人事は映画が教えてくれる『サバイバー:宿命の大統領』に学ぶオーセンティックリーダーシップ

自らの思い、人間性に徹底して正直であり続けるリーダーこそが人を動かす

w161_eiga_02.jpg【あらすじ】舞台は米国。一般教書演説の最中、連邦議会議事堂が爆破され、大統領をはじめとする内閣や議員のほとんどが死亡した。政府が大混乱に陥るなか、有事に備えて隔離されていた大統領権限継承順位1位の指定生存者、トム・カークマン(キーファー・サザーランド)が、法律に基づいて大統領に就任。しかし、就任早々、米国の混乱に乗じてイランが不穏な動きを見せ、ミシガン州ではテロとの関係を想起させるイスラム系住民への迫害が始まっていた。

『サバイバー:宿命の大統領』は、ある日突然、米大統領に就任することになったトム・カークマン(キーファー・サザーランド)が数々の国家的難局を乗り越えていく姿を描いた米国のテレビドラマです。
物語は、テロ行為によって連邦議会議事堂が爆破されるところからスタートします。大統領をはじめ、上下院議員のほとんどが死亡するという前代未聞の事態に国は混乱します。こういう場合、米国には指定生存者というシステムがあり、指定された閣僚や議員は有事に備えて議会に参加せず、この指定生存者が順位に応じて大統領の任を引き継ぐことになっています。その1番目が住宅都市開発長官であったカークマンでした。
後に「こうなる前は正直名前も覚えていなかった」と首相補佐官が言うほど、カークマンの閣僚としての存在感は薄く、就任当初はリーダーとしての自覚も、周囲や国民に示すビジョンも持ち合わせていませんでした。彼を大統領として認めない人たちも続々と現れます。では、なぜ、カークマンはそんな状況から、大統領としてリーダーシップを発揮するに至ったのでしょうか。
このドラマで示されたカークマンのありようは、オーセンティックリーダーシップというリーダーシップスタイルで説明できます。もともとはハーバード・ビジネススクールのビル・ジョージ教授が提唱したもので、わかりやすく言えば「自分らしさを貫く」リーダーシップのことです。
私は、リーダーシップを「他人に影響力を行使して望ましい行動を起こさせること」と定義しています。つまり、自分自身に成し遂げたいこと、ありたい姿が明確になければリーダーを務めることはできません。
しかし、与えられた権限を強権的に行使するだけでは、周囲はついてきません。そこでリーダーシップの土壌作りとして大切になるのが、メンバーの信頼と安心を得ることです。
リーダーシップ論で知られるジェームズ・M・クーゼス教授とバリー・Z・ポスナー教授は、著書『信頼のリーダーシップ』で「リーダーが信頼されるための4つの条件」として、①正直であること、②前向きであること、③ビジョンを示しワクワクさせてくれること、④有能であること、を挙げています。カークマンは、④に関していうと少なくとも就任時には大統領を務めるだけの能力はありませんでしたし、当初は③も弱かった。しかし、①と②に関しては確固としたものを持っていました。
たとえば、一堂に会した各州の知事が「あなたが大統領にふさわしいかどうか諮問をしたい」と詰め寄る場面。側近たちは、知事に諮問されること自体が大統領の権威に影響するため、断じて応じないように進言します。しかし、自分を大統領と認めない知事たちの気持ちを理解したカークマンは、自分の意志ですべての質問に答えることを決めます。これは非常に難しい決断です。経験も自信もなく、周囲の声に流されてもしかたのない状況だったのですから。しかし、このような局面の数々で自分の思いや人間性に正直であり続けたことが、カークマンのリーダーシップの土台となっていったのです。
カークマンが示したオーセンティックリーダーシップと対照的なのが、従来の主流である、地位や権力で人を動かす権威型リーダーシップであり、人間性を軽視して技術論に走った機能論的リーダーシップです。
この従来型のリーダーシップは、自分を偽り、迎合的に振る舞うリーダーを大量に生み出してきました。しかし、このようなリーダーは周囲の信頼を得ることができません。
シーズン1の最終話、カークマンが自らのビジョンを正直に、明確に語る演説に私たちが感動するのは、今、私たちが求めているリーダー像がそこに表現されていたからではないでしょうか。そう、ようやくオーセンティックリーダーシップを本質的なリーダー論として語ることができる時代が来たのです。

w161_eiga_01.jpg就任後初の議会でカークマンは「我々をつなぐものは国への愛、希望への愛、自由への愛だ」と力強く演説。真摯で率直な言葉が議員たちの心をつかんだ。

Text=伊藤敬太郎 Photo=平山諭 Illustration=信濃八太郎

野田 稔
明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授
Noda Minoru リクルートワークス研究所特任研究顧問。専門分野は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。

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