Global View From Policy World
第11回 ジョブ型で労働移動率は高まるか 企業間転職・企業内異動への示唆
いわゆる「ジョブ型」(職務給)が、新しい資本主義実現会議で政府が打ち出した「三位一体の労働市場改革の指針」に盛り込まれてから3年になる。ジョブ型の導入は労働移動にどのような影響を与えるのだろうか。
転職は日本ではまだ少ない。2024年時点のデータでは、日本において同一企業に10年以上勤めている就業者は全体の46%に及び、ドイツ、フランスといったジョブ型が主流の国々に比べると高い(上図参照)。男性に限ると、この比率は日本では53%とさらに高水準だ。日本のメンバーシップ型雇用と長期雇用が男性に偏っていることがその一因とみられる。このことから日本でジョブ型が広まると男性の転職は増えるとみられる。他方、女性だとこの比率は日本で39%で、これはドイツ、フランスと大差ない。日本ではそもそも女性の非正規雇用率が高く転職率も女性のほうが高い。ジョブ型の導入で転職がさらに量的に増えるかは不透明だ。日本の女性労働者が非正規雇用からジョブ型正規雇用にシフトするという、ある種楽観的な言説もあるようだが、現時点でのエビデンスは限られており、今後検証を要する。
人事異動については近年重要な判決が出ている。2024年4月26日の最高裁判所の判決で、使用者による配転の権限がいわゆるジョブ型の労働契約で制限され得ることが判例として確立した。一方、整理解雇の際に解雇回避努力義務として行われることの多い配置転換の打診が、ジョブ型の整理解雇にも必要なのかは明白にはならなかった。しかし、2024年9月20日東京地裁(いわゆる三菱UFJ銀行事件)によって、解雇による不利益を考慮すれば、ジョブ型の整理解雇であっても合理的な範囲で配置転換の打診を行うことが相当とする判決が出された。地裁判決ではあるが、ドイツ、フランスでも配置転換の打診が整理解雇の要件として裁判で争われることを鑑みれば、これは妥当な判断だろう。
総じて、ジョブ型の導入が労働移動を押し上げる効果は量的には現状では限定的で、整理解雇を「手軽」にするものでもない。しかし、経済成長と労働移動の量だけでなく質も密接に結び付いている(『第9回 人口の高齢化と「豊かさ」を両立するためには 人手不足の解消だけでは決定打にならない』参照)ことを鑑みれば、量的な労働力の確保に留まらず、専門人材の獲得と雇用の多様化に資するようなジョブ型人事が導入されるかが今後の焦点だ。
※掲載内容は個人の見解によるものです。
プロフィール
荒木 恵氏
経済協力開発機構(OECD)にて労働政策・公衆衛生政策を担当するエコノミスト。パリ在住。一橋大学法学部卒業、ジュネーブ国際開発研究大学院(IHEID)国際経済学修士号取得。外資系投資銀行などを経て現職。
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