離れた注目されやすい仕事を担当する傾向がありました。また、全館をあげての企画といった部署横断プロジェクトには必ず女性もアサインされ、意見を求められました。一方、同期の男性の多くは売り上げ管理や在庫管理といった現場の業績に密着した地道な仕事に日々取り組んでいました。
企業で働く女性がまだ少ない時代に活躍の場を与えられたことにはとても感謝しています。ただ、振り返ると、女性への「特別なアサインメント」には課題もありました。女性だからということで注目されることにやりにくさも感じましたし、経験した職務の差は管理職になった時点でのスキルの差にもつながったように思います。たとえば、私の場合、現場の数字を見る能力が欠けていたため、入社16年目にセールスマネジャーになったとき、財務知識のキャッチアップに苦労しました。女性に積極的に機会を与えようと注目されやすい仕事に配置する企業は多いと思いますが、現場での基幹業務も経験しないと管理職に必要な能力やスキルは身につきません。リーダーとして必要な能力をいかにして培うかを熟考した計画的なアサインメントが重要だと思います。


一方で、「特別なアサインメント」にはポジティブな側面も多くあったことをお伝えしておきたいです。なかでも私のキャリアに影響を与えたのは、入社5年目にフロアコーディネーターという職種に配置されたことです。ちょうど、部署横断プロジェクトで考えたアイデアをいざ売り場に提案すると「現実的でない」と一蹴され、行き詰まりを感じていた時期でした。フロアコーディネーターとは、フロア全体の営業展開プランを立て、複数の売り場をまたいで実現していく仕事で、当時は女性がよく登用されていました。自分よりも役職が高く、経験豊富な人たちの協力をとりつけるのは大変でしたが、企画を実現するときに誰にどう動いてもらうべきか、相手に論理的に物事を説明して納得してもらうにはどうすればいいかを学びました。
アイデアを考えるだけでなく、「チームのメンバーの協力を得て、物事を実現する」という経験ができたこと。これが、後にリーダーとしての仕事を務める礎になったと感じています。私のキャリアは異動が多く、入社27年目に執行役員に就任してからも広報、人事、海外店の社長兼店長など未経験の分野のマネジメントを次々と任されました。そのたびに新たな仲間と手をたずさえ、なんとか目的を達成できたのは、若手時代のこの経験があったからだと思います。
性別を問わず、リーダーを育てるには、単独プレーではなく、「リーダーシップを発揮して他者の力を借り、チームで目的を達成する経験」をできるだけ早く、たくさん積ませることが必要です。ただ、日本企業の多くはまだまだリーダーシップの発揮が求められる仕事やポジションを女性にあまり与えないのが現実です。女性を積極的に登用して男女の格差を調整することも、時として必要でしょう。それは女性をただ「優遇」することを意味しません。現場に密着した地道な仕事も同時に与えるというような、バランスを考慮したアサインメントが求められると思います。

Text=泉彩子 Photo=刑部友康

安田洋子氏
髙島屋 執行役員 日本橋店長
Yasuda Yoko 奈良女子大学文学部卒業。1983年髙島屋入社。2009年3月、執行役員企画本部広報・IR室長に就任。タカシマヤ・シンガポール取締役社長などを経て現職。