生え抜きは中途入社者よりも優遇されているのか―役職を用いた分析

孫亜文

2026年09月14日

日本型雇用のもと、新卒から一つの企業で勤め上げてきた「生え抜き」社員と、転職を経て入社した「中途入社」社員の間に、役職や待遇の面で今なお差があると言われる。生え抜きは優遇されている―言い換えると、中途入社者はキャリアの中盤から合流するため、社内の人脈形成や評価の蓄積で不利になりやすい。

では、中途入社者は生え抜きに比べてどの役職に就くのも不利なのだろうか。佐藤(2018)は、ライン管理職への昇進では転職者(中途入社者)が生え抜きより不利になる一方、管理職相当の専門職への昇進では不利にならないことを示している。昇進のルートが異なれば、転職経験の評価も変わるということだ。
そこで本コラムでは、役職を管理職ルートと専門職ルートに分けたうえで、「全国就業実態パネル調査(JPSED)」の11年分のデータを用いて、生え抜きと中途入社者の比率の差を検証する。分析対象者は、大学・大学院を卒業し、初職が正規雇用者であり、現職が民間企業の正規雇用者である20~59歳の男性とする。

中途入社者では「役職なし」が多い

まず、生え抜きと中途入社者の現職での役職分布を比較してみよう(図表1)。「役職なし」の割合を見ると、生え抜きが52.1%であるのに対し、中途入社者は56.0%であり、中途入社者の方が3.8ポイント高い。一方、キャリア初期の役職である「係長・主任クラス」では、管理職ルートでも専門職ルートでも、生え抜きの方が1.5~2.5ポイント程度高い。つまり、入り口の段階では、中途入社者は役職なしにとどまりやすく、初期の昇進機会も生え抜きに比べて得にくい傾向がある。

次に、管理職としての昇進ルートを見ると、「課長クラス」は生え抜き10.4%、中途入社者9.3%と、生え抜きが多く、「部長クラス」では生え抜き3.9%、中途入社者4.6%と、中途入社者が多い。この段階だけを見ると管理職ルートでは「部長クラス」まで進むと逆転するようにみえる。

続いて専門職ルートを見ると、「課長クラス」では、生え抜き3.7%、中途入社者3.7%とほとんど差がない。ところが「部長クラス」まで進むと、生え抜き1.1%に対し中途入社者1.7%と、中途入社者の方が明確に多くなる。絶対値としては小さいものの、生え抜きの1.5倍程度の水準であり、専門職ルートでも上位では中途入社者が優位に転じているとみられる。

図表1 現職の役職の分布(生え抜き・中途入社者別)図表1 現職の役職の分布(生え抜き・中途入社者別)

(注)「全国就業実態パネル調査」2016~2026の11年分を用いて集計。各年のウェイトバック値を使用。小数第2位で四捨五入した数値で表示しているため、割合の差と差分が一致しない場合がある

専門職ルートでは部長クラスへの到達確率が逆転

これまでの比較は、企業規模や業種、職種の違いを均していない。そこで、年齢・週労働時間・企業規模・業種・職種の条件を揃えたうえで、中途入社者であることが役職の到達確率にどう影響するかを分析した。図表2は、生え抜きと比べたときに中途入社者では、その役職への到達確率がどれだけ変化するのかを示しており、正であれば、中途入社者の方がその役職への到達確率は高く有利であり、負であれば中途入社者の方が不利であると解釈できる。

図表2 生え抜きと中途入社者の各役職カテゴリへの到達確率の違い図表2 生え抜きと中途入社者の役職カテゴリへの到達確率の違い

(注)「全国就業実態パネル調査」2016~2026の11年分を用いて分析。結果はロジット分析による限界効果であり、すべて統計的に有意である

分析結果から、次の3つの傾向が確認できた。

第一に、入り口の段階での不利は、条件を揃えても残ることだ。「役職なし」については、中途入社者は生え抜きに比べて8.7ポイント高く役職なしにとどまりやすいという結果になった。たとえば、条件が同じ100人ずつの生え抜きと中途入社者を比べると、中途入社者の方が約8~9人多く役職なしのままである、という規模の差である。「係長・主任クラス」への初期登用でも、ルート問わずおよそ3.2~3.6ポイントの不利がみられ、キャリア初期の昇進機会が中途入社者にとって狭いことがうかがえる。

第二に、管理職ルートでは、条件を揃えても中途入社者にとって不利が残ることだ。「課長クラス」では中途入社者が1.2ポイント低い確率で登用されており、統計的にも有意な差が続いている。「部長クラス」まで進むと、この差は0.4ポイントまで縮小するものの、依然として統計的に有意な差が続いている。図表1の単純集計では中途入社の方が多かったが、条件を揃えると見かけの優位性は消え、むしろ中途入社者の方が登用されにくい実態が明らかになった。

第三に、専門職ルートでは、この不利が上位にいくほど解消し、「部長クラス」では逆転することだ。「課長クラス」では差が0.4ポイントへと縮小し、「部長クラス」ではむしろ中途入社者の方が有意に高い確率(+0.2ポイント)で登用されている。専門性を評価される立場では、中途入社者であることがマイナスに働かないばかりか、プラスに働く場合すらあるのかもしれない。

役職はルートによって中途入社者の評価が分かれる

これまでの結果を整理すると、中途入社者が役職面で一律に不利であるとは言い切れない。不利が明確に残るのは、キャリアの入り口(役職なしおよび係長・主任クラス)と、管理職ルートの課長クラスである。一方、専門職ルートでキャリアを積む場合、その不利は上位の役職に近づくほど解消し、部長クラスではむしろ中途入社者の方が若干優位になる様子が見てとれた。

この結果は、生え抜きと中途入社者が、社内で異なるキャリアパスを歩んでいる可能性を示唆している。生え抜きは管理職としての育成・登用が前提とされやすく、中途入社者は専門性を評価されるルートで力を発揮しやすいのかもしれない。あるいは、中途入社者自身が、専門性を軸にキャリアを築く選択をしている可能性もある。本コラムの分析から、「生え抜きは優遇されている」という一般的なイメージは解像度が粗いことが分かった。キャリアのどの段階にいるのか、そして専門職か管理職かというルートによって、実態は異なる。

参考文献:
佐藤香織(2018)「企業内労働市場における転職と昇進の関係」日本労働研究雑誌 60(6), 80-97頁.

孫 亜文

一橋大学経済学研究科博士後期課程修了。2015 年にリクルートワークス研究所へ入所。2016年3月一橋大学博士号(経済学)取得。全国就業実態パネル調査(JPSED)に立ち上げから参画し、以降毎年の調査設計、実施運営、集計分析を担当する。働き方の定点観測「Works Index」レポートの発行や、JPSEDデータ分析を基に社会人の学び・シニアの就労・ハラスメント・副業・労働移動といった幅広いテーマの研究に携わる。