Global View From Policy World
第13回人工知能(AI)と日本の労働市場 企業の導入率・従業員の利用率に伸びしろ
AIを業務効率化のツールとして導入する事例が増えている。従業員の自主的な利用が職場で表立って解禁されたところもあるだろう。筆者の勤めるOECDでも、資料探しやプログラミングのコーディング作業に生成AIを利用する職員が特に目立つ。
日本は果たしてこの潮流に乗れているだろうか。2022年にOECDが実施した調査をもとに、2024年に労働政策研究・研修機構が日本の労働者2万2000人に対してAI利用に関する調査を実施した(※1)。金融・保険業でのAI利用率は皆3割超えのところ、日本では18%だった(上図参照)。製造業だと最低でも4人に1人という加盟国ばかりだったが、日本では約11人に1人だった。日本のデータはほかの加盟国よりも2年後のものであることを鑑みても、日本の労働者のAI利用率は低水準といえる。
背景にはAIによって業務効率や職場環境が改善したと実感する従業員が、日本では少ないことがあるというのが筆者の推察だ。日本以外のOECD加盟国では、仕事のパフォーマンスが向上したと回答した人たちの比率は、低下したと回答した人たちの比率よりも金融・保険業と製造業でともに70%ポイントほど高かった。対照的に日本ではこの差は両業種ともに50%ポイントほどだった。利用するメリットが実感しづらいために利用者から非利用者への波及効果が薄いのだろう。日本由来の教師データが限られており、AIのパフォーマンスが安定していない可能性もある。
とはいえ調査から、AIの効果は職場環境や従業員の属性によっても差があることもわかった。企業規模が大きいほどAI利用率が高い傾向がある一方で、中小企業勤務の従業員ほどAIによる業務効率向上の恩恵を感じやすい傾向が確認された。また、育児・介護中の従業員ほどAIの利用率が有意に高かった。厳密に因果関係を認定することは難しいが、AIのポジティブな効果を指し示す事例といえる。
総じて、日本はほかの先進国に比べてAIの利用で後れをとっており、AIを利用していたとしてもその恩恵を実感しづらいというのが現状だ。ただ、AIを利用することによるポジティブな効能も認められる。こうしたポジティブな事例を積み重ねつつ、AIデバイドを生み出さないような政策的配慮が求められる。
※掲載内容は個人の見解によるものです。
(※1)調査結果は、厚生労働省から労働市場エコノミストとしてOECDに当時出向していた戸田卓宏氏が執筆した。
プロフィール
荒木 恵氏
経済協力開発機構(OECD)にて労働政策・公衆衛生政策を担当するエコノミスト。パリ在住。一橋大学法学部卒業、ジュネーブ国際開発研究大学院(IHEID)国際経済学修士号取得。外資系投資銀行などを経て現職。
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