個人主体の異動や学びの選択は、どこまで広がっているのか ―データで検証する入社後の育成(後編)
前編のコラムでは、「定期異動で人を育てる」という日本型雇用の典型的な人材育成の現状を検証した。本コラムでは、多様な人材の育成および活用のあり方として、個人側にキャリアの主体性を求めて異動先や学ぶ機会の選択肢を渡す「個人選択型の異動や学び選択」の仕組みが、現状どこまで広がっているのかを確認したい。「全国就業実態パネル調査2026追加調査」を活用し、全国の20~59歳で、大学・大学院卒の正社員の実態を見ていく。
社内公募制度が職場にあるのは43.0%
まず、仕組みや制度が職場に導入されているかどうかを確認しよう(図表1)。「本人が応募もしくは希望してそれが通れば異動する仕組み(社内公募制度など)」が職場にあると回答したのは正社員の43.0%であった。比較対象として並べた企業主導の「定期的な人事異動」(57.3%)と約14ポイントの差にまで迫っている。2つの関係性を見ると「定期的な人事異動」も「社内公募制度」も職場にあると回答したのは正社員の32.3%で、「定期異動だけ」あるのは25.0%、「社内公募制度だけ」あるのは10.7%、どちらもないのが32.0%であった。
図表1 職場に仕組みや制度が「ある」割合
「全国就業実態パネル調査2026追加調査」の集計。
集計対象は全国の20~59歳で大学・大学院卒の正社員
社内公募制度の中でも「昇進・昇格」について本人が応募もしくは希望できる仕組みが職場にあるのは22.2%だ。また、多様なキャリアの選択肢として、管理職以外のキャリアの道筋である「専門職としてのキャリアを追求することを認める仕組み」が職場にあるのは27.2%である。
次に、学びの選択肢を見ると、「勤務先の費用負担で、オンライン講座などを自分で選択して学べる制度」が職場にある割合は31.5%であった。
制度があっても経験率は2割弱
では、それらの仕組みはどの程度活用されているのであろうか。仕組みや制度が「ある」と回答した人に、その制度を実際に経験したのかを聞いた(図表2)。まず、異動の社内公募制度を見ると17.6%、昇進・昇格の社内公募制度は17.9%と、ともに2割を切っている。専門職としてのキャリア選択は12.3%とさらに低い。企業主導の「定期的な人事異動」の経験率が70%超であることに比べると、大きな開きがある。
図表2 仕組みや制度を経験した割合(仕組みや制度がある場合を対象)
「全国就業実態パネル調査2026追加調査」の集計。
集計対象は全国の20~59歳で大学・大学院卒の正社員
次に選択型の学び制度について見ると、44.7%と半数近い人が活用している。異動やキャリア選択と比べると利用のハードルは低いものの、制度がありながら生かしている人は半数弱にとどまっているともいえる。
いくら機会を設けたとしても、実際の活用は一部にとどまっているのが現状のようだ。さらに、そもそもの機会が限られていることもあり(図表1)、全体で見れば、個人主体の異動や学びの選択の浸透は、ようやく緒に就いたばかりといわざるを得ない。
長らく企業主導でキャリアや学びの機会を与えられてきた中で、急に「自分で選んでよい」と言われたところで、戸惑ってしまうのではないか。自分の可能性は本人だけでは見えない面がある。主体的なキャリア形成を求めて個人を放置するのではなく、個人の希望や適性を踏まえて適切な選択肢を提示するといった企業の役割が、多様な個人の選択を後押しし、またその可能性を広げるためにも、そして、個人の活躍を願う企業にとっても、ますます重要になるだろう。
萩原 牧子
調査設計・解析センター長/主幹研究員/主幹アナリスト。大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年にリクルートワークス研究所に参画。首都圏で働くひとを対象にした「ワーキングパーソン調査」の設計や、全国の約5万人を対象にした「全国就業実態パネル調査」の立ち上げを経て、2019年から調査設計・解析センター長を務める。個人の就業選択や多様な働き方について、データに基づいた研究、政策提言を行う。公共経済学・労働経済学専攻。専門社会調査士。
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